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トニー・レオンの魅力を堪能できる代表作10選──『花様年華』から『シャン・チー/テン・リングスの伝説』まで

  • 2024.10.25

『悲情城市』(1989)

CITY OF SADNESS (TAIWAN 1989) HSIN SHU-FEN, TONY LEUNG CITY

台湾の侯孝賢監督が、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『悲情城市』。香港のTVで人気を博し、1980年代半ばから映画界に進出したトニー・レオンは、本作で初めて国際的に注目された。終戦により日本の統治が終わった1945年から、戦後台湾の最大の悲劇と言われる1947年の二・二八事件までの日々を、ある一家の群像劇として描く。トニーは台湾北部の街に暮らす林家の四男で、写真館を営む文清を演じた。

香港出身で広東語が母語のトニーは、劇中で主に使用される台湾語を話せなかったが、それでも彼を起用したかった侯監督は文清を聴覚障害者という設定にしたという。自由という希望を潰され、弾圧される者の苦しみを、トニーは沈黙の演技で表現。20代のこの時点で、すでに目で多くを語る魅力が評価された。

『月夜の願い』(1993)

He Ain't Heavy, He's My Father (1993)

『月夜の願い』は、香港版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』というべきロマンティック・コメディだ。中秋節の夜、過去にタイムスリップして若き日の両親と出会った青年の物語。トニー演じる主人公のユンはドライな現実派で、人情に厚い父親と衝突してばかりだが、父のことを知りたくなり、幼い頃に聞いた願い事が叶うという言い伝えを実行する。そして40年前にタイムスリップし、青年時代の父ファンと彼の恋人でのちにユンの母となるローラと出会うことに。貧しいながらも見ず知らずのユンを温かく迎え入れる若き日の父と裕福な令嬢である母の身分違いの恋をアシストしながら、ユンは友情や愛、人として大切なものを学んでいく。

ハラリと落ちる前髪や女性を見つめる目から出る光線など、トニーのトレードマークを強調する数々の演出にも注目。母親のローラを演じるのは、当時すでにパートナーで2008年に結婚したカリーナ・ラウ。シリアスな役が多いトニーだが、コメディ作で見せる軽妙な表情やセンスも得難い魅力だ。

『恋する惑星』(1994)

CHUNGKING EXPRESS - Tony Leung Chiu Wai, Faye Wong, 1994.

ラストシーンだけに出演した『欲望の翼』(1990)のウォン・カーウァイ監督と本格的に組んだ最初の作品。香港の街にある惣菜店に通う2人の警官の、それぞれの恋を二部構成で、トニーは後半部でCAの恋人に振られた警官663号を演じ、彼に恋した新入り店員フェイを人気シンガーのフェイ・ウォンが演じた。

合鍵を使って勝手に相手の部屋に入り、少しずつ自分好みに変えていくフェイの行動にはちょっと引いてしまうが、なかなか気づかない663号のおおらかさや優しさをトニーは好演。内向的な性格だった彼は10代の頃、鏡に映る自分に話しかけていたという。石鹸やぬいぐるみ、床に置いたシャツに語りかけるシーンは、その実際の経験を取り入れたものだ。

CHUNGKING EXPRESS - Valerie Chow, Tony Leung Chiu Wai, 1994,

監督から突然連絡が来て「2週間だけ空いている」と答え、実現に至ったという経緯があるこの作品。撮影許可も取らないまま大急ぎで撮影を行ったシーンもあり、ウォン・カーウァイとの仕事であれほど短期間だったのは、この時だけだそう。ちなみに、舞台となった惣菜店「ミッドナイト・エクスプレス」は、かつて香港・中環の蘭桂坊に実在していた場所だ。

『ブエノスアイレス』(1997)

HAPPY TOGETHER, (aka CHEUN GWONG TSA SIT) - Tony LEUNG Chiu Wai, Leslie Cheung, 1997.

ウォン・カーウァイ監督が、香港からアルゼンチンへと渡ったゲイカップルの波乱に満ちた関係を描く。トニーは、レスリー・チャンが演じる自由奔放なウィンに振り回され続けるファイを演じた。何度も別れてはよりを戻してきた2人は、関係修復のための旅先でも喧嘩別れをしては、また再会し……。傷つけ合いながらも離れられない2人の姿は、日本映画の名作『浮雲』(1955/成瀬巳喜男監督)を想起させる。束縛、孤独、依存に苛まれる中からやがて悟りを得るファイの魂の彷徨を、トニーはエモーショナルに熱演した。

最初にオファーが来た時、同性愛者役はできないと辞退したトニーに、監督は「亡き父の恋人を探してアルゼンチンに行く息子の物語」を提案。ファイの父親がゲイで、彼の恋人をレスリーが演じるという設定だった。だが、実際は撮影をしながら物語やキャラクターを作り上げていくのがウォン・カーウァイのスタイルだ。俳優もどんな物語なのかを教えられないまま、演じながら役を見出していく。アルゼンチンで撮影が始まり、一週間ほど経ってから監督はトニーに「君がゲイを演じる方がいい」と言われ、ファイとウィン、さらにチャン・チェンが演じる台湾からの若き旅行者も登場する物語が生まれた。

『花様年華』(2000)

IN THE MOOD FOR LOVE, (aka FA YEUNG NIN WA) - Maggie Cheung, Tony Leung Chiu Wai, 2000.

ウォン・カーウァイ監督との4作目のコラボレーションで、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞したメロドラマの傑作。1962年の香港、同じ日に同じアパートに2組の夫婦が引っ越してくる。隣人同士になったチャウ(トニー・レオン)とスー(マギー・チャン)はやがて、それぞれの伴侶が不倫関係だと気づく。気まずさよりも裏切られた者同士の共感が勝り、2人もまた独特の親しみがこもる関係を築いていく。不器用で誠実な男女が自制しながらも惹かれ合い、それゆえに苦しむ様を静かに映すことで、ドラマティックさが増す。

『ブエノスアイレス』では感情をむき出しにするような表現だったのに対して、こちらは表情さえも大きく変えず、すべて内に秘めて抑えた演技に徹した。そのようにしてキャラクターの個性を引き出すのは、「新しくて難しい挑戦だった。演じるためには、自分に対して十分な自信を持たなければならなかった」とトニーは語っている。トニーとマギーは、ウォン・カーウァイ監督の次作『2046』(2004)でも同一人物と思われるキャラクターを演じている。

『HERO』(2002)

Tony Leung Chiu Wai and Maggie Cheung Man Yuk in Zhang Yimou's film 'HERO' ,2002.

中国の巨匠、チャン・イーモウ監督が、ジェット・リーやマギー・チャン、チャン・ツィイーなど、オールスターキャストを起用した武侠映画の大作。戦国時代末期、のちの始皇帝となる秦王を狙う刺客たちの物語だ。ジェット・リーが演じる主人公・無名が秦王を訪ね、3人の刺客を倒した経緯を語るが、王はその話を嘘だと見破る。

トニーは書から剣の極意を得て、恋人とともに秦王暗殺にあと一歩まで迫った残剣を演じ、恋人の飛雪をマギー・チャンが演じた。無名の語る内容によって、朱、青、白、緑とテーマカラーが変わり、虚実が混然となる『羅生門』スタイルの展開で、トニーは長い髪をなびかせ、憂いに満ちた残剣の様々な表情を演じ分けた。ワダエミが手がけた、美しい色彩の衣装にも注目してほしい。

『インファナル・アフェア』(2002)

INFERNAL AFFAIRS, (aka WU JIAN DAO) - Andy Lau, Tony Leung, 2002

警察学校で同期だった2人。1人は捜査のためにマフィアに潜入するが、もう1人は実はマフィアが警察に送り込んだ人物だった。それぞれが警察とマフィアに敵側から潜入し、優秀さを見込まれて組織の重要人物となり、やがて対峙するサスペンス・ドラマ。トニーは優秀さを見込まれて在学中にマフィア潜入を命じられたヤンを、そして、デビュー時からの盟友であるアンディ・ラウがラウを演じる。

ボスの信頼を得て麻薬取引を任されるまでになり、正義を守るべき本来の立場との間で引き裂かれ、自身を見失い、やさぐれて自暴自棄になりかけの姿が胸に迫る。双方がスパイの存在に気づき、裏切り者探しの攻防が繰り広げられる中、ヤンはラウの正体に気づく。本作は2006年にマーティン・スコセッシ監督が、レオナルド・ディカプリオマット・デイモン主演の『ディパーテッド』としてリメイクし、第79回アカデミー賞作品賞など4部門を受賞した。

また、3部作である『インファナル・アフェア』シリーズで、トニーは3作目の『インファナル・アフェア III終極無間』(2003)にも出演。そしてトニーとアンディは、今年12月に中国で公開予定の『金手指(原題)』で久々に共演を果たしている。

『ラスト、コーション』(2007)

LUST, CAUTION, (aka SE, JIE) - Wei Tang, Tony Leung Chiu Wai, 2007.

台湾のアン・リー監督にとって第78回アカデミー賞監督賞に輝いた『ブロークバック・マウンテン』(2005)の次作で、第64回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と金オゼッラ賞(撮影賞)受賞した。日本軍占領下の上海と香港を舞台に、抗日運動の弾圧に取り組む日本の傀儡政権特務機関高官と彼の暗殺計画のために送り込まれた抗日組織の女性スパイの情事、心理戦がドラマティックに展開するサスペンス。トニーが演じる高官をハニートラップにかけるはずが、凄まじく孤独な彼に惹かれてしまう女性を『別れる決心』のタン・ウェイが演じた。

過激な性描写がセンセーショナルな話題となったが、監督は演じる2人が互いを知るために十分な時間を用意し、信頼関係が築かれてから撮影に臨んだという。トニーが本作を引き受けた最大の理由はアン・リー監督と仕事をしたかったから、そして当時は悪役を演じることがほとんどなかったからだという。台詞は少なかったが、母語ではないマンダリンだったので、監督に台詞を変えないように念押しし、3カ月かけて丸暗記した。孤独や恋する心を演じるのが巧みなトニーだが、本作はその究極と言えるかもしれない。彼が演じるイーは、誰も信じないと断言しながらも自分を見失ってしまうほど恋にのめり込み、それでいてどこまでも孤高の人だ。

『レッドクリフ Part I』(2008)、『レッドクリフ Part II-未来への最終決戦-』(2009)

RED CLIFF, (aka CHI BI, aka THE BATTLE OF RED CLIFF, aka CHEK BIK) - Tony LEUNG Chiu Wai, 2008.

『ワイルド・ブリット』(1990)や『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(1992)で組んだ香港の巨匠、ジョン・ウー監督がオールスターキャストで「三国志演義」を映画化。史実や原作にないオリジナルの展開も多い壮大なスケールの歴史大作で、トニーは魏、蜀漢、呉の三国時代の赤壁の戦いで劉備と孫権の連合軍の司令官・周瑜を演じた。

実は当初、チョウ・ユンファが周瑜を演じる予定だったが、クランクイン初日に突如降板。トニーは長年の付き合いのウー監督の窮地を救うため、自ら支援を申し出た。当初、諸葛孔明役でキャスティングされていたのだが、演じる役を引きずるタイプのトニーは『ラスト、コーション』撮影で心身ともに疲弊したために、一度出演を辞退。だが、責任感が強く、部下を気遣い、妻を大切にする周瑜は、前作で演じた孤高の男とは異なる頼れる人物。トニーは、周瑜像に撮影現場でのジョン・ウー監督を重ねながら演じたという。金城武が飄々と演じる蜀の諸葛孔明との友情も印象的だ。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)

SHANG-CHI AND THE LEGEND OF THE TEN RINGS - Tony Chiu-Wai Leung, 2021.

マーベル・コミックのヒーロー、シャン・チーの誕生物語を映画化したシム・リウ主演作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』で、トニー・レオンは満を持してハリウッド進出を果たした。彼が演じるのはシャン・チーの父親で、犯罪組織“テン・リングス”のリーダーのシュー・ウェンウーだ。

10の腕輪状の武器“テン・リングス”を所有し、スーパーパワーと永遠の命を持つ。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のナラティブではヴィランだが、「誰もが彼を悪役だと知っているから」と、トニーはこのキャラクターの人としての側面にフォーカス。一時は家族との幸せを選び組織を手放したウェンウーが、悲劇に見舞われたことでより冷血な人物になっていくプロセスを掘り下げたという。

SHANG-CHI AND THE LEGEND OF THE TEN RINGS - Tony Chiu-Wai Leung, Simu Liu, 2021.

国際的な評価の高い彼のもとには、早くからハリウッド作品のオファーも多く来ていたが、当時はアジア系=カンフー・アクションのようなステレオタイプなものばかりで、興味はないと語っていた。だが年月を重ねていくうちに、トニーはステレオタイプになりかねない役をただ拒むのではなく、オファーを敢えて受け、そこから深い人物像を打ち出してみせた。

Text: Yuki Tominaga

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