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ドラマ『民王R』スタート記念 池井戸潤さん×遠藤憲一さんスペシャル対談 作家にも「総理」にも乗り越えられぬ山はない⁉︎

  • 2024.10.23

今度の入れ替わりは全国民と? 総理大臣・武藤泰山と息子の翔の中身が入れ替わり、大混乱する人々や政局をコミカルに描いた『民王』から9年、Inspired by 池井戸潤『民王R』が、テレビ朝日系列(毎週火曜よる9時~)で10月22日夜9時から待望のリ・スタート!

毎回、泰山と国民の誰かが入れ替わるという前代未聞の設定に、『民王』著者の池井戸潤さんは、なぜか驚きを隠せず……?

折しもの選挙戦と併せて話題を呼ぶこと必至の放送開始を前に、池井戸潤さんと主人公・武藤泰山を演じる遠藤憲一さんが、作品への思い、さらに、それぞれの仕事観、人生観について語り合いました。

撮影 冨永智子 取材・文 大谷道子

相変わらずおバカですが、「芯」は外していません

遠藤憲一(以下、遠藤) まさか選挙戦の最中の放送開始になるなんて……これ、狙ってたわけじゃないんですよ? また『民王』をやりましょうって言われたのは、相当前のことなので。でも、やっぱり何か「持ってる」作品なんだろうなぁ。きっと政治にも興味を持って見てくださる方、多いんじゃないかと思います。

池井戸潤(以下、池井戸) そうですね。最初のドラマ化の原作になった『民王』(2010年に単行本刊行)は、時の総理大臣があまりにも漢字が読めないのは実は誰かと中身が入れ替わっているせいなんだという「真実」に、僕が偶然気づいてしまったことから書いた小説だったんです。

遠藤 「真実」ね。ハハハ。

池井戸 それで、総理大臣とバカ息子の入れ替わりの小説を書いて、その後、楽しいドラマにしていただきました。前回は深夜枠だったこともあって、おバカな設定がすごくはまってて、面白かったです。

遠藤 ありがとうございます。前回は俺、総理になったとはいっても、ドラマでは気弱な設定の息子の翔(菅田将暉・演)とほぼ入れ替わってたので、ずーっとしょげた状態で。しゃべりも態度も弱々しいので、それが鬱陶しいのか、そのうち監督とかから舌打ちされるようになって(笑)。人にぶつかっては謝って、そのうち椅子やテーブルにぶつかっても「あっすみません」って。

池井戸 (笑)

遠藤 9年前の悩みは、この翔ちゃんのクセから抜け出すのが大変だったってことでした。でも今回は入れ替わる相手が毎回違うので、さらに大変で……でも池井戸さん、誰と入れ替わるか、ご存知ないんですよね?

池井戸 ええ。今回は原作ではなく、「Inspired by池井戸潤」なので。台本、まったく読んでないんです。台本が送られてきたら、表紙だけは見るんですけど、「はい」ってすぐマネージャーに渡してて。

遠藤 すごいよなぁ、大胆っていうか……。でも、面白くなっていると思いますよ。毎回、若い女の子とか青年とか、5歳児とかおばあちゃんとか、いろんな人と入れ替わるんですけど、その人たちの抱える問題がテーマになっていて、毎回、テーマについて大真面目に語る場面があるんです。池井戸作品といえばの社会的な視点が、バッチリ盛り込まれていて。

池井戸 楽しみですね。いわゆる入れ替わりものって、小説やドラマにはよくありますが、政府の中枢にいる首相が、なかなか目の届かない一般の人たちと入れ替わることで、その人たちの悩みや苦しみに気づくこともあるんだろうと思います。そうした社会的な意味を問う入れ替わりが描かれてるといいなと……って、もう脚本できているんでしょうから、今さらですけど(笑)。

遠藤 はい。バカなところもありつつ、そこのところはちゃんと!(胸を張る)笑って考えさせられ、たまにホロッとくる、中身の濃い作品になっていると思います。

池井戸 よかったです。何より、ドラマ制作チームの方々が、僕の原作の建て付けを使いつつ1話完結の独自のアイデアでやりたいと考えられたことが重要なので、僕としては「思い切り、自由にどうぞ」と。『民王R』は、芯となるテーマさえ外してなければ、あとはお行儀悪く、ぶっちゃけ、爆発していればいいと思うので、今回は完全にいち視聴者として、拝見するのを楽しみにしています。

苦労した作品ほど、きっといい思い出になるはず

遠藤 とはいえ、毎回毎回違う人と入れ替わるのって、本当に大変なんですよ。「武藤泰山に乗り越えられぬ山はない!」というセリフが出てくるんですが、俺、この作品が今までの役者人生でいちばん大変かも? と、じわじわ感じ始めてて。登れるのかなぁこの山……って。

池井戸 それはそうですよ。物語って、長くても短くても1つ考えるのにかかる労力は同じなので。演じる方もきっとそうで、遠藤さんは『民王R』では毎回、別のストーリーで違う役を演じているようなものですから。

遠藤 そうか、俺がこんなに疲れているのはそのせいだったんですね(笑)。ただでさえセリフを覚えるのが早いほうじゃないし、テーマのことを思うと、ただ覚えりゃいいってものでもないので。言い方とか、姿勢とか、いろんなものを考えながら……油断するとまずいことになっちゃうんで、頑張ってます。

池井戸 僕が同じ危機を感じたのも、やっぱり最近の仕事ですね。今年の春に出した『俺たちの箱根駅伝』は、もしかしたら最後まで書けないかもしれないと思いながら、必死に書いていました。

遠藤 へえーっ。池井戸さんでもそんなことがあるんですか。

池井戸 上下巻で、下巻は1冊丸ごと箱根駅伝のレースを描写しているんですが、これがもうしんどくて……。だいたい小説を1つ書くと、その後1カ月くらいは疲れてるんですが、『俺たちの〜』のときは半年くらいずっと具合が悪かったです(笑)。

遠藤 大変でしたね……でも俺も、楽しいって気持ちだけで仕事をしたことは、あんまりないかもしれません。そういうときは、諦めないっていうことが、やっぱり大事なのかな? 今、この苦しいときを通り抜ければ、絶対にいいものができるはずだからと信じて。

池井戸 そうですね。小説を書くのも、いつも楽しいばかりではなくて、「ザラ場」(証券取引用語で、単調な取引が続く場面のこと)みたいな箇所が必ずあるんですよ。そういうときには、「ここがもう少し面白くなるアイデアがあるんじゃないか」と。何しろ、書いている自分すら面白くない場面は、読者にとって面白いはずはないですから。

遠藤 なるほど。

池井戸 逆に、僕がすごく苦労して書いているところは、たいてい読者が面白がってくれるところでもある。ですから、書き続けるのが難しいなと思ったときこそ、面白い切り口がきっとあるはずだと思って、考えに考える。そういうチャレンジが面白くてずっと小説を書き続けている、そんな面はあると思います。

いくつになっても挑戦し続けられる。それって、素晴らしいこと

遠藤 そうか……そうですよね。俺も、苦しさを感じるっていうのは、充実してる証拠でもあるんだろうなと思うようにしています。ただ楽しいだけじゃなく、大変さもあるから充実してやれているんだと。だから、今みたいな時間が、実はいちばん幸せなのかもしれませんね。俺、今63(歳)なんですけど、以前、俳優の先輩が「60代はいいぞ」って言ってくださったことがあって……あ、池井戸さんも60代?

池井戸 今年、61になりました。

遠藤 そうなんですか。えーと、先輩、どなただったっけ……顔は浮かんでるんだけど、お名前が……。

池井戸 わかります、それこそが60代ですよ!(笑) 忘れたわけじゃないけど、名前が出てこない。

遠藤 って池井戸さん、俺より2つも若いじゃないですか! ……そうだ、西郷輝彦さん! 亡くなられる少し前にドラマで共演したとき、撮影の待ち時間にセットの中で「きみ、いくつだ?」と訊かれてもうすぐ60なんですと言ったら、「若ぇな! 60代はいいぞ」って。で、どんなふうにいいんですかって訊いたら、西郷さん、真剣に声を顰めて話し始めたんだけど、当時、コロナ対策でフェイスシールドをしてたから、その声が小さくて聞き取れなくて(笑)。

池井戸 ハハハ!

遠藤 聞きたいけど聞こえない、聞こえないとも言いづらい……と思ってたら、撮影が始まっちゃって。でも、あとで別の機会に聞いたら、「60代は今まで体験したもの全部をぶつけられる世代。だから、最高なんだよ」と。

池井戸 いいお話ですね。

遠藤 そうなんです。まだ俺も60の前半だから今が最高だとはなかなか思えないんですけど、いつかきっと……とくに『民王R』で今、こうして苦労していることが、後々になって「あの頃、素晴らしい体験をさせてもらってたんだな」と思えるんじゃないかと。いくつになっても、こうして挑戦できる状態にあるのは、やっぱり幸せなことですよね。

池井戸 そうですね。この先、何歳くらいまでチャレンジできるのかわかりませんが、自分が面白いと思えるものを考え続けていきたいと思います。『民王R』にはこの先も口出しはせず、どーんとお任せしますので、どうぞ皆さんで力を合わせて頑張ってください。

遠藤 ありがとうございます!

池井戸潤 いけいど・じゅん 1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で直木賞、20年野間出版文化賞、23年『ハヤブサ消防団』で柴田錬三郎賞を受賞。最新刊は『俺たちの箱根駅伝』。

遠藤憲一 えんどう・けんいち 1961年東京都生まれ。83年、ドラマ『壬生の恋歌』でデビュー。以降、シリアスからコメディまで幅広い映像作品に出演。最近の出演作に映画『スオミの話をしよう』『赤羽骨子のボディガード』、ドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』『君が心をくれたから』などがある。

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