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『BLUE GIANT』石塚真一と須川崇志が考えた、楽器から入るジャズ講義〜BASS編〜

  • 2024.10.29
タムラフキコ イラスト

先生:須川崇志(ベーシスト)

グルーヴと調和を司(つかさど)るウッドベース

須川崇志

最初のベース体験は高校の友達と組んだバンドで弾いたエレキベースです。もっとうまく弾きたくて、好きな人のルーツを探り始めたところ、みんなジャズの人に影響を受けているらしいって気づいたんです。特に、レッチリのベースのフリーも影響を受けたというジャコ・パストリアス。ジャズは楽器を極めている人たちの世界なんだ……って。

石塚真一

ベースは包容力がありますよね。頼れる保護者みたいな。

須川

はい、すごくレンジが広い楽器で、めちゃめちゃ低い音も出るんですけど、実は高い音も出る。低音で下から支えつつ、ハーモニーも作っていく役割はベースならではです。あと、サッカーのボランチみたいな立ち位置だとも思います。

表立ったことはしないけど、シュートを決める人を徹底的にサポートする。ソロをとるトランペットの前にシャーッとレッドカーペットを敷いて「さあ、好きに歩いて!」って言うような。

ドラムやピアノとのコール&レスポンスを聴け

石塚

ベースはソロもいいですよね。

須川

僕がのめり込んだのはミロスラフ・ヴィトウス。ベースって後ろでビートをボンボン刻んでるイメージがあると思いますが、全然そうじゃない。前に出て果敢にソロをとってくるのがカッコいいんです。

石塚

須川さんもそういう奏者?

須川

たぶん。ベースは技術やスケールに走りがちですが、歌心があるように弾きたいと思っています。そして、ベースはバンドという暖炉に薪をくべていく役割なのですが、どこかで「焦げるくらい燃やしてやろう」って思いもある。ジャズが自動操縦みたいになってしまうと本当に面白くないので、「あえてマニュアルモードにしませんか?」って。

石塚

そういうセッションではやっぱりドラムとの関係性が深いですか。

須川

はい。まずドラムがライドシンバルでチッチッチッってリズムを刻みますよね。これにベースのビートを合わせるんです。一方でスネアのビートはピアノと呼応する。ベースとシンバル、ピアノとスネアでコール&レスポンスしているんです。

石塚

えー、そうなんだ、面白い!

須川

だからビート感の共有が大事。ベースの音がボンって立ち上がってから減衰して消える。シンバルの音が立ち上がって消える。その「立ち上がり」じゃなくて「消えていく方の音や長さ」で合わせると気持ちいいんです。そしてベースとピアノではハーモニーのやりとりが大きい。ピアニストが曲の途中でちょっと違うコード展開を持ってきた時、それを後押ししたり崩したり、瞬間的に反応して組み立てるのがベースです。

石塚

ちなみに、重い音が良い音?

須川

いえ、軽くても良い音はあって、大切なのは楽器が良く鳴っているかどうか。だから指先で弾くのではなく体全体を使って鳴らすことが大切ですし、楽器もできれば木のボディを使った生楽器がいい。始めるなら中古も扱うコントラバス専門の楽器店に相談するのがおすすめです。

石塚

では練習法のおすすめは?

須川

誰かと合わせること。ベースは弦を押さえる目安がないので、正しいピッチで弾けるようになるまで時間はかかる。練習していると孤独にもなります。でも、人と合わせると全部報われるんですよ。人と演奏してこそ楽しいと思える楽器なので。

ベースラインに惚れるプレーヤーたち

George Duvivier『After Hours』
ボーカル、ベース、ギターによるサラ・ヴォーンのアルバム。「6曲目『Great Day』のベースがまさにレッドカーペット的演奏。ベースラインが良いと歌も気持ちよく歌える。バンドをグルーヴさせる力量に憧れます」(須川)
oslav Vitouš『Oceans in the Sky』
「ピアニスト、スティーヴ・キューンのアルバム。ミロスラフ・ヴィトウスのベースが素晴らしく、4曲目の『Dò』では、果敢にアプローチするソロが味わえる。歌うようなベースラインが絶品で、鳥肌が立ちます」(須川)
Andy Simpkins『Blue Genes』
ピアノトリオ、スリー・サウンズのアルバム。「聴きどころはアンディ・シンプキンスのベース。ジャズベースの基礎中の基礎、2ビートのフィールが最高で、ご機嫌な演奏です。推し曲は1曲目の『Mr. Wonderful』」(須川)

profile

音楽家・須川崇志

須川崇志(ベーシスト)

すがわ・たかし/群馬県生まれ。11歳でチェロ、18歳でコントラバスを始める。バークリー音楽院卒業後、ニューヨークへ移住。帰国後は日野皓正バンドにも参加。現在は林正樹、石若駿との〈Banksia Trio〉を主宰。

profile

漫画家・石塚真一

石塚真一(漫画家)

いしづか・しんいち/1971年茨城県生まれ。サックス奏者の宮本大を主人公にした大人気ジャズ漫画『BLUE GIANT』(小学館『ビッグコミック』でニューヨーク編が連載中)は2023年にアニメ映画にもなった。

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