1. トップ
  2. 恋愛
  3. 大統領選の結果次第で大きく変わる? アメリカの体外受精の未来

大統領選の結果次第で大きく変わる? アメリカの体外受精の未来

  • 2024.10.22

民主党の副大統領候補ティム・ワルツは不妊治療経験者

民主党の大統領候補カマラ・ハリス現副大統領(左)と、副大統領候補のティム・ワルツ。ワルツは7年に及ぶ不妊治療の末、2子を授かったことを公表している。Photo _ Andrew Harnik/Getty Images
Kamala Harris And Running Mate Tim Walz Make First Appearance Together In Philadelphia民主党の大統領候補カマラ・ハリス現副大統領(左)と、副大統領候補のティム・ワルツ。ワルツは7年に及ぶ不妊治療の末、2子を授かったことを公表している。Photo : Andrew Harnik/Getty Images

民主党副大統領候補のティム・ワルツは、7年に渡る不妊治療(当初は体外受精だと発言していたが、のちに人工授精だったと、妻のグウェン・ワルツが訂正)の末、二人の子どもを授かったことから、生殖技術の重要性を強く訴えている。また共和党大統領候補のドナルド・トランプも再選された場合、彼の政権は体外受精へのアクセスを保護するだけでなく、高額なサービスの費用を政府または保険会社が負担する、と述べた。

最近のフォックスニュースのタウンホールイベントでのインタビューでは、「私は体外受精の父だ」と発言。これに対して、副大統領のカマラ・ハリスは強く反論し、トランプが中絶に対する厳しい制限を導入したことで、体外受精へのアクセスが危機にさらされていると主張。特にトランプ政権が任命した最高裁判事によって、ロー対ウェイド判決が覆され、アメリカ全土で中絶の権利が制限されたことが、女性や家族に大きな影響を与えていると指摘した(ロー対ウェイド判決後、現在では中絶は20以上の州で禁止、制限、または利用できなくなっている)。両者の言い分が食い違う中、共和党と民主党の間でも、高度生殖医療に関する意見は政対立が続いている。両者のスタンスを見てみよう。

トランプが勝利すると、IVFには制限がかかる可能性も?

卵子提供を利用した体外受精の推奨年齢は、以前は50歳だったが、55歳になり、今ではさらに高齢化が進んでいるという。ハワイの不妊治療クリニック「Fertility Institute of Hawaii」(FIH)で、ドナー卵子を使用したIVFの最高年齢は63歳だという。Photo_ Joseph Eichele/Courtesy of FIH
卵子提供を利用した体外受精の推奨年齢は、以前は50歳だったが、55歳になり、今ではさらに高齢化が進んでいるという。ハワイの不妊治療クリニック「Fertility Institute of Hawaii」(FIH)で、ドナー卵子を使用したIVFの最高年齢は63歳だという。Photo: Joseph Eichele/Courtesy of FIH

まず共和党の見解だが、一部の保守派議員は、受精の瞬間から生命が始まるとする「胎児の人権(personhood)」法案を支持。この法律が成立すると、体外受精で作られたが、使用されない胚にも法的な人権が認められる可能性があり、体外受精の費用が高騰する恐れがある。通常、IVFでは多くの胚が作成され、その中から最も健康な胚を選んで子宮に移植するが、余剰胚は凍結保存されたり、廃棄されたりすることもあるが、胎児の人権法案により、余剰胚の廃棄や使用に厳しい制限がかかると、保存のコストが増加する可能性がある。また、訴訟リスクが高まるため、IVFクリニックが閉鎖される懸念もでてくる。

今年2月にはアラバマ州最高裁が体外受精で作られた胚を子どもと見なすとの判決を下し、複数のクリニックが不妊治療を一時停止した。これに対しては強い反発があり、最終的にアラバマ州議会はIVF治療を保護する法案を可決した。一方、民主党では、体外受精やその他の生殖技術へのアクセスを拡大することを支持。IVFを保護し、保険適用を拡大する法案の成立を目指している。これにより、カリフォルニア州のように、州レベルでの保険適用を義務付ける法律が他州でも導入される可能性が高くなってくる。つまり、共和党が勝利した場合、IVFには制限がかかる可能性があり、特に胎児の人権法が成立すると法律上の障害が増加。一方で、民主党が勝利した場合、IVFへのアクセスが広がり、保険適用や法的保護が強化されることが期待される。

日本人患者への影響は?

日本人も多く訪れるハワイの不妊治療クリニック「Fertility Institute of Hawaii」(FIH)。Photo_ Joseph Eichele/ Courtesy of FIH
日本人も多く訪れるハワイの不妊治療クリニック「Fertility Institute of Hawaii」(FIH)。Photo: Joseph Eichele/ Courtesy of FIH

不妊治療が普及しているアメリカへ、日本から渡米して、体外受精や卵子提供を受ける患者も多い。大統領選の結果は、日本人患者にも影響が出るのだろうか。ハワイの不妊治療クリニック「Fertility Institute of Hawaii」(FIH)は、アメリカ本土よりも近く、日本人のコーディネーターや医療スタッフがいるため、日本人に大人気のクリニックだ。アメリカでは一般的なオプションであるが、日本では制限がある、精子ドナーや卵子ドナー、また着床前診断(体外受精によって得られた受精卵の染色体や遺伝子を検査し、異常がないかどうかを調べる医療行為)を求めて、来診する人が多い。

同院の設立者である、ジョン・L・フラタレリ医師にアメリカ大統領選が与える影響を聞いた。「選挙の結果次第では、胎児の人権の法案が、他州に拡大する可能性がないとも言えませんが、ほとんどの州では、IVFに関しての問題が生じることはないでしょう。現在のアメリカでは、ほとんどの人の二親等の家族や親戚がIVFをしたり、生殖治療を受けています。高度生殖医療は非常に浸透しているので、立法を難しくします。胚の数や保存できる数を制限したりすることは可能ですが、極端に厳しい政策は限られると思います。ハワイ州はリベラルな州であり、ここで体外受精の方法を変えることについて、問題が起こることはないと予想しています」

日本人の高齢妊活コミュニティ内でも人望が厚い、FIH創立者のジョン・L・フラタレリ医師。Photo_ Joseph Eichele/ Courtesy of FIH
日本人の高齢妊活コミュニティ内でも人望が厚い、FIH創立者のジョン・L・フラタレリ医師。Photo: Joseph Eichele/ Courtesy of FIH

FIHでは、体外受精の際に、使用されなかった余剰胚のドネーションやアダプションも行っている数少ないクリニックの一つだ。余剰胚は多く存在するが、不妊治療で苦労して作った人々にとって、破棄することは困難で、しかし凍結保存代金も高いので、難しい問題だという。「私たちはアメリカ国内外で胚を希望する人々に提供しています。特定の人種の胚を希望する患者がいる場合、ほかのセンターからも胚を受け取っています。患者は胚を使用するか、破棄するか、品質保証や研究のために提供するか、またはほかの誰かに寄付するかのオプションがあります。

多くのカップルは胚を破棄することに悩んでおり、保存料金を払い続けたくないとも思っています。そのため、他の誰かが胚を使用できるように提供することが、魅力的な選択になります」と、フラタレリ医師。基本的には、誰でも胚を受け取ることが可能で、ドナー胚は卵子提供に比べて、はるかにコストが低い選択肢だという。「精子が必要な異性愛カップルにも、卵子が必要な高齢の女性の同性愛カップルにも、独身の患者、例えば精子や卵子、もしくは両方が必要な年配の男性や女性にも、パートナーがいるかどうかに関わらず、ドナー胚は最良の選択肢となります」

リプロダクティブ医療の先進国、アメリカでは、テクノロジーの発展に伴い、家族の在り方のオプションが広がっている。トランプとハリスの対立は、リプロダクティブ・ヘルスケアにおける政策の違いを強調しており、2024年の選挙における重要な争点となることが示唆されている。誰もが家族を持てる社会を目指して、選挙の行方に注目したい。

Text: Azumi Hasegawa Editor: Yaka Matsumoto

元記事で読む
の記事をもっとみる