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介護は女性である自分がやらなければならないと思い込まないで

  • 2024.10.24

たとえ結果が同じだったとしても、自分の気持ちを殺すのはやめてほしい。暗黙の了解とか空気を読むとか、自分が我慢すればとか、諦めさえすれば、とか。

◎ ◎

田舎を出て上京したのは大学卒業後。自分の夢をかなえるため、アルバイトで入社した。男社会の中、男性のようにタフに、まじめに、積極的にと必死に働いた。そして3年後、契約社員に引き上げてもらうことができた。

2年目にはあこがれていた大きなプロジェクトに参加することになり、忙しさはさらに増したが、とにかく楽しかった。そのプロジェクトが終わった時には大きな充実感に満たされ、天職だと感じた。

◎ ◎

だがその2カ月後、母が倒れた。脳出血だったため右半身麻痺と記憶障害、失語症などが残り介護が必要な状態に。

実家に帰って驚いた。父は洗濯や料理はしていたようだが、洗面所やトイレの汚れが目立った。仕事一筋で亭主関白な父を一人で支えていた母。倒れた途端、実家がいつもとは違う場所のようになった。

早く決断しなくては。父は私よりも稼ぎが多い。兄は結婚しているが、義理の姉は母の面倒を見る気はない。それは表情と空気感で分かった。いつも優しく大好きだった。だが、急に視線は冷たく、連絡も一切くれなくなった。きっと、近づくことを恐れていたのだと思う。長男の嫁、母とも仲が良かった。だからこそ。薄情だとは思わない。これが現実だと思った。両親を東京に呼んで私が養うのは現実的ではない。

夢をあきらめて実家に帰る。それしか選択肢はない。29歳、介護をしている友達はいなかった。誰にも相談できなかった。

「仕事を辞めて戻ってくるね」そう伝えると父は安堵した表情を見せ、義姉は「そうだね」と言った。兄は「いいのか?」と言ってくれたが、うなずくことしかできなかった。

仕事を辞めてからは夢を失った喪失感の中、変わり果てた母のお見舞いと父のサポートに心身を削られた。半分鬱のような状態だったと思う。気丈にふるまっていたが、気を抜くと涙がこぼれ、シャワーを浴びながら泣いた。「死にたい、だけど死ねない」。毎日そんなことを考えていた。

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6年以上がたった今もなお、周囲の状況は何も変わっていない。兄夫婦からのサポートはなく、父は家事をしない。前の職場から仕事をもらい、好きな仕事はなんとか続けられているが、実家だから生活できる程度の収入しかない。婚活に励んだ時期もあったが、縁はなく結婚も出産もできなかった。望みはあるが、正直、現実的ではない。

母を支えていくと決めたこと、あの時下した決断に後悔はない。だけど、本当にほかの手段はなかったのだろうか。こんなに一人で抱えなくてはいけないのだろうか。こんなに一人で苦しまなくてはいけないのだろうか。もう少し私に知識と勇気があれば変えられる部分もあったのではないだろうか。

10年後にはもう少し“女性がやるべき”という固定概念は少なくなっているだろうけど、なくなってはいないと思う。特に介護は。家庭の事情が大きく影響するからか、腫物を触るように誰も関わろうとしない。

要介護が必要になった本人が一番つらいのは分かっている。その人を支えるためにみんなで策を練り協力体制を整える。そのことに疑問はないし、介護福祉士の方々には感謝の思いしかない。でも、じゃあ、私の未来は? 私の苦しみの行き場は? 孤独に襲われ、希望が持てなくなる。

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だから、自分が犠牲になればいいという決断はしないでほしい。地域包括支援センターに相談したり、会社に休職や時短勤務の相談をしてみるのもひとつの手。家のことだからと周りに隠して一人で決めるのではなくむしろオープンにして、多くの考えや案に耳を傾けてみてほしい。少しでも納得する方法があるかもしれないし、一人で我慢し抱え込まなくて済む方法が見つかるかもしれない。

今サポートを求めても、「できているのに?」と聞く耳を持ってもらえない。でも最初から協力をしてもらえれば、それが日常になっていく。だから最初が肝心。心が不安定な状況では難しいかもしれないが、最初に協力してもらえる体制を整えることがその先の自分を救うことになる。

今のこの考えが当時の私にあったらと思う。今とは違った未来があったかもしれないし、少なくとも、あれほどの孤独に襲われることはなかったはず。

だからどうか自分が犠牲になることで他人を守れると思わないで。介護が終わってからも人生は続くのだから。いや、介護をしているときも自分の人生は続いている。かけがえのない“自分”と“今”を犠牲にしないでほしい。

女性だからという理由で犠牲にならなくて済む未来を、私たちのような犠牲になった女性と、明るい未来を夢見る女性とで実現させていきたい。

■小梅のプロフィール
小さいころから本とスポーツと動物が好き。美味しいもの、お酒があると機嫌がよくなる。アラフォーに足を踏み入れた今も好きに囲まれた生活を送り、両親と4匹の猫と暮らしている。

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