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漫画、イラスト、絵画。『コピックアワード』審査員が語る、アナログ作品に感じた可能性

  • 2024.10.31
3人の集合写真(左から中村佑介、板垣巴留、落合翔平)
BRUTUS

各視点で語る“手描き”の魅力

中村佑介

コピックのマルチライナーは、高校時代から今の仕事までずっと使っている身近な画材。だから今回のアワードに審査員として参加できて嬉しかったです。

落合翔平

僕も普段、コピックを愛用しています。今回は、コピックを使った作品であれば平面も立体もOKという条件でいろんな作品が集まりましたが、こんな表現もあるのかと驚くポイントが多かった。

板垣巴留

コピックは憧れの存在。学生の時は1本ずつ買い足して、大切に使っていましたね。そんなコピック作品のコンテストに関わることができて光栄です。

コピックアワードのポスター
〈コピック〉での作画や制作の楽しさを伝えるために、2017年より開催されているコンテスト。応募は年齢や国籍を問わず、今年は70を超える国や地域から3,600点以上の作品が寄せられた。エントリー作品はすべて公式HPにて鑑賞可能。グランプリを含む受賞者は11月上旬に発表される。

中村

世界から集まったイラストに、各国の流行を感じて新鮮でした。例えば同じアジア圏でも、台湾からはコミック調の作品が少ないとか。個人的総括としては、かわいいキャラが描かれているだけより、背景に作者の感情やテーマが宿った一枚の方が作品としてパワーがあると感じました。

板垣

私は仕事柄、物語性のある作品に強く惹かれたかな。「描かれている人物はどんな人なんだろう」というように、想像力が刺激される作品に目が留まりました。

落合

画像審査の段階ではピンとこなかったけど、原画を見て評価を変える作品がけっこうありましたよね。描き手の創意工夫や感情が浮き上がってきていいなと。

中村

僕もそうでした。近年のデジタルを含むイラストコンテストではAIの活用が問題になっていますが、今回は手描き限定。手描きであること自体が作者の存在を証明している点に、アナログ作品ならではの可能性を感じました。筆圧や塗り方などの細かなニュアンスが、描き手の感情や熱量もダイレクトに伝えてくれます。

落合

わかります。自分は普段、アナログで描くなかで、塗りムラを大切にしていて。デジタルでは簡単に修正できる不均一な要素が、人間らしさを際立たせる。改めて今回の審査中にも感じました。

板垣

私の場合、最近までフルアナログで漫画を描いていたんです。そうすると、原稿がインクやトーンで物理的に重くなってくる。不便な点も多いですが、重さや手触り、匂いなど複合的な理由で「作品がここにある」という存在感を得られるのも、手描き作品の魅力の一つだと思っています。

中村

最近はプロの目から見ても、デジタルとアナログの区別がつかなくなっている。僕は手描きの方が特別優れているとは思いませんが、こうしてアナログ作品を眺めていると、やはり原画からしか伝わってこないものは確かに存在する。その不思議な魅力が見る人の感性を刺激し、新たな想像力をもたらしてくれるのでしょうね。

左から中村佑介、板垣巴留、落合翔平

3人が選ぶ、印象的だった作品

中村佑介選

おかドドの「おかえり。」 女性の指輪や光の角度など、少ない描き込みでもしっかりとストーリーが伝わってくるところが素晴らしいです。コピックを生かして服やお米の柔らかい素材感を表現している点も見事だと思います。

板垣巴留選

ゆっぴー1世の「海の有名魚」 複雑な色使いにもかかわらず統一感があり、見ていて心地がよくなる。すごく計算された作品だと思いました。細かい特徴も楽しみながら描いている様子が伝わってきて、魚介類への愛も感じました。

落合翔平選

セキカオルの「Labyrinthe.A3.2024.003」 繰り返しのモチーフが好きで、マス目の反復によって迷路のような形を描いた画に引き込まれました。よく見ると道の途中にアイテムが置かれていたり、細部まで描き込まれているところが面白いです。

profile

中村佑介
なかむら・ゆうすけ/1978年兵庫県生まれ。〈ASIAN KUNG−FU GENERATION〉のCDジャケットをはじめ、小説や音楽の教科書の書籍カバーなど数多くのイラストを手がける。

profile

板垣巴留
いたがき・ぱる/1993年東京都生まれ。2016年に漫画家としてデビュー。初連載となる『BEASTARS』(秋田書店)は数多くの漫画賞を受賞し、19年よりアニメ化もされている。

profile

落合翔平
おちあい・しょうへい/1988年埼玉県生まれ。2018年に画家としての活動を本格的に開始。22年にはファレル・ウィリアムスが立ち上げたデジタルオークションハウスに作品を提供した。

 

photo: Takao Iwasawa / text: Shunsuke Kamigaito

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