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「人はなぜ山に登るのか?」はよく分からないが、漫画『山を渡る』を読むと「登山の魅力」はよく分かった

  • 2024.11.1

こんにちは、Togetterオリジナル編集部のToge松です。ときどき漫画の記事を書いてます。

みなさんは「登山漫画」と聞くと、どんな作品を思い浮かべるだろうか。何しろ名作が多い。『神々の山嶺』『岳』『孤高の人』『山と食欲と私』『ヤマノススメ』など、いろいろな作品が挙がるに違いない。

これは完全に持論だが、私は「登山漫画にハズレなし」と思っている。

登山漫画は山や風景を描写するスキルに加え、山と向き合う人々が織りなすドラマ、危険と隣り合わせの緊張感…と、作品を描くために相応の漫画力が求められる。

そのため漫画力の高い作家が描く→結果的に「どれも面白い」という好循環となっているのではないだろうか。やや無理のある仮説ではあるが、今回紹介する登山漫画もめちゃくちゃ面白いのでおすすめしたい。

空木哲生さんがハルタ(KADOKAWA)で連載中の『山を渡る -三多摩大岳部録-』である。

第1巻。Amazonより
※本記事は、作品に関するネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。
出典:Togetterオリジナル

読めば自然と「山が好きになる」漫画

KADOKAWAが運営している「カドコミ」で第1話が無料公開されているので、気になる方は読んでほしい。

『山を渡る』はタイトルからも連想されるとおり、「縦走登山(山から山へ登ること)」がメインテーマだ。

舞台は「三多摩大学」という架空の大学。登山未経験の新入生3人が「山岳部」に入って、先輩たちの手ほどきを受けながら山の知識を学び、縦走登山へとチャレンジしていく物語となっている。

縦走登山がテーマと聞くと、山の知識がないと読むハードルが高そうに思えるが、まったく身構える必要はない。

ストーリーは新入生と同じ視点で進行するので、山に登るための道具選びや体力づくり、山での歩き方や心構えなど、必要な知識を1つずつ学ぶことができる。

何しろ「部室に眠っていたボロボロの雨具を補修して着れるようにする」だけで1話を費やす徹底ぶりである。むしろ山への興味が高まって「自分も登ってみたい」とワクワクしてしまうだろう。

イギリスの登山家、ジョージ・マロリーは「なぜ山に登るのか?」の問いに「そこに山(エベレストの意)があるからだ」と答えたそうだが、『山を渡る』を読んでいると「登山の魅力」が何となく分かる気がするのだ。

運動が苦手でも「山登り」はできる

ストーリーも胸アツな展開だ。今回は主人公の一人、新入生の南部真菜のエピソードを少し紹介したい。

南部は子どもの頃から身体が弱く、小柄で運動は大の苦手。彼女が山岳部を入部したのは、「山登りは競争とかノルマがない」と聞いて「私にでもできるかも」と思ったからだった。

だが、入部に際して山岳部の先輩から聞いた登山の実態は、想像以上にハードで危険を伴うものだった。南部は「場違いだった…」と選択を後悔してしまう。

第2巻。中央にいるメガネの女の子が南部。Amazonより

彼女のエピソードでは、こうした小さな身体であるがゆえの葛藤や悩みを描いたシーンがよく出てくる。

たとえば第2話では、南部たちは体験入部で高尾山を登ることになる。東京都八王子市にある高尾山の標高は599m。初心者でも登りやすいとして人気の高い山だが、南部にとっては大変な道のりだ。やる気はあるものの身体がついていかない。

南部の頭の中では「私はいつもそうだ」「悩んで悩んでヘトヘトになって 最後は道を引き返す」という言葉が浮かんでしまう。

先輩たちのアドバイスを受けて山頂に無事たどり着くことができたが、その後も南部は「自分はみんなと同じことができない」と現実を突きつけられるたび、落ち込んでしまう。

一方で、こうした南部を見守る他の山岳部メンバーの眼差しがとても素敵だ。とくに第5巻では、山岳部の監督・安達が「葛藤してそれでも山に向かう者は強い」と南部を評価するシーンがある。

ネタバレが過ぎるので皆までは言わないが、個人的に作中で一番好きなシーンなので、ぜひ読んでほしい。

第5巻。Amazonより

10月15日に発売された第7巻では、前巻から挑んでいた北アルプスの夏合宿がいよいよ佳境を迎える。黒部源流域へと足を踏み入れた南部たちのチャレンジは危険度を増し、山の厳しさを身をもって味わうことになる。

これを読んで少しでも作品に興味を持ってくれたなら、南部たちの冒険と成長を一緒に見守ろうではないか。

最新第7巻。Amazonより

文:Toge松 編集:Togetterオリジナル編集部

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