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住宅ローン金利の上昇でリスク高まるタワマンパワーカップルの代わりに登場した「パワーファミリー」の正体

  • 2024.10.27

住宅市場では、夫婦ともに高額所得のパワーカップルが注目されてきたが、少ない頭金で購入しているケースが多く、金利上昇で危うさが増している。今後、高額物件は売れなくなってしまうのか。住宅ジャーナリストの山下和之氏は「パワーカップルへの不安が高まる中で住宅業界が期待しているのは“パワーファミリー”。2億円クラスの物件をラクラク購入できるケースも多く、今後の不動産価格を支える可能性がある」という――。

新しい家を眺めている家族
※写真はイメージです
パワーカップルが住宅価格の高騰を下支え

住宅価格、とくに首都圏の新築マンションを中心とする価格の高騰が続いている。高くなり過ぎて、平均的な会社員では購入が簡単ではなくなっているため、住宅市場では夫婦共働きで世帯年収の高い、いわゆるパワーカップルの存在が注目されている。

リクルートのSUUMOリサーチセンターの調査によると、図表1にあるように首都圏で新築マンションを買った人全体の共働き率は58.6%だが、既婚世帯でみると75.3%、夫婦のみの世帯では89.8%に達している。新築マンションにおいては、夫婦のみのパワーカップルが主役になっているといっても過言ではない。

世帯総年収をみても、図表2にあるように契約者全体では1057万円なのが、共働き世帯では1126万円に増え、共働き世帯のうち世帯総年収が1000万円以上の世帯の平均は1397万円となっている。

購入価格も契約者全体が6033万円なのに対して、共働き世帯は6303万円で、世帯年収が1000万円以上の世帯では7147万円となっている。それ以上の億ションを購入するパワーカップル、2億ションを買うパワーカップルも少なくないといわれている。

パワーカップルが新築マンションの価格高騰を下支えしている観さえある。

【図表】共働き比率の推移(単位:%)
出典=「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」/リクルートSUUMOリサーチセンター調べ
【図表】ライフステージ別世帯総年収と購入価格(単位:万円)
出典=「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」/リクルートSUUMOリサーチセンター調べ
金利上昇で危うさが増すパワーカップル

しかし、このパワーカップルの購入には、危うさが潜んでいる。先のSUUMOリサーチセンターの調査によると、新築マンション契約者全体の自己資金比率は21.7%に対して、共働き世帯では13.2%に低下し、なかでも共働きで世帯年収1000万円以上の世帯では9.9%と1割を切っているのだ。

これでは、夫婦どちらかがケガや病気になったり、リストラなどに遭ったりすれば、たちまち返済が困難になり、ローン破綻に陥るのではないだろうか。自己資金を2割以上入れていれば、物件価格が多少下がっても、売却すればローン残高を一掃することができる可能性が高いが、1割以下ではそうはいかないことが多い。売却可能価格以上のローン残高が残っているので、売るに売れず、といって一人の収入ではとても返済できる金額ではないので、返済の延滞から、最悪の場合、競売に付されてしまうことになる。

まして、2024年秋に至って、住宅ローン金利の本格的な上昇が始まっていて、リスクはますます高まっている。パワーカップルへの不安は尽きない。住宅ローンを融資する銀行のパワーカップルに対する審査も厳しくなるのではないだろうか。

不動産価格の上昇のイメージ
※写真はイメージです
注目度高まる“パワーファミリー”とは

住宅業界としては、いつまでもパワーカップルの存在に依存しているわけにはいかないわけだが、そんななかで注目されているのが、“パワーファミリー”だ。大手不動産会社の社長は“パワーファミリー”についてこんなふうに語っている。

「共働きではないが、優良企業の管理職などとして高い年収を得ており、若いうちに通勤に便利な場所でマンションを購入していて、そのマンションの資産価値が大幅に上昇している。それを売却して、一回り広いマンションに、よりグレードの高いマンションに買い替えが可能になっている。なかには、2度の買い替えを行う人や、子どもの成長などに合わせて、2台のクルマを停めることができるゆとりある戸建住宅への買い替えを行う人もいる」

手持ち物件の売却によって自己資金が豊富なので、パワーカップルのように自己資金が1割以下といったリスクはなく、自己資金割合が5割を超えることもあるので、金融機関は積極的に融資してくれる。不動産会社としても、審査にひっかかるリスクがないので、安心して買い替えを進めることができるわけだ。

都心5区のマンションは10年で2倍以上に

国土交通省が毎年住宅を取得した人たちを対象に実施している「住宅市場動向調査」の最新版、令和5年度版によると、初めて新築マンションを取得した一次取得者の自己資金割合の平均は41.0%に対して、買い替えなどの二次取得者の平均は72.8%となっている。

買い替えでは7割以上の自己資金を用意しているので、ゆとりを持って資金計画を組むことができ、返済にも余裕があるはずだ。

その背景には、住宅市場における中古マンション価格の高騰が挙げられる。特に、首都圏、なかでも東京都、わけても東京23区、都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)の高騰が著しい。

マンション情報の「マンションレビュー」を運営するワンノブアカインドの調査によると、図表3にあるように、都心5区では、10年前に比べての騰落率が107.7%であり、10年間で2倍以上に高騰していることになる。5年前に比べても60.0%だから、高額で売却してステップアップすることが可能になる。

【図表】東京都のエリア別中古マンション価格騰落率(単位:%)
出典=ワンノブアカインド「マンションレビュー」
高額で売却してゆとりの買い替えへ

そこで、10年前に買ったマンション価格が、いま2倍に上がっているエリアでの買い替えを行うケースをシミュレーションすると、次のようになる。

10年前に都心5区の5000万円の中古マンションを、自己資金1000万円、住宅ローン4000万円で購入、全期間固定金利型の1.66%の金利でローンを組むと、図表4にあるように毎月返済額は12万5632円で、10年後の現在の残高は約3083万円になっている。

そのマンションを購入価格の2倍の1億円で売却するとすれば、ローン残高の約3083万円を一括返済して、売却にかかる諸費用などを考慮しても、手元に6500万円ほど残るので、手持ち資金500万円を加えることができれば7000万円の自己資金になる。

新たに8000万円のローンを組んで、1億5000万円のマンションを購入する場合、毎月返済額は変動金利型で約20万円になる。今後は金利が上がりそうなので、1.79%の全期間固定金利型にすれば、約26万円だ。

毎月返済額は大幅に増えることになるが、優良企業に勤務していれば、10年前に比べると地位も向上、年収も増えているはずだから、さほどの負担過剰にはならないだろう。

【図表】10年前に都心のマンションを買った人の買い替え
買い替えなら都心の戸建住宅の購入も可能?

現在の金利で返済負担率を多くの銀行が審査基準の上限としている35%で試算すると、借入可能額は図表5のようになる。年収500万円だと、全期間固定金利型では4550万円のローンが限度だが、年収1000万円になると、9100万円に、年収1500万円では1億3650万円に、年収2000万円だと1億8200万円に増える。

多少のリスクは覚悟で金利の低い変動金利型にすれば、借入可能額はもっと増えて、年収2000万円なら2億円を突破する。これに、売却によって得られる代金を自己資金に加えることができれば、かなりの高額物件の購入が可能になる。先の不動産会社の社長がいうように、マンションだけではなく、戸建住宅を都心近くに取得することもできるはずだ。

これからの住宅市場において、“パワーファミリー”への期待が高まるのも納得できるのではないだろうか。

【図表】年収別借入可能額
筆者作成
“パワーファミリー”が価格上昇を下支え?

もちろん、若いうちには都心のマンションを買うことができなかった人もいただろうが、それでも、東京23区であれば、先の図表3にあるように、10年前との騰落率は50%前後から60%台となっていて、大幅に資産価値が高まっている。都心5区ほどにはいかないにしても、買い替えには十分な価格上昇ではないだろうか。

マンション価格などは、高くなり過ぎていて、平均的な会社員では手が届かなくなりつつあるので、そろそろ頭打ち、横ばいから下落に向かうのではないかという観測(期待?)もあるが、期待はずれになるかもしれない。

パワーカップルだけではなく、この“パワーファミリー”が住宅市場に加わることによって、上昇一途の価格を下支えすることになり、当分の間上がり続けることになるのかもしれない。“パワーファミリー”を提唱しているのは大手不動産会社の社長だから、価格上昇を擁護する立場だけに、眉に唾つけて聞いたほうがいいのかもしれないが、さてどうだろうか。

山下 和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本の取材、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活動。著書に『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』『よくわかる不動産業界』など。

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