1. トップ
  2. 恋愛
  3. 天を見て地を知る、電離層の異常から地震の予知ができる

天を見て地を知る、電離層の異常から地震の予知ができる

  • 2024.10.23
電離層のE層(高度100~120km)で発生するオーロラ 電離層の電子密度は昼夜で大きく変動します / Credit : Canva

地震予知の鍵は空が握っているかもしれません。

これまでに大地震が起こる直前には、震源上空の電離層(電離圏)に異常が発生することは観測されていましたが、地殻変動との明確な因果関係については明らかにはなっていませんでした。

しかし京都大学の研究グループは、大地震発生の直前に観測される震源上空の電離層の異常が、地殻破壊によって粘土層の水が超臨界状態になることに起因することを報告しています。

同グループは、東北地方太平洋沖地震や熊本地震の直前にも、震源地上空における電離層の電子数の異常増加を観測することに成功しています。

この予測手法は、地震予知に向けての有効な解決策に繋がるのでしょうか?

この研究の詳細については『International Journal of Plasma Environment Science and Technology』に報告されています。

目次

  • 電離層で生じる異常事象とは
  • 地殻変動が電離層の異常に繋がる物理的メカニズム

電離層で生じる異常事象とは

電離層の位置と役割。電離層は、電子密度が大きく電波を反射する層であり、太陽光の入射強度、大気の状態および地殻の変動等に応じて時間的、空間的に変化します。日本国内でよく見られる電離層の異常事象には、太陽フレア(爆発的な増光現象)を伴う通信障害であるデリンジャ現象や、電子密度が急激に増減する電離層嵐、主に夏の夜に突如発生するスポラディックE層等があります。/ Credit : 電気通信大学

電離層とは上空約60kmから800km高度に存在する、地球の大気と宇宙空間の境目に位置する領域であり、電波を反射する性質があります。

これまでに大地震が起こる前には、震源上空の電離層で電子数の異常増加が起きることが知られていました。

例えば日本では、2011年の東北沖地震、2016年熊本地震では、地震の発生直前に震源付近の電離層上空で異常が観測されたことがあります。

下図は、熊本地震の発生時刻の40分前(2016年4月16日0時45分)に、観測された上空の電離層の電子数の異常増加について、全国規模の評価結果を示したものです。

異常と判定された赤色の点が熊本県上空に集中していることが分かります。

熊本地震直前に観察された電離層の異常に関する全国規模の相関解析結果 / Credit : 京都大学

また地震のときには、電離層の位置がが20km下方へ移動したり、中規模伝搬性電離圏擾乱(MSTID)の速度が遅くなる、という事象も観測されています。

MSTIDは一種の波動であり、その異常はGPS信号や無線通信などにも影響を与えることが知られています。

このようなタイミングの一致は、地面の異常である地震と空の異常である電離層の乱れが無関係ではない可能性を示しています。

しかし電離層での電子の動きが地震と関わる詳細なメカニズムについては明らかにされていませんでした。

そこで、京都大学の研究者たちは地震と電離層の変化の因果関係を突き止めることにしました。

地殻変動が電離層の異常に繋がる物理的メカニズム

地震と電離層は関係しているのか?

謎を突き止めるため研究者たちが着目したのは、地質成分でした。

近年行われた震源地付近での地質調査では、断層地殻の溝には滑りやすい粘土層(スメクタイト)が存在し、その中に多量の水が含まれている可能性があることが明らかになっています。

また地震が起きて地面が激しく揺さぶられると、水を囲む層が高圧下で摩擦を受けることで非常に高温になると予想され、同時に内部の水は高温・高圧下では超臨界状態となると考えられています。

超臨界状態とは、特定の温度と圧力を超えたときに起こる、物質が液体でも気体でもない特別な状態です(水の場合には374℃、218気圧以上で超臨界状態となります。)。

また超臨界状態では、絶縁性が大きくなり、摩擦などで発生した粘土と水の混合物の微粒子がプラスに帯電することで破砕層を横切る電圧が上昇することになります。

そして上昇した電圧はどこかに伝わろうとします。

研究者たちはこのときに出現する莫大な電圧が、電離層に影響すると考えました。

無数の裸の電子を含む電離層は、ちょうどコンデンサーのように働いて電気を蓄えたり伝える役割を果たし、地上での電圧変化を電離層にまで影響を及ぼす可能性があったからです。

地震が起こる地下と電離層は一見するとかなり離れてみえますが、震源地で発生した「逃げ場のない莫大な電圧」にとって電離層は唯一の救いになるかもしれないからです。

もしこの説が正しければ、地下と電離層は電気的繋がりがあることになり、電離層を観測することで地震の予兆を捉えることができるはずです。

そこで研究者たちは高温・高圧の超臨界を模擬した条件で、粘土と水の混合物の帯電性に関する試験を行いました。

この試験では、実験室に粘土と水の混合物をステンレスの容器で囲い、温度、圧力を上昇させてみました。

すると実際に、粘土と水の混合物が帯電し、電圧が発生することが確認できました。

下図は温度と電圧の時間変化を示しています。

試験結果では、温度が約350℃の時点(赤い矢印)で破損したステンレス容器から噴出した、粘土と水の混合物(微粒子)の電圧が階段状に20mV上昇したことが確認でき、同混合物が超臨界に近い状態でプラスに帯電することが示されました。

粘土と水の混合物の超臨界付近での帯電測定結果 / Credit : 水野晃ら, International Journal of Plasma Environment Science and Technology(2024)

この研究では、超臨界に近い状態で発生した水と粘土の微粒子がプラスに帯電すること、および 地震発生直前の破壊メカニズムが電離層の擾乱を引き起こすのに十分なエネルギーを持つこと、に関する可能性が確認されました。

以上の結果から、大地震発生直前の地殻変動から電離層の異常に至るシナリオは、ある程度の裏付けがなされました。

電離層の異常は地震発生の1時間前くらいに観測できる事象です。

1時間というと短いかもしれませんが、震源地直上の住民や津波が予想される地域の住民が避難するためには、貴重な時間と言えるでしょう。

ただこの貴重な時間をパニックを回避しつつ活用するには避難計画の見直しが必要になるかもしれません。

電離層観測による地震予知のシステムが普及するまでの間に、人間側の準備も進めていきたいものです。

参考文献

時事ドットコムニュース
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041900707&g=soc
京大ウィークス2024
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2017-03-01

元論文

A capacitive coupling model between the ionosphere and a fault layer in the crust with supercritical water
https://doi.org/10.34343/ijpest.2024.18.e01003

ライター

鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。

編集者

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

元記事で読む
の記事をもっとみる