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仲野太賀、“演劇の父”の作品で念願の主演 『虎に翼』優三さん役は代えがたい経験に

  • 2024.10.23
仲野太賀 クランクイン! 写真:高野広美 width=
仲野太賀 クランクイン! 写真:高野広美

『虎に翼』『新宿野戦病院』と話題作への出演が続き、11月には映画『十一人の賊軍』の公開が控えるなど、フル回転の活躍を見せる仲野太賀。2026年放送の大河ドラマ『豊臣兄弟!』での主演という大役も控える彼が、“演劇の父”だという岩松了とのタッグで舞台『峠の我が家』に挑む。六度目の登板となる岩松作品の魅力や、「代えがたい体験だった」と語る『虎に翼』で演じた“優三さん”との出会いなど、充実期を迎える仲野太賀の今を語ってもらった。

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◆舞台デビュー作から13年 夢が叶った岩松作品の主演

本作は、『結びの庭』(2015、宮藤官九郎主演)、『家庭内失踪』(2016、小泉今日子主演)、『少女ミウ』(2017、黒島結菜主演)、『二度目の夏』(2019、東出昌大主演)など、次々と話題作を発表、高い評価を得てきた、M&Oplaysと岩松了が定期的に行っている、人気プロデュース公演の最新作。夏の間は旅館も営む、峠にある古びた家を舞台に、そこに嫁いだ女と、たまたま立ち寄ることになった男、さらには2人を取り巻く人々、それぞれが心に抱えた傷や痛み、思惑が交錯する様が描かれる。岩松了が作・演出・出演し、仲野のほか、二階堂ふみ、柄本時生、池津祥子、新名基浩、豊原功補といった熟練のキャストが顔をそろえた。

2011年に岩松作・演出の『国民傘-避けえぬ戦争をめぐる3つの物語-』で舞台デビューを果たした仲野にとって、今回の『峠の我が家』は、初めて単独主演として岩松の演出を受ける作品だ。

「18歳で出た『国民傘』は、ワークショップオーディションで出演が決まりました。そこから今に至るまで、5作品に出させていただいて。少しずつ役のウエイトが大きくなっている実感はあったんですけど、自分自身、俳優としての演劇のキャリアが、岩松さんの作品と共に積み上がってきたというか、岩松作品があったからこそ育ててもらったという自負があったので、出会って10年以上経ち、自分も31になって、こういうタイミングで初めての主演ということですごくうれしかったですね。ひとつの目標でもあったので、夢が叶いました」。

オファーを受け、「キター!!!!」という感じだったという仲野。台本を読み、本作をどんな作品と捉えたのだろうか?

「キャラクターの中に戦争っていうものの影を色濃く感じるといいますか。背景としては戦争があり、心に傷がある人だったり、過ちを犯してしまった人だったり、そういう人が赦しを求めながら惹かれ合っていくような印象です。でもそれをとても分かりやすい表現で描いているわけではないので、そのキャラクターが何を思って何を感じているのか、想像しながら観てほしいです。舞台上にあるものだけじゃなく、水面下にあるものを読み取りながら観てもらうと楽しいんじゃないかなと思います」。

今回演じる安藤は、峠を越えたところに住む兄の戦友の家に、戦友の軍服を届けに行くという男性。何か隠された事情を抱えるように映る人物でもある。岩松からは「逸脱する男の色気を期待してます」とのコメントも寄せられた。

「読めば読むほど、すごくカロリーが要りますね。平常な精神状態じゃなく、どこかずっと心拍数が高いというか、むしろ落ち着ける場所を潜在的に探している印象なんですけど、まぁやっていて落ち着かないです。これがずっと続くのかと思うと大変だなと(笑)。色気については今のところ逸脱しきれていない(笑)。岩松さんもそのことに一切触れないんです。どうなんでしょう? それがゴールとも思っていないので、いつか出れば…っていうくらいで、今はそんなに考えてはいないです」。

◆岩松演出は「毎回新しい扉を開けてくれる」


以前のインタビューで仲野は、岩松作品以外の舞台に出演しても「心の中で『これは岩松さんはどんな風に思うんだろう』とか、どこかで岩松さんの視点を感じながら」やっていたと語っていた。

「勝手に演劇の父と呼んでいるんです。岩松さんは息子だという認識はないと思いますけど(笑)。自分の原体験が岩松さんの戯曲で、その時の衝撃がすごかったんですよね。今まで自分が読んできたものと、まったく違う。いわゆる分かりやすい、王道のお話ではないですし。戯曲の奥深さというか、演劇の世界の楽しさを教えてくれた人。そういうイメージですかね」。

岩松作品は「見るたびに新しい仕掛けがある。これだけ作品をたくさん作られている中でも、常に何かを更新していく姿というのは表現者としてすごく尊敬しています」と語る仲野だが、前作『いのち知らず』以来、3年ぶりに岩松の稽古場に来て驚いたことがあったそうだ。

「ものすごい速度で芝居が立ち上がっていくんです。それも、1つのシーンを一通りやる上で、細かいところで、止めて、直して、またその先をやって、止めて直してっていうのがものすごく緻密で的確なんですよね。恐ろしい速さで芝居が積み上がっていく様を見て、『こんなに早かったっけ? なんか超人的な演出力だな』と。ついていくのに必死です」。

岩松の演出の魅力はどんなところに感じているのだろう?

「岩松さんの演出を受けると、『こんなところに扉があったんだ!』『その手があったか!』みたいに新しい扉を毎回開けてくれる感じがしますね。あと、演出する言葉がすごく詩的というか美しいんですけど、その言葉に岩松さん自身はそんなに期待していない感じがするというか。形容できないものが見たい時にその道筋を作ってくれる感じで、自由度があるんです。俳優としてはいろいろ試せるのでやりやすいですね。岩松さん自身が自分も分からないからみんなで動きながら作っていきたいというやり方をされていて、みんなで作っていく感じがすごく楽しいですし、挑戦的で稽古場がスリリングです」。

演出の岩松は、「峠」という旅館を営む主人役で出演もする。演出家・岩松了と、共演者・岩松了の印象の違いはあるのだろうか?

「目が違いますね。演出されている時は眼差しの鋭さがあります。岩松さんのダメ出しは、多い人とそうじゃない人がいて、僕はどちらかというと少ない方な気がするんです。でもそれはダメじゃないということじゃなくて、泳がされているというか(笑)。こいつが良くなっていくのを待っているという感じですかね。何も言われないけれど、いいとも言われないみたいな。僕としては言っても言わなくても、緊張感があってとっても怖い(笑)」。

今回、仲野が演じる安藤との間に、恋のようなある感情が芽生える斗紀役を二階堂ふみが演じる。二階堂とは彼女の初舞台『八犬伝』(2013年)で共演した仲だ。

「お芝居でご一緒するのは10年ぶりくらいなんです。一緒に仕事をしていない間も、ふみちゃんの大活躍はもちろん見てきているので、舞台上でセリフを交わし合う時間がすごく楽しみですね。もともとすごく仲の良い友人なので、こういうちょっと恋愛要素というか、惹かれ合うような役をやるのはこっぱずかしいのかな?と思ったんですけど、芝居が始まってみればそんなことは全然なくて。信頼しあっているからこそ溶け込めるものがあるなと思っています」。

◆『虎に翼』優三さん役との出会いは代えがたい経験


今年、朝ドラ『虎に翼』で演じた、ヒロインをどんな時も優しく温かく包み込む夫・優三役が大きな話題を集めた。

「たくさんの方に面白いね、って言ってもらえるのがすごくうれしかったです。代えがたい経験でしたね。僕自身の中に優三さんの、寅ちゃんの顔を見ると自動的に発動する感情みたいなものがしっかり出来上がっていて、それが撮影後もずっと残っていたんですよね。そういう経験は珍しいというか、めったになくて。すごい時間を過ごさせてもらったなと思っています」。

普段はすぐに役が抜けるというが、今回の“優三さん”は違った。

「一度クランクアップした後に、“イマジナリー優三さん”として終盤にまた出演したんですけど、その間、半年間くらい空いていて他の作品の撮影もしていたのですが、優三さんの衣装を着てメイクをして(伊藤)沙莉ちゃんの顔を見たら、ヤバい!泣きそう!みたいな。こんな感情まだ残ってたんだ!と、とても不思議でした。沙莉ちゃんはクランクアップの日に、『私は3日くらいで(役が)抜けます』みたいなことを冗談で言っていて。信じられない! こっちは半年経っても残ってるんだぞ!って(笑)」。

『虎に翼』に加え、チャラい美容皮膚科医を演じた『新宿野戦病院』、そして山田孝之とダブル主演を務める映画『十一人の賊軍』と、実に幅広い作品とキャラクターに挑戦し続けている。来年には、大河ドラマ『豊臣兄弟!』の撮影も始まる。「今回の舞台でも、今出せるものを全部出します! 全ベットします! ぜひ劇場に観に来てください!」、そう力強く語る、充実期真っただ中の仲野太賀の生の芝居を体感できる、貴重な機会を逃すわけにはいかなそうだ。(取材・文:佐藤鷹飛 写真:高野広美)

M&Oplaysプロデュース『峠の我が家』は、東京・本多劇場にて10月25日〜11月17日上演。

ほか、新潟・りゅーとぴあ新潟市民芸術会館 劇場にて11月21日、宮城・多賀城市民会館 大ホール(多賀城市文化センター内)にて11月24日、富山・富山県民会館 ホールにて11月27日、愛知・東海市芸術劇場 大ホールにて11月30日・12月1日、広島・JMSアステールプラザ 大ホールにて12月6日、岡山・岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場にて12月8日、大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて12月13日~15日上演。

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