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辻村深月、初の本格ホラーミステリー『闇祓』。「ある一家」の“闇ハラスメント”が周囲を蝕んでいく――、一気読み必至のヒトコワ系小説

  • 2024.10.23
ダ・ヴィンチWeb
『闇祓』(辻村深月/KADOKAWA)

辻村深月氏初の本格ホラーミステリ長編として発表され、先日文庫化された『闇祓』(辻村深月/KADOKAWA)。辻村氏の大ファンでありながらもホラーが苦手で本作は手に取れなかった私だが、文庫化の知らせを聞いてついに購入。一晩で読み切った。

結論から言うと確かに怖い。得体のしれないものへの恐怖、「本当に怖いのは人間」という恐怖のどちらも詰まっている。しかしただ「怖かった」では終わらない読後感に「もっと早く読めばよかった」と思った。

まず辻村氏は情景描写が上手い。日常風景はもちろん、どの作品も一番盛り上がるシーンでは人物の表情、情景が洪水のように頭の中に流れ込む。その勢いがすごい。それが恐怖に振り切って描かれるとどうなるか。得体のしれない“何か”が自分に近づいてくる重苦しさ。それに今にも絡めとられそうになる切迫感。そんな焦りを伴った恐怖から逃げたくて、ページをめくる手が止められなくなる。

人間の怖さを描いた部分は、まさに辻村氏の得意技。例えば相手の美点だと思っていたはっきりした物言いが、距離が縮まるにつれてエスカレート。だんだん威圧的・支配的でハラスメントのような状況になっていく。その描写がまず見事だし、支配されそうになっている側が、おかしいと気付き始めているのに見ぬふりをして順応しようとするのもリアル。やり過ごそうとした結果、ついに相手の言動が一線を越えた時の“ドン引き”どころか絶望に近い恐怖が、私たちを震え上がらせる。それはともすれば自分にも起こり得る、身近な闇を描いているからだと思う。

もうひとつ本作に登場する闇はマウンティング。それもただ自慢し、相手を見下すというシンプルなそれではない。例えば第二章の主人公・梨津は、誰もが羨むママ友が主催するお茶会に参加し、「周囲に自分を褒めさせるような空気を作っている」とそのママ友に対して感じる。第五章で登場する女性は子育てのため休業中の医者で、夫も大学病院勤務の医者。そのことについて、「相手が自分より大したことない夫や職業を自慢してきたら可哀想だから」先に伝えるようにしている。

そんな細かい“嫌な感じ”を辻村氏は毎度のことながら的確に表現。特にアナウンサー時代は“知性のリッツ”と呼ばれた梨津は「自分は周囲の人間とは違う」という気持ちを持ち、人間関係に常に注意を払う。そう心の声から感じるのだが、辻村氏の特に初期の主人公と似たものを感じ、勝手に嬉しくなった。

ちなみに、「恐怖から逃げたくて、ページをめくる手が止められなくなる」と書いたが、ラストへのヒントがそこここにちりばめられているので、決して流し読みしてはいけない。ラストの感動を味わうために、恐怖に負けずじっくりと読み進めてほしい。

文=原智香

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