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「スマホ時間を減らしたくても、今の世の中では到底できない」──72時間のスマホ断ちを経て得た気づき

  • 2024.10.26
Fashion Photo Session In Paris - October 2022

それはザグレブ行きの飛行機に乗っているときに起こった。スマホの調子が突然悪くなり、そして完全に落ちた。必死に画面をタップしてみても反応は一切なし。「まあ、いいか。こういうこともある」と思い、スマホをしまった。だがそう思えたのも束の間。次の瞬間、自分が今置かれている状況に気づいた。スマホがなければ搭乗券も、メールも、銀行アプリも、連絡先も、地図も見られない。ウーバーも呼べないし、時間を確認する方法すらない。スマホなしでは、私は何ひとつできない。おまけに知らない国に向かっている。クロアチアで72時間、スマホなしで過ごそうとしていたのだ。

このままどうやって旅をすればいいのだろうと、最初の12時間はパニックに陥った。幸いにも親戚と一緒にいたので、代わりに私のパートナーに連絡をとってもらい、どうにか私のメールアカウントにアクセスして帰りの搭乗券を出してもらうことができた。とりあえず、3日後の帰国便には無事に乗れそうだ。それからいろいろなところから当面のお金を借りたので、無一文にはならずに過ごせる。それでも72時間、スマホが使えないのには変わりない。この小さな端末なしで過ごす期間としては、少なくともこの10年間では最長だ。スマホをなくしたことのある人ならわかるだろうが、スマホなし生活というのは禁煙に似ている。とにかく手持ち無沙汰で、ただ何かを感じたくて、無心で真っ黒な画面を押していた。

覚えたのはマインドフルネスではなく、世界のあり方に対する不安感

Street Style - Paris Fashion Week - Womenswear Spring/Summer 2025 - Day Nine

私たちがどれほどの時間をスマホに費やしているかはすでにご存知だろうが、最近のある統計による結果をざっくりまとめると、私たちは1日に平均58回もスマホをチェックし、1日あたりの平均使用時間は約4時間37分だそう。これは1週間のうち丸1日以上スマホを見ている計算だ。iPhoneが広く普及し始めた2010年代前半頃、誰もがスマートフォンの使用について懸念を抱いていた時期があったような気がするが、近年はテクノロジー依存症をめぐる議論はやや下火になっている。しかし、それは決して気にならなくなったからではなく、遅すぎるからだ。今や10歳の子どもでさえiPhoneを持っていて、スマートフォンはいつもそばにいる相棒となった。その使用を広範囲にわたり、本当に意義ある形で抑制しようとするのは限りなく不可能に近い。

ここで話をザグレブに戻そう。帰国の段取りがつくと、私はリラックスしてスマホのない新しい世界を楽しもうとした。言うまでもなく、落ち着かなかった。ひとりになるたびに、いつもならスマホをチェックするのだが、代わりにただぼーっと宙を見つめた。気に入ったものがあっても写真を撮ることができず、記憶に焼きつけるしかなかった。ニュースを見られないので、世の中で何が起こっているのかも、誰が私にコンタクトを取ろうとしているのかもわからずウズウズした。寝る前、いつもならTikTokをだらだらと見ているが、ただ目を閉じて、自分のその日の思い出などを振り返るしかなく、ポッドキャストも聴けなかったのでただ考えごとをした。

しかし、2日目には意外と慣れてきた。人間の適応力は驚くべきもので、程なくして私は読書や美術館巡りといったほかのエンターテインメントを見つけるしかないという事実を受け入れ、食事のときは目の前に出された料理をじっくり味わうことに徹した。この頃、今まで埋もれていた本当の自分を発見し、よりマインドフルな生き方を学んだと言いたいところだが、実際はそうではない。スマホが本当に恋しかった。でも、メンタル面はさておき、少なくとも脳と体はスマホを常に肌身離さず持っていなくてもやっていけるということを知り安心した。

頼りないものに頼っている現代の生活

Street Style - Day 3 - Copenhagen Fashion Week SS25

それより何倍も大変だったのは、自分の周りの世界を渡り歩くことだった。今の世の中はスマートフォンがあることを前提として成り立っている。スマホがなければタクシーを拾うのも一苦労で、地図アプリなしでは正確な目的地さえわからない。私のように2段階認証を使っている場合、すべてのアカウントからロックアウトされ、お金をちょっと送金するためだけにも銀行に足を運ばなければならない。私たちの日常生活の大部分が、いつ壊れてもおかしくない、この小さなデジタル端末に依存しているというのは恐ろしいことだ。そしてスマホの不具合は怖いくらい頻繁に生じる。

電車に乗るときは紙の切符を買い、一番簡単なルートを覚えて帰るしかなかった。自分以外はスマホを頼りに移動しているという点を除けば、私が想像する90年代の暮らしを少し体験できた気がする。一度も足止めを食らうことはなかったが、もし知らない場所に取り残されるような事態に陥っていたら、スマホを持っていなかった私はどうしただろう。

翌朝、私はiPhoneを購入し、一瞬にして再び世界とつながれた。それまでスマホ断ちを72時間させられてたものの、使用時間を減らすことで何か大きな気づきを得ることはなかった。それどころか、もっとスマホを見たいと思ってしまった。いろいろなことをググったり、ネットに漂う無意味な情報を吸収したり、スマホでできるあらゆることに飢えていた。

3日間のスマホなし生活を経て残ったものといえば、奇妙な後味だけだ。スマホに費やす時間を減らしたいと思っても、今の世の中では不可能に限りなく近い。日常生活を滞りなく送るためにはスマホに頼らざるを得ず、依存から抜け出す近道はなさそうだ。

Text: Daisy Jones Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.CO.UK

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