役所広司、役者として大切にしてきたのは「挨拶、遅刻をしない、人間関係」『八犬伝』イベントで飛びだした数々の金言に磯村勇斗が感銘！

映画『八犬伝』(10月25日公開)の公開前日先行上映イベントが10月24日にTOHOシネマズ日比谷で開催され、役所広司、磯村勇斗が出席。応援ゲストとして柔道家の阿部一二三も駆けつけ、劇中の登場人物に大いに共感しつつ、刺激を受けたことを明かした。

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山田風太郎の小説「八犬伝 上・下」を原作に、日本のファンタジー小説の原点と称えられる「南総里見八犬伝」の世界とその作者である滝沢馬琴(役所)の物語を描く本作。里見家の呪いを解くため、八つの珠に引き寄せられた八人の剣士たちの運命を描く「八犬伝」＝“虚”の世界と、馬琴による感動の実話“実”の2つのパートが交錯していく。

役所と磯村は、馬琴とその息子の宗伯という親子役として初共演を果たした。「磯村くんの映画もたくさん観ていますし、本当にすばらしい俳優さんだと思っていました」と切りだした役所は、「共演できて、ますます磯村くんという俳優さんの魅力を感じることができました」とにっこり。磯村は「台本を開いて、役所さんが自分の父親役。共演できるのを非常に楽しみにしていました」とかねてより強い「憧れがあった」とを告白。「現場では緊張して臨んでいました。贅沢で貴重な時間を過ごさせていただきました」としみじみと語った。

撮影現場では、減量しながら宗伯を演じている磯村を「心配していた」と父親のような顔を見せた役所。一方の磯村は、撮影の合間には映画界の未来について役所と話す機会にも恵まれたと喜びつつ、「現場で役所さんを見ていると、本当に現場がお好きなんだろうなと感じました。カメラのセッティング中などにも現場から離れずに、ずっと現場の空気を作ってくださっていた。現場にいるということを、これからの自分も大切にしたいと思った。集中している姿を見ても『キャリアや経験を積んでも、役と向き合うことを忘れない』というのは、役所さんの背中を見て学ばせていただきました」と勉強になることばかりだったという。役所は「美術の人が作ってくれた、自分の部屋やお家にいたほうが落ち着く。スタッフがたくさんいるなかでお芝居をするのは恥ずかしいし、緊張するんだけれど、『ここは自分の居場所だ』と思うと安心していられる」と胸の内を明かしていた。

ステージでは磯村＆一般公募から集まった質問に、役所が答える場面もあった。磯村が憧れの役所に目を輝かせながら質問をしまくるなど、温かなひと時となった。まず磯村は「いま達成したいことはありますか？」と尋ね、これには役所が「これまでひとつのことをやり遂げたことがなくて。俳優という仕事をなんとなくやり続けていて、これもそのうち限りがあるんでしょうけれど」と照れ笑いを浮かべながら、「最後まで、セリフが覚えられなくなるまでは頑張ってみようかなと思っています」と宣言。「役者という仕事は満足をすることはないので、次にやると、ひょっとしたらうまくいくかもしれないと思いながらずっと続けています」と原動力を口にした。さらに磯村は「長く役者を続けていくためには、なにを大切にしてきましたか？」と質問。役所は「俳優も社会人なので。俳優だから許されるということはないので、社会人としてまず挨拶ができること、遅刻をしないこと」と目尻を下げ、「俳優の仕事は一人ではできず、チームで作るもの。人間関係を大事にしていくことは一番、大事なことなような気がしています」と人柄のにじむ言葉が続いた。

馬琴が諦めずに28年をかけて「八犬伝」を完成させたように、「役所さんがこれだけは諦めないということは？」という質問もあったが、「俳優という仕事をやっていて、完璧にできたと思うことはない。時々気持ちが折れることもある」という役所は、「途中で『もうやめた』と諦めていたら、もういまの自分はいない。これからも何度も挫折すると思うんだけれど、いつかうまくいくんじゃないかという気持ちを忘れずに、諦めないでやりたい」と妥協せずに高みを目指す姿勢を吐露。役所からの数々の金言に、磯村は「ステキです」「横でこんなふうに聞けるなんて贅沢すぎます」と感動しきりだった。

またこの日は、応援ゲストとしてグランドスラム12大会、世界選手権4大会制覇、東京＆パリ五輪で金メダルを獲得した柔道家、阿部一二三が駆けつけた。この夏、“諦めない男”として注目を集めた阿部だが、本作を一足先に鑑賞して「本当に感動しました」とコメント。馬琴の姿を見て「諦めない心はというのは、奇跡を呼び込むんだとなと勇気と感動をもらいました」、さらに「宗伯さんの最後までやり遂げようとする気持ち。僕自身もやりとげる気持ちで頑張っているので、共感しました」と熱を込めた。

「柔道家の心に響くとは思っていなかった」と微笑んだ役所は、NHK大河ドラマ「いだてん～東京オリムピック噺(ばなし)～」で“柔道の父”と呼ばれる嘉納治五郎役を演じた経験があったことから、「一二三さんもこの映画をけなすことはできない」と茶目っ気たっぷりに語り、これには阿部も大笑い。阿部は「最後まで満足いくものを作り上げるという部分では、絶対に妥協してはいけない。改めて馬琴さんの姿を見てそう思った。自分自身も、試合に向けて最高の阿部一二三を作り続けたい。最後までやり遂げて、いいものを作り上げていくという姿勢は間違っていなかったと思いました」と深く共鳴していた。

取材・文/成田おり枝