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ゲイの息子を持つ母親、元婚約者がゲイだった女性… 彼女たちの視線から見えてくるのはセクシュアリティを超えた多様性の面白さ『あたいと焦げない女たち』

  • 2024.10.25

ゲイの当事者として、LGBTやセクシュアリティについて、そして周囲のさまざまな人のエピソードを描く作家のもちぎさん。多様性について考えさせられる内容と、物事の真理を捉えた言葉のひとつひとつが、彼の作品の大きな魅力でもある。そんなもちぎさんの最新作が『あたいと焦げない女たち』(KADOKAWA)だ。

本書でスポットが当たるのは、何かしらの形でゲイ社会とかかわりを持つ女性たち。ゲイの息子を持つ母親、学生時代の友人にゲイをカミングアウトされた女性、ゲイバーの常連でもある、自身も性的マイノリティである女性など。

ゲイの社会を描く上では、これまでサブキャラクターとして描かれがちだった女性たち。そんな彼女たちにも当然一人ひとり異なる形で、これまで歩んできた人生やゲイ社会との縁がある。そんな彼女たちの背景や言葉にスポットが当てられていて、少し違う角度からセクシュアリティについて考えさせられる。

だが、全編を通じたテーマこそ性の話でも、今作で描かれるのは「星の数ほどある人間ドラマ」だ。この国に住む人の数だけ物事の考え方は多様にあって、どれ一つとして同じものはない。近年でこそ、多様性という言葉はずいぶん声高に叫ばれるようになってきた。

いわゆるヘテロセクシュアル(=異性愛者)ではない性的指向、その中でも特に同性愛者の存在は、特に認知が進み始めている。だがそれでも、一口に同性愛者といってもその実態も非常にさまざまだ。恋愛はしたいけど結婚はしたくない、という人。異性を過度に排除する人。逆に異性の友人もたくさんいる、という人。あるいは、同性と仲良くなることが苦手という人だっている。一方でその多様性は、異性愛も同性愛も関係ないともいえる。なぜなら上記のような人々は同性愛者だけでなく、ヘテロセクシュアルな人の中にも大勢いるからだ。そういった意味では、たとえ性的対象が違っていたとしても、彼らの言葉に共感できるポイントも多数あるはずなのである。

とはいえ、性愛の対象が異なるがゆえに違う価値観も確かに存在する。くわえて、性自認や身体的性が異なれば、もちろん持つ価値観は違うものとなる。さらに言えば、生まれ育った環境の違いも、如実に価値観の差異として現れる。つまり我々は、自分とまったく同じ価値観を持つ人間と出会うことはおそらく一生ない。

共感と断絶が両立するからこそ、時に人と人の間には永久に解決しない争いが起きる。だが一方で、だからこそ他者と関わることは面白く興味深い。そんな人間の多様性の面白さを、ゲイ社会に深く携わる女性の視点から描く。セクシュアリティに関する作品である以前に、本作はそんなエッセイであるともいえるのだろう。

文=ネゴト / 曽我美なつめ

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