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「かわいくない」「何だか怖い」 AI生成の人物画像は、なぜ私たちを不快にするのか【脳科学者が解説】

  • 2024.10.17
【脳科学者が解説】AI画像生成で作られた「リアルできれいな顔」。最近は広告などでも「実際には存在しない人物」を見かけるようになりました。理想的な美しさで作られているはずなのに、なぜ気持ち悪さや不快感を覚えることがあるのか、分かりやすく解説します。
【脳科学者が解説】AI画像生成で作られた「リアルできれいな顔」。最近は広告などでも「実際には存在しない人物」を見かけるようになりました。理想的な美しさで作られているはずなのに、なぜ気持ち悪さや不快感を覚えることがあるのか、分かりやすく解説します。

生成AIで作り出された画像が、さまざまな方面で活用されるようになりました。WEB広告や店頭ポスターにも、画像生成された「実在しない人物」が登場し、「本物かと思った」と出来映えに驚く声がある一方、「何だか気持ち悪い」といった声も聞かれます。

生成AIで作られた人物は、多くの人が好感を持つような理想的な容姿で描かれているはずです。それなのに、なぜ「不快」と思われてしまうことがあるのでしょうか。脳科学的な側面から、考えられる2つの理由を解説します。

微妙な違いも見逃さず、違和感に気付く「脳が持つ、高い顔認識能力」

一つ目は、完璧に近いがゆえに、実在する人間とは明らかに違うと分かる「不自然さ」を感じ取ってしまうからです。

私たちが人の顔を見たとき、完璧なまでに美しい顔に好感をもつわけではありません。むしろどこか少しアンバランスでも親しみを持てる顔に、好感を持ったりします。

私たちは毎日多くの人の顔を見て過ごしますが、その中で「よく見慣れた」顔が、一番「違和感がない」顔となります。多くの場合、自分や家族や友達の顔でしょう。個々人で好き嫌いはあれど、基本的にはそうした「よくある顔」が一番心が落ち着く(=「気にならない」)対象なのです。

生成AIによる人物の顔は、「福笑い」のようなものです。多数の人が「美しい」と評価する目、鼻、口の形や配置を組み合わせて作られているため、「見たことがあるようなのに、今まで見たことがない」「違和感がある」「落ち着かない」という感じを覚えてしまうのでしょう。

また、生成AIによる人物画像は、本物と区別できないほどクオリティーが高くなってきてはいますが、決定的に劣っているところがあります。肌の質感、そして表情です。

私たち人間の肌表面は、角質と呼ばれる皮膚細胞がレンガのように集まってできていますので、いくら肌がきれいできめ細やかだと評される人でも、虫眼鏡などで見ると凸凹しています。写真では分かりにくくても、光の反射具合などから、私たちは「自然な肌の質感」を見極めることができます。

しかし現時点での生成AIでは、目・鼻・口・髪の毛などの部品ばかりが重視され、肌の質感までは考慮されていないようです。異様にツルツルとして、光を強く反射する肌は、「人間ではない」「気持ち悪い」と感じる原因の一つになっていると思われます。

表情も同じです。人間の顔の表情は、およそ30種類あるとされる表情筋の動きの組合せによって生じます。同じ「笑い」でも、微妙な違いで、心の底から笑っているのか、愛想笑いなのかが分かってしまいます。それくらい私たちは顔の表情の微妙な違いが分かる高い顔認識能力を備えているのです。

今のレベルの生成AIでは、顔の表情を十分に再現できていません。満面の笑みのようでも、どこか「心がない」「冷たいロボットのよう」という感じがします。

「自己」と「他者」の境目があいまいになることを嫌悪する「本能的な心理」

もう一つの大きな理由として、「自己ではない他者を排除したい」という、動物としての宿命的な心理が関係していると思われます。

私たち人間は「社会性の動物」なので、他者を仲間と捉えて集団で行動することもできます。しかし、動物の本能として最終的に一番大切なのは「自分」です。自分で自分の身を守るためには、自分以外の存在はすべて敵とみなして排除しようとする、本能的な心理が働きます。

ただし、ここで言う「自分」とは、必ずしも自分一人のことではありません。「自分を含めた仲間と見なせる範囲」と考えてください。その範囲は、状況次第で変わります。

例えば、私たちは「国」という概念で、同国の人たちを「自分と同じ仲間」と考え、行動するときもあります。五輪が開催されると、私たち日本国民は、すべての日本選手の活躍を同じように応援することが多いでしょう。

しかし、五輪に派遣される人を選ぶ国内予選のときには、自分が応援する選手が「自分と同じ仲間」であり、そのライバルとなる他の日本人選手は敵視します。家族や友人は、自分を助けてくれる大切な存在ですが、トラブルが起こると、ものすごく憎い存在になってしまうこともあります。

「家庭内殺人」などのニュースを聞くと、なぜ……と理解不能に感じますが、状況によっては、本当の自分以外はすべて「敵」になってしまうことがあるのです。これと似たような状況が、今の生成AIの登場によって起きているのではないかと思われます。

一昔前のCGで作られた人間のイメージは、明らかに実物とは違う存在と分かるレベルだったので、特に嫌だとか、得体のしれない不快さは感じなかったことでしょう。しかし、最近の生成AIによる人間の画像は、かなり本物に近づいてきました。

「偽物」と「本物」の境目が、どんどん寄ってきているということです。私たち人間の心理は、「自分」と「自分以外」の境目をはっきりさせたいと考えます。そのため、区別するための境目が寄ってきていることに対して、嫌悪感や不快感を覚えてしまうと考えられます。

「何となく」感じる不快さには、脳の高い働きや、動物的な本能としての心理が隠されているのです。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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