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吉岡里帆さん「痛みを無視せず、受け止めてきたから強くなれた」

  • 2024.10.18

俳優の吉岡里帆さん(31)が、10月18日公開の映画『まる』で現代アーティストのアシスタントとして働くも、言いたいことや社会への不満を山ほど抱えている矢島役として出演しています。以前から荻上直子監督の大ファンで、今作が念願の「荻上組」参加だったという吉岡さんに、荻上監督作の魅力や、自分軸の保ち方、ポジティブになるための考え方などを教えていただきました。

不器用だけどみんな一生懸命生きている

――映画『かもめ食堂』や『川っぺりムコリッタ』など、人々の温かみあふれる交流が印象的な作品を手がけてきた荻上監督ですが、どんなところに魅力を感じますか。

吉岡里帆さん(以下、吉岡): 昨今は、説明が多くて分かりやすい作品がたくさん生まれていますが、荻上監督の作品は説明がほとんどなく、見る人の感覚に委ねているように感じるんです。以前、主人公の沢田を演じた堂本(剛)さんも仰っていましたが、どのキャラクターの立場で見るかで映画の色がぐっと変わっていくような、見る人の主観が入って完成するような感じがあって、「自分だけのもの」と思えるんですよね。

あとは、登場人物たちが一生懸命生きているところです。「不器用だけどみんな一生懸命生きているんだな」「自分一人じゃないんだ」と思わせてくれる、見ると救われる作品ばかりなので、そういうところに惹かれますね。

朝日新聞telling,(テリング)

――今回の映画「まる」にも、気持ちが軽くなるようなセリフやシーンがありましたね。

吉岡: 今回の作品は、私自身も気づきがたくさんありました。柄本明さんが演じる「先生」の「ジタバタ、オッケー」というセリフや、綾野(剛)さん演じる横山と堂本さん演じる沢田の二人のシーンで、「人は役に立たないとだめなのか」という話をしているとき、「何ができる?」と聞かれた沢田が「口笛」って答えると、横山が「いらないよね、それ。全然いらないよ。しかもオレ口笛吹けないしね」というやり取りがあるんです。それがおかしくて、大好きなんです。

そこに荻上さんの「役に立たなくてもいい」というメッセージが込められているなと感じました。横山は口笛も吹けないけど、漫画家を目指しているということだけで素敵だし、毎日一生懸命生きているんだから何の問題ない。人間ってダメなところと救いようがあるところ、両方を持ち合わせているんだなって、『まる』の登場人物を見ていると思うんです。

かっこ悪くて情けないことも全部自分の栄養に

――何気なく描いた「○(まる)」の絵によって、あっという間に有名アーティストの仲間入りをして世界が変わる沢田ですが、吉岡さんも「自分ではないような人生が突然転がり出す」といった経験をされたことはありますか?

吉岡: 私にとっては芸能界入りがそうかもしれないです。昔は書道が好きだったので、将来は書道に関連したお仕事がしたいなと思っていました。なので、まさかこんなに賑やかな世界に自分が来るとは想像していませんでした。

この業界にいると、いろいろな仕事があるんだなと驚くことも多いです。先日も初めて洋画の吹き替えを担当させていただいたのですが、新しい挑戦が次々と目の前に現れてくれるので、その挑戦を経て、どんどん自分が成長できてパワーアップしていくような感じがしています。

朝日新聞telling,(テリング)

――環境の変化が目まぐるしいと、自分軸が揺らいでしまうようなことはありませんでしたか。

吉岡: 昔は「どうすればいいんだろう」と、途方もなく悩むことがよくありました。なので、沢田の気持ちも分かるんです。「私って結局、何がしたかったんだっけ?」と、自分の進む道を立ち戻って考えることは、お仕事をしていたら誰もが一度は通る道かなと思います。

今はメンタルが強くなったので、ちょっとやそっとのことでは自分の軸がぶれることはないです。自分の中で大事なことが分かってきたので、焦点がピタッと合ってきた感じです。

――その「大事なこと」とは?

吉岡: これまで私が悩んできたことって、振り返るととても自分事すぎて、かっこ悪くて情けなくなることが多かったんです。でも、どうせなら笑って前向きに捉えて、全部を自分の栄養にしよう、とどこかの時点で決めました。沈んでいても仕方がないし、悩んでいる時間ももったいない。自分の殻にこもらず、相手にプラスのエネルギーが届くように自分を開くことを大事にしています。

――そんな風に物事をポジティブに考えられるようになったきっかけが何かあったのでしょうか。

吉岡: 理不尽なことや悲しいことを乗り越えてきたという経験だと思います。何か辛いことがあったら、その都度、痛みを無視せず、知らんぷりせず、ちゃんと自分のこととして受け止めて、そこを乗り越えてきたから強くなったのかなと思っています。

以前だったら、自分ができないことに出くわすと、「なんであの人はできるのに私はできないんだろう」と思っていたのですが、今は「でもきっと、私には他にすごくいいところがある」とか「何もなかったとしても、めちゃくちゃ頑張って生きている。それ以上周りも何も求めていない」と思えるようになりました。

勝手に人から求められているような気がしてしまうんですけど、意外と人って自分のことで一生懸命なので、他人のことって実はそんなに見ていないんですよ。そこを逆手にとって「私も自由に生きよう」と思うようになりました。

「この作品が世界で一番面白い!」と信じる気持ち

――「芸術」や「個性」に対して確固たる信念を持っている矢島ですが、仕事をする上で今のご自身が譲れない信念を教えてください。

吉岡: 今は映画もドラマも配信もあって、作品数が多い時代に突入しています。演じる私自身が「この作品が世界で一番面白い!」と信じる気持ちがないと、届くものも届かないなと思うので、そこはいつも大事にして、「私が関わっている作品、関わる人たちが最高!」って思うようにしています。

朝日新聞telling,(テリング)

――最近見て元気をもらった作品はありますか?

吉岡: 今更なんですけど、最近は「ピクサー」作品を見返しています。子供の時から大好きで『バグズ・ライフ』や『トイストーリー』などはずっと見てきてはいるんですけど、大人になった今改めて見ると、めちゃくちゃ泣けて心が浄化されるんです。「ジブリ」作品も同様で、先日久しぶりに『紅の豚』を見たのですが、元々大好きなんですけど「大人になるとこんなに見え方が変わるんだ」と驚きました。

「自分が好きなもの」を考え直してみる

――30代に入って、年を重ねることに今どんな思いがありますか。

吉岡: 年齢を重ねるのが怖いと思ってしまうと、いろいろ辛くなってくると思うので「素敵だな。こういうお姉さんになりたいな」と思える人たちと過ごすことを大事にしています。そういう先輩方を見ていると、年を重ねることが楽しみになるんです。

あとは、居心地がいいなと思う人間関係や空間、着るものやメイクなど、自分が好きなものをもう一度ちゃんと考え直してみるのもいいと思います。「人にこう見られたい」とか「誰かがこれを褒めてくれたから」ではなく、「自分は何が好きか」ということがぶれなければ、年齢なんて気にならないと思うんです。きっとそういうことは年を重ねていくにつれて磨かれていくことだと思うので、年々魅力が増してくはず、と思っています。

ヘアメイク:paku☆chan
スタイリスト: 飯嶋久美子(POTESALA)

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■慎 芝賢のプロフィール
2007年来日。芸術学部写真学科卒業後、出版社カメラマンとして勤務。2014年からフリーランス。

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