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小島慶子さん、名品について「モノもカラダも、愛着をもって使う習慣を1日も早く身につけるのが最大の投資」

  • 2024.10.20

エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「名品」について。

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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜,23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外大学に進学し、今年から10年ぶりの日本定住生活に。

『名品を名品たらしめるものは』

52歳になったら、ただ持っていただけなのにいろんなものが名品化していました。時の流れとはありがたいものです。

昨日、仕事の打ち合わせをしていたら、担当の男性がなんと夫と全く同じ腕時計をしているではないですか。「あ、それ、もしかしてこれとペアでは?」と私がはめている時計を見せると、「ほんとですね! 古い型だから、つけている人滅多にいないんですよ。最近亡くなった父の愛用品をオーバーホールして磨いてもらったものなんです」と、まさにペアウォッチであることが判明。素敵なお話に胸温まりました。

私がその腕時計を手に入れたのは20世紀の終わりのこと。今から26年前に、のちに夫となる男性と、付き合い始めた記念にお揃いの腕時計をお互いに贈り合ったのです。当時は男性用が30万円、女性用が33万円でした(小さい方が作るのに手がかかるので高いのだとか)。今はきっと、数倍はするはずです。含み益ではち切れんばかりの、まさに名品。もしかしたら将来、息子が夫の時計を手入れしてつける日も来るのかもしれないと思うと、ちょっと切なくなります。私の時計は息子たちの大切な人の元に行くのか、現金化されるのか。どっちでもいいけど、100年先もシンプルな美しさを愛する誰かに大事にされていますように。

私の父は石が好きで、自宅には出張先で買い集めた世界中の石がたくさん飾ってありました(おかげで私は、高校の理科の授業で先生がアンモナイトの化石を見せてくれた時に「ええっ化石って、木彫りのヒグマみたいにどこのうちにもあるものじゃないんだ?」と初めて知ることに)。父は、母にジュエリーや宝石の裸石もたくさん贈っています。

そんな父の形見の品を、ジュエリーに執着の薄い母は気前よく私に譲ってくれました。なんだか思いが重たく感じられて仕舞い込んでいたのだけど、昨年ふと取り出してよく見てみたら、まあ素敵。シンプルでモダンなデザインのスターサファイヤの指輪、見事な大粒のオパールの指輪。今では、スターサファイヤは日常使いの愛用品になりました。

さらには知人のジュエリーデザイナーにお願いして、色とりどりの裸石の中からティアドロップ型のアクアマリンを人差し指用のリングに、ペアのムーンストーンをピアスに仕立ててもらいました。これまたヘビロテアイテムです。いずれも、父が母に贈ったのは半世紀ほど前のこと。家族の物語の宿ったジュエリーは、値段のつけられない世界に一つの名品です。

誰もが知っている高価なバッグやコートも、もちろん一生モノの名品ですよね。このところ、ブランド品は軒並み爆騰中ですが、もし「今なら……買える!!」という奇跡のタイミングがあったら、48回ローンでもボーナスすっからかんでもいいので、ぜひ思い切って買っておきましょう。年月と物語はお金では買えないので、長く持てば持つほど世界に一つの名品と化します。

私は30代の頃、子育てのストレスもあってか、一生モノのバッグや着物やジュエリーをちょくちょく買っていました。日本で発売されたばかりのピーカブーとか、自分で自分に贈るティファニーのダイアモンドリングとか。それらは52歳の今も全く古臭くならずに、思い出を宿して輝いています。時々「ああ、30代にもっと株を買っておけば!」と思うこともあるのですが、どんなお席でもとりあえずこれさえあればなんとかなるというバッグやジュエリーが一つ手元にあるだけで、プライスレスな安心感があります。そうそう、高額ブランドアイテムは羨望と嫉妬も引き寄せる怖〜いアイテムでもあるけれど、毎度同じものを持っていることがわかると、嫉妬は親近感と尊敬に変わるものです。

名品を名品たらしめるのは、職人技やブランドイメージだけではありません。何より大事なのは、手入れと思い入れの蓄積です。メンテナンスを重ねて、大事に使っていることが肝心。棚田と同じです。誰もが憧れる都心の一等地ではなくても、山間の小さな土地で人が繰り返し手を入れ、思いを込めて耕してきた棚田の作り出す風景のなんと美しいことか。

もしブランド品は予算が許さなくても、棚田なら始められます。これって身体も同じですね。経年変化は生きている証拠。でも40代から身体と仲良くして大事に扱えば、加齢は無二のストーリーになります。モノもカラダも、愛着をもって使う習慣を1日も早く身につけるのが最大の投資。必ずや、50代には名品持ちとなっているでしょう!

文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2024年9月号掲載時のものです。

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