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IQとは独立した人間の新たな才能、物体認識能力「o」とは?

  • 2024.10.26
Credit: canva, ナゾロジー編集部

「IQ」はいまいちな人も「o」は天才的かもしれません。

米ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)による2018年の研究で、人間にはIQとは独立した「o」と呼ばれる新たな才能が存在することが示されました。

「o」は物体認識にかかわる才能であり、この能力に秀でている人はX線画像から小さな腫瘍を特定したり、複数の画像から仲間外れを探すなど、視覚情報に基づいて正しい判断を行う能力に優れているとのこと。

また「o」の才能はかなりの部分が生まれつきのものであり、努力によって補うには限界があるようです。

記事の最後には「o」の才能を測定する簡易なテストも紹介しているので、興味がある人は試してみてください。

もしかしたら隠れた才能が見つかるかもしれません。

目次

  • 人間の新たな才能「o」とは?
  • 頭の良さと物体認識能力は関係ない
  • 物体認識能力の簡易テスト(無料)を受ける方法

人間の新たな才能「o」とは?

私たち人間にはそれぞれの個性があり、性格や知能はかなりバラツキがあります。

その一方で、物体を認識する能力についてはこれまで、それほど差があるとは思われていませんでした。

多くの人々は信号機や交通標識の認識に苦労することはなく、友だちの顔と見知らぬ人の顔も簡単に見分けることができます。

スーパーに買い物に行く場合でも、ブロッコリーとカリフラワー、レタスとキャベツの違いがわからなくなることもないでしょう。

そのため、人々は他の人も自分と同じように世の中の物体を認識していると信じていました。

しかし近年の研究によって、差がないと思われていた物体認識能力には、想像以上に個人差が存在しており、さまざまな仕事の成績に影響を及ぼす「共通因子」として働いている可能性が示され始めたのです。

例えばある研究では、バードウォッチングの得意な人は胸部X線画像から腫瘍を見つけるのが得意であり、楽譜をすばやく読める人は複数のパエリア料理の写真の中に紛れ込んだピザの写真をすばやく見つけられるなど、料理を認識する能力にも優れていることが報告されました。

人間には「o」と呼ばれる新たな「物体認識の才能」があると判明!
人間には「o」と呼ばれる新たな「物体認識の才能」があると判明! / Credit:Isabel Gauthier, CC BY-ND

鳥と腫瘍、楽譜と料理は互いに異なるものですが、基礎となる物体認識能力に優れた人は、どちらの検出も得意だったのです。

また別の246人を対象にした調査では、コンピューターによって生成された全く新規の6系統の画像(参加者も今まで見たことないような画像)を使って、そこに映る物体の形状を記憶・認識する能力を調べました。

するとある系統の物体に対して高い認識能力を持つ場合、他の系統の物体にも高い認識能力を発揮することが判明したのです。

これらの結果をまとめると、次の図のように表すことが可能になります。

基礎となる物体認識能力「o」を考慮に入れない場合
基礎となる物体認識能力「o」を考慮に入れない場合 / Credit: canva, ナゾロジー編集部
基礎となる物体認識能力「o」を考慮に入れる場合
基礎となる物体認識能力「o」を考慮に入れる場合 / Credit: canva, ナゾロジー編集部

鳥・腫瘍・楽譜・料理を認識する能力は知識や訓練の影響を受けており、鳥類学者や医師、ピアニスト、料理研究家であれば、自分の専門とする対象をよりよく認識することが可能です。

ですが同時に、私たちには基礎となる「物体認識能力」が存在しており、経験によるボーナスは基礎能力の上に追加される形で存在しているのです。

(※経験の差がない初めて見る物体の認識能力は基礎能力に一致すると考えられます)

そこで研究者たちは、この基礎となる「物体認識能力」を特別に「o」と呼ぶことにしました。

つまり、鳥を見つけるのが上手い人は基礎となる「o」のポテンシャルが高いために、腫瘍も上手く認識できていたのです。

同様に「o」の才能に恵まれている人の場合、楽譜の読み込みも料理の間違い探しも得意となります。

また新規の物体を対象にして個人の「o」の才能を比較したところ、IQテストの結果と同じくらい個人差のバラツキが存在することが判明しました。

さらに様々な物体認識にかかわるテストを行った場合、個人の成績の89%が「o」の才能によって説明できる(支配されている)ことが示されました。

似たような結果は知能にかかわる分野でも見られます。

これまでの研究によって、記憶力が高い人は数学・言語能力が高い傾向があることが知られています。

そのため知能にかかわる分野の才能には「g」と呼ばれる基礎となる因子が存在しており、各分野の能力は「g」に加算される形で存在していると考えられています。

(※「o」は基礎となる知能因子「g」をリスペクトする形で名付けられたという経緯があります)

基礎となる知能因子「g」を入れない場合
基礎となる知能因子「g」を入れない場合 / Credit: canva, ナゾロジー編集部
基礎となる知能因子「g」を入れる場合
基礎となる知能因子「g」を入れる場合 / Credit: canva, ナゾロジー編集部

また「g」の値は「IQ」と高度に相関(相関係数0.79)していることも知られています。

そうなると気になるのが知能と物体認識能力の関係です。

「g」や「o」はそれぞれの分野に属する能力の基礎となりますが、「IQ」と「o」の2つには何らかの相関関係があるのでしょうか?

頭の良さと物体認識能力は関係ない

「知能の高さ(IQ)は物体認識能力(o)の高さと相関関係にあるのか?」

この謎を解明するために行われたある研究では、IQや学力は、新規の物体を認識する能力には関連しないことが判明しました。

また物体認識能力の基礎「o」と知能の基礎「g」を比較した研究でも、両者が無関係であることが示されました。

この結果は知能や学力が優れていたとしても、基礎となる物体認識能力「o」が優れているとは限らないことを意味します。

そのため研究者たちは「知能や学力が高い学生を医学部に入れて医者としての訓練を行ったとしても、X線画像から腫瘍を見つけるために必要な物体認識能力までもが保障されているわけではない」と述べています。

極端な例を挙げるとすると、医者として最高の知識と技術を持っていても基礎となる物体認識能力「o」が悲惨な数値の場合、腫瘍を見逃し続けるヤブ医者になる可能性があるかもしれないのです。

頭の良さと物体認識能力は関係ない / Credit: canva

個人のある能力が生まれつき決定されるという事実は、一部の人々にとって不快に感じられるかもしれません。

しかし研究者たちは、生来の才能によって開かれる扉の数が違うという事実は受け入れる必要があると述べています。

生まれもっての才能を軽く扱い、育った環境や個人の努力を過度に重視することは、人間を不幸にするからです。

逆に自分が持っている才能を見極め、自分が最も得意とする分野で努力することができれば、よりよい生活を送れるでしょう。

なお男女で物体認識能力「o」を比較したところ、いくつかのジャンルでは経験の差によって違いが見られましたが、基礎となる「o」のレベルに差はないことが判明しています。

では最後に、物体認識能力「o」を判定する簡易なテストを受ける方法を紹介します。

自分のIQスコアを測定したことがある人は多くても「o」を測った人は少ないはずです。

物体認識能力「o」の簡易なテストは現在ネット上で公開されており、誰でも無料で行うことができます。

物体認識能力の簡易テスト(無料)を受ける方法

物体認識能力「o」をテストするには、こちらの『専用のページ』にアクセスする必要があります。

テストでは5種類の課題が与えられ、それぞれの課題ではまず「学習」すべき画像が表示され、次に「学習」した内容に一致する画像を選択します。

問題文は英語なので、下の解説を参考にして遊んでみてください。

1番目の課題では、正常な細胞とがん細胞の画像の例がいくつか提示され、次にがん細胞のみを選択するように求められる問題に移ります。

1番目は参考画像をもとに、正常な細胞とがん細胞をみわけるテストです
1番目は参考画像をもとに、正常な細胞とがん細胞をみわけるテストです / Credit:Isabel Gauthier

2番目の課題では、覚えておくべき3つの像が10秒間提示され、次に覚えた像と一致するものを選んでいきます。

2番目は3つの像を記憶して、続いて提示される画像の中に同じものがあるかを探します
2番目は3つの像を記憶して、続いて提示される画像の中に同じものがあるかを探します / Credit:Isabel Gauthier

3番目の課題では、覚えておくべき飛行機が数秒間提示され、次に覚えた飛行機と同じものを選ぶテストが何回か連続で繰り返されます。

3番目は提示された飛行機と同じものを選ぶテストです
3番目は提示された飛行機と同じものを選ぶテストです / Credit:Isabel Gauthier

4番目の課題では、4種類の料理の中から自分が仲間外れだと思うものを選ぶように求められます。

4番目は4つの料理の中から仲間外れを選ぶものです
4番目は4つの料理の中から仲間外れを選ぶものです / Credit:Isabel Gauthier

5番目の課題では、4体のロボットが数秒間提示され、その平均的なイメージを6つのロボットの中から選びます。

5つ目は提示された4体のロボットの平均を予測して、続いて提示される6体の中から選びます
5つ目は提示された4体のロボットの平均を予測して、続いて提示される6体の中から選びます / Credit:Isabel Gauthier

提示される4体のロボットは同じものが複数含まれる場合があります。

そして5つの課題が終わると結果が表示されます。

成績は下から9%の位置で、物体認識能力が「ガバガバ」だった
成績は下から9%の位置で、物体認識能力が「ガバガバ」だった / Credit:Isabel Gauthier

結果はこのテストを行った最初の100人と比べて、自分が下から何%の位置にいるかが記されます。

上の画像では下から9%である様子が示されています。

暇な時間があるなら、試してみるといいかもしれません。

もしかしたらとんでもない才能が隠れているかもしれませんね。

※この記事は2022年7月に掲載したものを再編集してお送りしています。

参考文献

Scientists Have Measured a Perceptual Ability Called ‘O’. How Good Is Yours?
https://www.sciencealert.com/scientists-have-measured-a-perceptual-ability-called-o-how-good-is-yours

元論文

Domain-Specific and Domain-General Individual Differences in Visual Object Recognition
https://doi.org/10.1177/0963721417737151

Both fluid intelligence and visual object recognition abilityrelate to nodule detection in chest radiographs
https://doi.org/10.1002/acp.3460

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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