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神山を“日本のシリコンバレー”へ導く次世代を育む──神山まるごと高専【オルタナティブ・カルチャーを育む町 vol.4】

  • 2024.10.25
各教室はガラス張りでオ ープンかつインクルーシブな空間が 広がる。地形の傾斜を利用し て作られている大講義室では、起業家による特別授業などが頻繁に行わ れている。
各教室はガラス張りでオ ープンかつインクルーシブな空間が 広がる。地形の傾斜を利用し て作られている大講義室では、起業家による特別授業などが頻繁に行わ れている。

「テクノロジー、デザイン起業家精神を学ぶ場所」。2023年に開校した神山まるごと高専は、日本で唯一起業家の育成を打ち出した、5年制の私立高等専門学校だ。現在、第一期生と二期生の学生たち約80名(男女比5対5)がここで、「テクノロジー」「デザイン」「起業家精神」を土台としたカリキュラムで学んでいる。同校の発案者であり発起人の一人、そして理事長を務めるのが、名刺をクラウド化して業界にイノベーションを起こした東京のITベンチャーSansanのCEO、寺田親弘だ。寺田と神山の出合いは10年以上前に遡る。過去にシリコンバレー勤務を経験していた寺田は、日本にも面白い町があると聞き、ふらりと神山を訪れた。その際に、シリコンバレーの中核であるスタンフォード大学院出身で、NPO法人グリーンバレー代表の大南信也(神山まるごと高専の発起人の一人)と出会い、2010年に神山にSansanのサテライトオフィスを設置する。

木造平屋の校舎 「OFFICE」を手がけたのは、shushi architects。代表の吉田周一郎も徳 島出身だ。校舎はもともと棚田だっ た場所に建てられており、石積みも そのまま生かされている。春には満 開の桜が景色を彩る。
木造平屋の校舎 「OFFICE」を手がけたのは、shushi architects。代表の吉田周一郎も徳 島出身だ。校舎はもともと棚田だっ た場所に建てられており、石積みも そのまま生かされている。春には満 開の桜が景色を彩る。

神山まるごと高専のクリエイティブディレクター村山海優は言う。「寺田は、神山とシリコンバレーがよく似ていると感じたといいます。シリコンバレーではアーティストがいる場所にエンジニアが集まり、エンジニアが集まると、起業家が集まってくる。神山にも神山アーティスト・イン・レジデンスがあり、光ファイバーもかなり早いタイミングで完備されていた。そして、大南さんと寺田でシリコンバレーと神山の共通点を話しているうちに、シリコンバレーにあって神山に足りないのは、野心を持った学生をエンパワーできる高等教育機関だという結論になったそうです」。神山町には小・中・高校があり、町から1時間ほどの場所には徳島大学もある。そこで出た答えが、高専だった。柱や梁に使われている地元 の神山杉の香りがほんのりと香る校 内の廊下。

柱や梁に使われている地元 の神山杉の香りがほんのりと香る校 内の廊下。
柱や梁に使われている地元 の神山杉の香りがほんのりと香る校 内の廊下。

全寮制の神山まるごと高専は、本来であれば一年間200万円かかる学費が全額無償だ。そこには、「家庭の経済状況に左右されず、世界を変える可能性を秘めた子どもたちの誰もが目指せる学校にしたい」という寺田の強い信念があった。では、どのようにして学費無償化が実現したのか。数年かけて何百社にもプレゼンを行い、出資や寄付を呼びかけるという寺田の底知れぬ努力の賜物だった。開校にあたりソニーグループやリコー、富士通など10社から約100億円の出資や寄付を受けた高専は、これを運用。年間約5億円の運用益で学生たちの学費をまかなう計画だ。開校から2年と間もないが、海外で開催される国際ロボット競技会の出場資金を得るために、地元の企業にプレゼンを行うなど、すでに起業家としての一歩を踏み出している学生たちも多いという。

徳島阿波おどり空港から車で約1時間。人口5000人弱の町が、未来を創生する日本のシリコンバレーになる日も夢ではない。

Photos: Ichisei Hiramatsu Tex: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto

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