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「今の怪談ブームは危うい」“実話怪談”が今改めて脚光を浴びる理由とは? 【怪談師/作家・夜馬裕インタビュー】

  • 2024.10.25

『自宅怪談』(イースト・プレス)や『厭談』シリーズ(竹書房)など、多くの怪談本を手掛ける怪談師・作家の夜馬裕(やまゆう)さんが2024年9月、東京都内で行われたイベント「情シスだけが怖い話」(主催:HENNGE株式会社)に出演。同イベントでは、企業の情報システム管理者である「情シス」向けに、実際に起きたインシデント事例を"怪談"として披露した。イベントを終えた夜馬裕さんに、実話怪談が脚光を浴びる背景や、怪談ブームの先行きなどについて話を聞いた。

怪談のストックは4000本。年100本ペースで増えている

――怪談を語り始めたのはいつ頃からでしょうか?

夜馬裕:2014年8月からなので、今年でちょうど10 年経ちました。もともと子どもの頃から怖い話やオカルトが好きでした。でも大きくなると、例えばUMA(未確認生物)の写真など、そのほとんどがお金目当てのフェイクだとわかって、がっかりしたんですね。

大学生になってお酒を飲めるようになると、人からさまざまな怖い話を聞くようになりました。そういう話は、嘘か本当かということよりも、ロマンがあった。すっかり好きになって、怪談を集めるようになりました。記者などの仕事をしながら、全国で怪談を集め続けて20年ほど経った頃に、第7回『幽』怪談実話コンテストに応募し、それがきっかけで怪談のイベントに誘われるようになりました。

――怪談のストックは何本ほどあるのでしょうか。

夜馬裕:実際に怪談として話せるかどうかは別として、聞いた数でいえば4000はありますね。今でも年に100ぐらいは、DMなどで寄せられます。

――現在はDMなどから怪談を収集されることが多いですか?

夜馬裕:公募はしていないのですが、それでも送ってくださる方はいます。DMやメールなどで来たときは、最初にサマリーをいただいて、詳しく聞きたいと思った方に取材をします。遠方の方であれば電話やZoomを使いますが、できれば会って話を聞きたいので、東京近郊の方なら喫茶店やファミレスで話を聞くこともあります。他人の人生の話を延々と聞くのが好きなんですよね。どこで生まれて、どんな仕事をして、どんな恋愛をしてきたのか……それを聞いた結果が、怪談に活きるときが結構あるんです。

例えば、祟りで陰惨な死に方をした男性がいたとします。その方の奥さんに、長い時間をかけて対面で取材をしたからこそ、「旦那さんが亡くなったとき、ちょっとスッキリしましたよね?」みたいなことも聞くことができる。すると奥さんは「そうかも」と言って笑う。陰惨な死に方をした話よりも、この話を笑顔で話す奥さんの方が怖いですよね。僕は「厭(いや)な話をすると日本一」とか「厭(いや)な怪談の帝王」と言われますが、怪異と人間の悪意みたいなものが、ハイブリッドになった話が好きなんですよね。だからゆっくり時間をかけて取材したい。

実話怪談の定義 =「リアリティーを持っている怖い話」

――お持ちの怪談は、いわゆる実話怪談がほとんどなのでしょうか。

夜馬裕:そうですね。ただ、そもそも裏を取れない個人的なエピソードばかりなので、「実際に聞かせてもらった」という意味での実話怪談ですね。

――そもそも実話怪談の定義とは?

夜馬裕:シンプルに言えば「実際に起きた」または「実際に聞いた」でもいいのですが、体験した人がどこまで話を盛っているのかもわかりません。こちらが話すときも、マンションの階数や性別など、多少変えて話すことはあります。だから実話怪談とは何だろうと考えると、「リアリティーを持っている怖い話」だと思うんですよね。

実話怪談ファンにはいろいろなレイヤーの人がいて、まず魂の存在を信じたいという人がいます。この人たちは、誰かの体験談よりも、幽霊が見える人の話の方が好きで、怪談にエンターテイメント性を求めていません。一方で、リアリティーを持った怪談を、エンターテイメントとして聞きたいという人もいます。手品に例えるなら、タネのある手品としてではなく、超能力(リアル)として見たいという人ですね。

イベントに怪談を聞きにくるお客さんの多くは、そういうリアリティーとエンターテイメント性を求める人たちだと思っています。最近はフェイクドキュメンタリーといったジャンルもありますが、あれはどこまで行っても、すごくリアルなホラー。だから実話怪談とは全く違うものなんですよね。

――観客や読者にリアリティーを感じさせることが大事?

夜馬裕:そうですね。例えば駅の名前が出てくると、僕は必ずGoogleのストリートビューで調べます。「広いバスロータリー」と言っていても、実際は大して広くなかったりするんですよ。本筋に関わることでなくても、確かめられることは、確かめるようにしています。それによって、不思議な話もリアルなものと信じて語れるのかなって。それが怪談のリアリティーの担保になっているのだと思います。

現在の怪談ブームは危うい状態?

――今、改めて実話怪談が脚光を浴びている理由をどのように分析されていますか?

夜馬裕:脚光を浴びていると言えばそうですが……複合的な要因があると思います。まずテレビなどオフィシャルなメディアはコンプライアンスが厳しくなって、オカルトなど曖昧なものが消えてしまいました。スポンサーが付くようなメディアで怪談をすると、「できれば自動車で死なないでほしい」「消費者金融はスポンサーなので借金もやめてください」などと言われることもあります。

テレビから消えてしばらくは、首都圏で開かれるイベントや、本、一部のWebサイトなどでしか怪談に触れることができなくなってしまった。しかし、その後、コロナ禍になって配信ブームが起きると、YouTubeなどを通じて怪談を楽しむ人が増えました。とはいえ、スピリチュアルや都市伝説の方がはるかに人気がありますし、仮にテレビでオカルト番組が変わらず放映されていれば、怪談はここまで盛り上がってはいなかったでしょう。

ただ現在のブームも、僕は結構危ういものだと思っています。人気が高まって、演者も増えてくると、具体的な場所や、実際の事件を取り上げたりして、過激なことを言いたくなるものです。過去には、特定できる情報を掲載してしまい、出版差し止めになった本もありました。

今の怪談は、エンターテイメントというぼんやりとしたもので許してもらっている部分がある。僕らのカルチャーは少し人気が出ただけで、まだ成熟はしていません。ここから試練の時が何回か来ると思っています。

――話し手としてのリテラシーが求められるのですね。

夜馬裕:演者はそれぞれ自分なりのルールを持っていた方がいいと思っています。僕は二つあって、一つは実際に起きた事件の話は、よほどクローズドな場でなければ話すことはありません。殺された人が亡霊になって、誰かを祟っているなんて話、遺族の人が聞いたら、どのように感じるか想像に難くありません。

もう一つは水子の話です。女性が中絶をする権利は、現代の人間が手に入れた権利の一つ。水子の話は聞かされることも多いですが、ユーザーや読者のなかにも中絶した経験がある方はいると思うので、男の僕が話すことではないと思っています。

――では聞き手は、どのように実話怪談を楽しむのがいいでしょうか。

夜馬裕:実話怪談は、嘘か本当かって言われると、すごく難しい。だって体験した人だって、裏なんて取れないですから。そういう、多少ロマンチックなものという前提で聞いてほしいです。そして聞き手の方にもリテラシーを持ってもらえるといいですね。そして、語り手に「これってどうなの?」と投げかけてもらえると、より盛り上がり、ゆくゆくは怪談というカルチャー全体がもっと成熟していくと思います。

「情シスだけが怖い話」など、怪談イベントは多様化

――夏に限らず怪談やオカルト系のイベントも増えて、さらにさまざまに派生して多様になっていると感じます。この流れはしばらく続きそうでしょうか?

夜馬裕:しばらくは続くと思いますよ。私自身も、昨年と比べて5倍くらいはイベント稼働が増えています。今回(「情シスだけが怖い話」)のような変わりダネから、王道の怪談イベントまで種類もさまざまです。

あと、今は一般の方もしゃべりに自信があればプレイヤーになれるチャンスがある時代で、実際にそういう方々も増えています。ただ、最近は芸人やタレントさんで怪談語りをする方も多い。やはり芸能人の方は事務所があって、資金だってあるし、いいコンテンツを作れるし、お客さんも呼べますよね。いずれは「素人がやっても全然ダメだよね」となっていき、演者の数は落ち着いていく気がしています。

――今回のイベント(「情シスだけが怖い話」)は、いつもとは少し毛色が違うイベントでした。オファーがあったときは、戸惑いはありませんでしたか?

夜馬裕:僕は世の中で起きている、不思議な出来事、怖い話が全部好きです。今回は「ディープフェイク」や「ランサムウェア」など、情報システム部門の人たちにとっての怖い話を取材できて、すごくおもしろかったですね。ただ、やはり専門用語が出てきたりしたので、話を覚えるのは少し苦労しました(笑)

――今後の活動の展望や目標を教えてください。

夜馬裕:もともと怪談など怖いものを書く作家になりたいと思っていたこともあり、「怪談師・作家」と名乗ってきました。ただ休日もイベントが増えて、本を書く時間がなくなったので、2024年2月にずっと勤めていた出版社を退職しました。怪談師として活動しながら、今後はもう少し大きな声で作家と言えるように、頑張って本を出したいですね。また「フェイクドキュメンタリーQ」の書籍版の文章や、来春公開のホラー映画のノベライズとコミカライズの原作といった仕事もあるので、そういうお仕事も力を入れたいと思っています。

あとは2年ほど前には、インディーズのお化け屋敷を作りました。最近、郊外にいい物件を見つけたので、またお化け屋敷を作ろうかと思っているところです。少しダサめの肩書にはなってしまいますが、「ホラーコンテンツクリエイター」みたいな感じで、幅広くやれたらいいなと思っています。

■プロフィール 夜馬裕(やまゆう) 怪談師・作家。新宿ゴールデン街を拠点とする怪談ユニット「ゴールデン街ホラーズ」として活動。第7回『幽』怪談実話コンテスト優秀賞、怪談最恐戦2020優勝。「サンデーうぇぶり」で連載中の漫画『厭談夜話』(小学館)の原作を担当。著書に『厭談』シリーズ(竹書房)、『自宅怪談』(イースト・プレス)など。

■出演イベント 「情シスだけが怖い話」 ※イベントは終了しています 主催:HENNGE株式会社

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