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『侍タイムスリッパー』山口馬木也インタビュー

  • 2024.10.25
『侍タイムスリッパー』山口馬木也インタビュー

成功のスピードに気持ちが追いつかない

江戸末期に生きる会津藩士が140年後の日本にタイムスリップ、目を覚ましたのは時代劇の撮影所だった! 本当の侍が、幕末とはあまりに違う“日本”に戸惑いながらも、現代社会で斬られ役俳優として新たな人生を見出していく姿を描いた『侍タイムスリッパー』が、現在公開中だ。

監督は、インディーズ映画『拳銃と目玉焼』(14年)、『ごはん』(17年)を自主制作してきたインディーズ映画の苦労人、安田淳一。映画完成時の銀行貯金は7000円ちょっとという中、池袋シネマロサでの単館上映から始まり、今や230館で上映。すでに309館での上映が決定している話題作だ。

『カメラを止めるな!』(17年)の快進撃を彷彿とさせる本作に主演した山口馬木也に話を聞いた。

[動画]山口馬木也が語った大ヒットへの戸惑い(インタビュー前編)
[動画]山口馬木也が語った“奇跡”と感謝の気持ち(インタビュー後編)

──大ヒットおめでとうございます。
山口:ありがとうございます。
──初主演映画ですよね?
山口:はい。初主演映画です。
──上映館もどんどん増えていて快進撃を続けていますが、今の気持ちを教えてください。

山口:もう奇跡としか言いようがなくて。想像もしていなかったので、気持ちが追いつきません。
作品に対しては親のような心境なんですけど、なんでこんな天才児が生まれてしまったのか!と驚いています。このあいだ生まれたばかりなのに、もう立って歩いて、すごい勢いで走り始めて、海外の映画祭では賞もいただいている。スピードが早すぎて「ちょっと待ってくれ」って感じです(笑)。
監督とも、そんな笑い話をよくしています。
──ヒットを実感したのはいつですか?
山口:舞台挨拶の時ですね。エンドロールで拍手が起きて、舞台に立ったら皆が満面の笑みで見てくださって。「5回見たよ」「7回見たよ」って。「14回見た」なんて人もいて、その時まだ14回しか上映していなかったので、全部の回を見てくれているんですよ。そんな中で「この作品には僕らにも分からない力があるんだ」って気づきました。
──先ほど映画祭のお話しが出ましたが、カナダのファンタジア国際映画祭では観客賞金賞を受賞されていますね。山口さんも行かれたそうですが、いかがでしたか?

山口:上映前は、言語も違うし文化も違う、侍が主人公のこの映画が海外の人にどう見えるのか、もう不安で不安でしょうがありませんでした。でも、お客さんの反応はめちゃくちゃ良かったんです。上映中も大喜びで笑ってくれるし大盛り上がりで、こちらがびっくりするくらいでした。
──監督とは前にもお仕事されたことがあるんですか?
山口:いえ、今回が初めてです。
──そうなんですね! オファーされたときのことを教えてください。
山口:3年前くらいになりますが、最初に脚本をいただいて、それがあまりに面白かったことを覚えています。ですので、お会いしたときに「どうしても演じたいです」とお願いしたほどです。
主演とかそういうことはあまり気にならなくて、とにかくこの作品に参加したいと思っていました。

正直、インディーズで時代劇が撮れるのか心配だった

──監督は、大ヒットのインディーズ映画『カメラを止めるな!』を目指していたそうですが、オファー時にそういうお話しもされたのですか?
山口:いえ。監督はあまり熱く語るタイプではないので。『カメ止め』のお話は後で聞きました。最初に聞いたのは、「日本刀の重さを伝える映画にしたい」ということです。その話は僕の中にスッと入ってきました。
──なぜ主演をオファーされたか、監督から聞きましたか?

山口:怖くて聞けませんでした。今も聞いていません(笑)。
──映画業界、しかもインディーズ系だと企画が没になることは少なくないと思いますが、撮影が始まるまで不安ではありませんでしたか?
山口:監督の以前の作品がすごくちゃんとしたものだったので多分完成するだろうとは思っていましたが、時代劇は現代劇にくらべて大幅に予算がかかると言われていますから、正直、インディーズで時代劇が撮れるのか心配でした。
制作途中でクラウドファンディングを募ったり、監督が車を売ってほぼ無一文になりながらこの作品を作ってくれましたが、京都の映画祭に出品したときに、すごくお客様の反応が良かったんです。関係者の反応も良かったので、「これはどこかの映画館が手を挙げてくれるんじゃないか」と思うようになりました。

──低予算映画ということでのご苦労はありましたか?
山口:役者として苦労を感じたりすることは一切ありませんでした。お弁当もすごくちゃんとしたものをご用意してくだったり、役者のケアに関してはとても気を遣ってくださっていました。
ただ、東映の映画村をお借りしていての撮影は(限られた予算の中で)時間との闘いだと感じていました。
──ヒットの実感がまだつかめないということですが、周囲の反応はいかがですか?
山口:面白かったと言う声が多く、徐々に(ヒットを)実感してはいます。同業者からも、元気をもらった、勇気をもらったと言われます。今のところありがたい声しか届いていないですね。
──主演としてのインタビューには慣れましたか? 緊張したりは?
山口:僕自身のスタンスは変わっていないと思います。
楽観主義なのかもしれませんが、「なるようにしかならない」ってずっと思っていて、インタビューも毎回すごく楽しんでいます。
──本作を機に、条件の良いお仕事もたくさん来るのでは?
山口:そんなことありえないだろうって、どこか思っていて。この映画で脚光を浴びているのかもしれないけれど、「他にも」と考えてくださる方がどれくらいいるかは僕にはわからない。また面白い役に巡り会えたらいいな、とは思っていますけど。
──撮影自体も楽しかったそうですが、本作は「良い作品を作りたい」という皆の思いが結実してヒットに繋がった奇跡のような作品に思えます。
山口:僕も奇跡だと思っていて、そんな思いが行き着いた先が(会津藩のお侍さんたちの)お墓参りに行きたいということだったんです。
この映画って、なんだか色々なところに宝物が落ちているような気がする作品です。お客さんにとっては、そんな宝物を拾うのが楽しい映画になっているんじゃないかと思うんです。
さらに、その宝物が倍返しで自分のところに戻ってきている気もします。
映画の中でタイムスリップした高坂新左衛門がショートケーキを食べて「良い世の中になった」と泣くシーンがありますが、今、まさに自分にそれが起こっていて。ご飯を食べるときも同じですね。
今日はあいにくの雨ですが、そんな景色も前とは違った色で見えるんです。(映画を楽しんでくれた)色々な人たちの言葉のおかげで。これも奇跡だなって。だから、感謝しかない。本当に。

──役と重なりますね。SNSなどでお客さんからいただいた言葉で印象的なものはありますか?
山口:そうなんです。役と重なるんです。
心に響いた言葉でいうと、「明日からまた元気で日々を過ごせそう」とか、「この映画を見て気分が良くなった」「ショートケーキの味が変わった」とかっていうのは、たまらなく嬉しいですね。
──脚本を読んで「出たい」と思ったと行っていましたが、良い作品なるだろうという手応えは最初からありましたか?
山口:手応えはありました。夜中の3時ごろまで撮影した後でも監督が荒編して(その日の映像を)送ってくださっていたんですけど、それを見た時に「これは絶対面白い」と思いました。効果音なんかもまだ付いていなくて台詞だけなんですけど、すごい力を感じて。携帯の小さな画面で見ていても「これはすごいことになるだろうな」って思っていました。
(相手役の)冨家さんとも「いいよね」って言い合っていました。

(photo:相馬太郎)

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