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【インタビュー】髙砂雅美さん「見ようとしないと見えないものがある」身近な自然を感じる、都会での暮らし

  • 2024.10.23

閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。英語では更年期を「The change of life」と表現します。その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか—。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。

今回お話を伺ったのは・・・
髙砂雅美さん
1963年生まれ。出産後は自然写真家の夫の仕事をサポート、環境問題に興味を持つ。2007年から自宅で食や文化を通した国際交流を行う。ゴミ削減のためのコンポストや、そのコンポストを使った発電や蓄電、また、その実用化を模索しながら、都市でもできる持続可能なライフスタイルを目指して活動中。

人間も大自然の一部

2011年の東日本大震災で髙砂雅美さんの夫の故郷、石巻も壊滅的な被害にあった。

「義父は震災の数日前にガンの手術で退院したばかりだったのに、夫婦で壊れた家の2階で暮らしていました。二人ともすごく我慢強く、ずっと大丈夫と言うんですよ。実際は全然大丈夫ではないのに。なんとか説得して東京に来てもらってしばらく同居しました」

都内の雅美さん家族の家は震災支援の拠点になり、多くの人の厚意が集まった。当時、雅美さんは48歳。

「友人知人、見知らぬ人たちがこんなに応援してくださって感謝する日々でした。でもそれと同時に、被災した人はもちろん応援する人たちも大変なのに、自分も大変だとは言えない、という状態が続きました」

心身ともに疲労して、気持ちが塞ぎ、悲しくてたまらない。やる気が出ない……。雅美さんは自力で回復しようとしたがうまくいかず、同じような経験をした友人から、「内側から開けようとしても、外からしか開かない窓があるのよ」と心療内科を勧められた。

素晴らしい医師にも出会えたが、病名をつけられ薬の処方をされるのが、どうも腑に落ちない。そんな頃に近所の食料品店で、東城百合子さんの著書『自然療法』と出合う。

その本の「うつ」の項に「賑やかな場所を2時間以上歩く」という療法を見つけ、雅美さんは実践した。うつ気味の時はなるべく人混みを避けがちだが、まったく逆の「人混み療法」である。

「うちから渋谷のスクランブル交差点まで歩いて帰ってくるとちょうど2時間くらいなんです。それを夜の散歩の日課にしました。人も自然の一部だから、人に癒やされるということがあるのだと実感しました」

問題点を可視化して受け止める

もともと体が丈夫ではなく、自分より他者に気持ちが向かいがちな雅美さんは、更年期ゆえに具合が悪くなっているとは思っていなかった。

「でも震災後の一連の不調は、震災のストレスに加えて、変化しつつあったホルモンバランスと関係していたのかもしれませんね。更年期にかかわらず、日本の女性は我慢をすることが当たり前だと思いがち。娘をはじめとするこれからの人たちには、もっと自分を客観視して、それを外に出してもらいたいです」

今では雅美さんは、自分の心身の様子を家族に伝えるようにしている。また、問題点を出す、さらには可視化するというのが雅美さんの得意技となった。

「コロナ禍の自粛期間中にちょうど閉経になりました。すんなりなくなって、とくに不調はありませんでしたが、撮影で1年の半分くらいは家にいなかった夫が、ずっと家にいて。結婚以来の初めての体験で戸惑いました(笑)」

そこで雅美さんは、夫の「生態写真」の記録を撮り始めた。 「歯を磨いている時とか何気ない姿を撮るんですが、ああ、こういう動物なんだな、とおもしろく見ることができました。夫は体が丈夫でわりとのん気で、私とは真逆なんですが、写真を通すことで、存在を丸ごと受け止められました」

こういう一見バカバカしいことが「心に効く」のだという。

「バカじゃない?って言われるようなことが好きみたい」と雅美さんはいたずらっ子のように笑って、こっそりと夫の生態写真記録を見せてくれた。

見ようとしないと見えないものがある

人は人生においてそれぞれにいくつかのターニングポイントがある。人生がガラッと変わってしまったり、最初はよくわからず予感だけで目指した世界が次第に開けたり。

雅美さんは20代に志したアングラ演劇に区切りをつけ、マリンスポーツの出版社に入って「こんな明るい、ぜんぜん違う世界があるんだ」と驚いたという。

しかしアングラ芸術を志した人だったからこそ、巡り巡って海や大自然の奥の見えないものを心の目で見るようになっていったのだろう。その出版社で水中カメラマンの夫と会い、娘を出産。その後、2000年に見た「夜の虹」が、今の雅美さんの暮らしや仕事につながる大きな大きなターニングポイントになる。

「家族でハワイに滞在した時に、夫が『メディスンマン』に出会い、夜空に出る虹がある、と聞いたんです。その3日後に実際に『夜の虹』を見ることができて。それから、夫の『夜の虹』を追いかける旅が始まりました。何度か私もいっしょに見ることができたのですが、その体験で見ようとしないと見えないものごとがあるのだと気づきました」

例えば、夜空に虹がかかっていても、気づかない人も多いという。その後、震災を経て、友人から勧められた海洋プラスチック汚染に関する映画を見る。
「私たちは何でも海に捨ててきたんですよね。プラスチックは人間の暮らしを助けてくれるもので、プラスチックには罪はありませんが、人間たちが追求する便利な暮らしを少しでも見直せたら、と思いました」

それから雅美さんは毎日ひたすら自宅から出るプラスチックゴミを撮影し続けた。得意技の可視化だ。 「こんなにプラスチックを使っているんだと驚きました。でも記録していくと、次第にゴミの量は確実に減っていきました」

ゴミを減らすためにアイデアを出して実行していくことで暮らしの中で創造性が動き始めた。
「制限のある暮らしの中で工夫するのがとにかく楽しい。思いがけない人生になりました」

使ったプラスチックをきれいに洗って撮影すると、そこには今まで見えていなかったものが写っていた。「あるのに見えていない、目を凝らすと見えてくる」という「夜の虹」は、今も雅美さんの生き方の根幹にある。

生ゴミを減らすために始めた微生物によるコンポスト。
雅美さんは室内に置き、微生物と暮らす気持ちで楽しんでいる。

生ゴミを微生物が分解する時に出る電流を使った発電にも挑戦中。
生ゴミは大切な資源でもある。

身近な自然を感じて都会で暮らしていく

数年前から実験をはじめた「コンポスト発電」も、目を凝らすと見えてくる世界のひとつだ。
雅美さんは家庭での生ゴミコンポストが生み出す微量の電力を暮らしに生かせないか、と探っている。

「家庭の生ゴミを減らす魔法の箱であるコンポストから電気をいただいて発電する実験を、電極を作る会社や大学の研究室と共同でやっています」

自然写真家の夫とともに世界中の大自然を追いかけてきた雅美さんは、今、身近な家の中にある自然の営みに目を凝らす。

「これからは都市農業、アーバンファーミングもしていきたいです。いっしょにやりましょうよ。無理せずコツコツ、ね?」

写真家の夫がDIYしたベランダで、ハーブや野菜を育てている。一部のプランターも夫による手作り! 海外の都市菜園を見学したり、微生物を生かした農法などを実験しながら菜園づくりを実践中。
「アーバンファーマーならぬ、オーバン(おばさん)ファーマーですね(笑)」と雅美さん。楽しみながら植物との交流を深めていきたいという。

〜私を支えるもの〜

幼い頃に亡くした母の片身の洋服などのハギレで作った熊のぬいぐるみ。
「娘が生まれる時に作りました。『トラベアー』と名付けて(トラベルと掛けて)、母の代わりにいろんなところに連れていって、旅先で写真を撮っています。
母と旅しているような気持ちになるんです」

「ハグ療法ってありますけど、一瞬で幸せになれますよね。心身に効きます」と、娘の夏子さんとハグ。

愛読書『家庭でできる自然療法 誰でもできる食事と手当法』(あなたと健康社)の中で、雅美さんの心にとくに響いたのが、「うつ」という項目に書いてあった「人混みの散歩」。
夜の散歩も心身を整える日々の習慣に。

自作の新聞バッグも生活の一部に。
「角をぴったり合わせて折るなど、ていねいに無心で作業すると、とても心が落ち着きます」。
ゴミを削減する中で、なかなか減らなかったのが野菜を入れるビニール袋。そこで新聞バッグを作り、野菜の生産者に渡しはじめたのだそう。

聞き手:石田紀佳さん
手仕事と自然にかかわる人の営みを探求するキュレーター。朝日カルチャーセンターなどで季節に沿った手仕事講座を開催。シモキタ園藝部が運営するハーブティーの店「ちゃや」にも携わる。

撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里

※大人のおしゃれ手帖2024年10月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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