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園芸資材「石灰」にはどんな役割と種類がある?使い方のポイントや注意点を解説

  • 2024.10.16

園芸を行う上で必要不可欠な物として「土」があります。特に地植えや家庭菜園をする場合は、植栽する場所の土によって、水はけや水もちの良し悪しや土壌酸度の違いなどがあるため、土の性質をよく理解した上でその場所に適した植物を植えたり、適した土に改良することが大切です。土壌改良を行う際に役立つ物の一つが「石灰」で、特に野菜などを育てる場合には欠かせない資材。石灰には複数の種類があり、植え付ける作物に合わせて選ぶことが大切です。ここでは石灰の役割や種類、使うときの注意点や使い方のポイントをご紹介します。

家庭菜園における石灰の使用目的

石灰
Cyrustr/Shutterstock.com

まずは、家庭菜園で石灰を活用する主な目的について確認してみましょう。

酸性に傾いた土壌の中和

土壌酸度
kram-9/Shutterstock.com

多くの植物はpH5.5程度の弱酸性土壌を好みます。しかしながら降水量の多い日本では雨が降ると土壌中のミネラルが流れ出しやすく、近年は酸性雨の影響もあり、土壌全体が酸性に傾きやすい状況にあります。プランター栽培など土の量が限られている場合は、アルカリ分の流出や酸性の化学肥料の使用により、用土の劣化による土の酸性化がより早まりやすいです。

土が酸性に傾くことは植物に必要な養分であるカルシウムやマグネシウムの流出に繋がるほか、植物の根に障害を起こすアルミニウムイオンが土壌中から溶け出したり、養分となるリン酸の吸収が阻害されたりしてしまいます。また微生物の活動が緩慢になり、有機物の分解が遅くなるなど、多くの弊害があります。アルカリ性の石灰を酸性に傾いた土壌に混ぜ込み、中和することで、そのような状況を予防する効果があります。

カルシウムの補給

苦土石灰
FotoHelin/Shutterstock.com

植物の生育に欠かせない栄養素としてチッ素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)がありますが、それ以外にも大切で必要な微量栄養素は多くあります。カルシウムもその一つで、植物が細胞壁を作る上で欠かせない栄養素です。特に新しく作られる根や茎を成長させる際に必要で、十分なカルシウムを吸収している株は丈夫な細胞壁を持ち、病害虫にも強く、しっかりした株となります。石灰の主成分はカルシウムであるため、苦土石灰を施肥することで土壌中のカルシウム量を増やすことができます。カルシウムは水に溶けやすく、雨などで流出しやすいため、雨の多い地域では定期的に供給する必要があります。

家庭菜園でよく使われる石灰の種類

園芸資材
Art_Pictures/Shutterstock.com

ガーデニングや野菜類を栽培する際によく使われる石灰の種類としては、消石灰、苦土石灰、有機石灰の3種類があります。ここではそれぞれの特徴と使い方について解説します。

消石灰

石灰岩
Aleksandr Pobedimskiy/Shutterstock.com

消石灰(しょうせっかい)の原料は石灰石(炭酸カルシウム)と呼ばれる鉱物です。この石灰石を細かく砕き、焼成、加水、消化、熟成の工程を経たものが消石灰(水酸化カルシウム)となります。消石灰は石灰資材の中でもアルカリ性が強いため、中和作用が強力です。強酸性土壌の土壌改良を行う際に使用します。

石灰資材の中では酸度調整効果が高い消石灰は、取り扱いに注意が必要です。植物の根が直接消石灰に触れると傷んでしまうため、施しすぎたり熟成が不十分だと植物や作物に害を及ぼすことがあります。与えすぎに注意し、最低でも植え付けの2週間前、できれば1カ月前に土に施し、十分に土になじませてから利用するようにしましょう。また、この消石灰は目に入ると失明の危険があります。風の強い日の散布や子ども、ペットなどがいる環境下では使用しないようにしましょう。

苦土石灰

ドロマイト
vvoe/Shutterstock.com

苦土石灰(くどせっかい)の苦土はマグネシウムを意味します。石灰はカルシウムのことなので、この苦土石灰はマグネシウムとカルシウムの混合物ということを表します。家庭菜園で利用するのはほとんどこの苦土石灰です。苦土石灰の原料は「ドロマイト」という鉱石で、それを粉や粒状にしたものを使用します。ドロマイトの主成分は酸化マグネシウムと炭酸カルシウムなので、土壌中の中和と栄養補給を同時に行うことができます。すぐに土壌中に溶けることなく、中和作用が緩慢なため根を傷めにくいという利点があります。そのため家庭菜園初心者でも安心して使うことができます。

有機石灰

有機石灰
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有機石灰とは貝殻や卵の殻など有機質由来の石灰を粉砕し、粉状にしたものです。中和能力は高くなく、強い酸性土壌の改良には不向きですが、その分緩やかな土壌変化となり、同時に有機肥料として植物の栄養補給にも役立ちます。発熱などの化学反応もなく、他の肥料と一緒に使うこともでき、施肥後にすぐ苗の植えつけもできます。水に溶けにくく長期にわたって効果が持続するので中長期的に栽培する植物に向いています。市販されている有機石灰は牡蠣(かき)の貝殻を細かく砕いたものが多いです。そのほかにもエビやカニの殻を砕いたものなどもあり、これは土壌にキチン質を増やすことで有用な菌を増やし、病原菌のフザリウム菌やセンチュウなどの病害を抑制すると言われています。

消石灰と苦土石灰の違い

微量元素
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消石灰は炭酸カルシウムを原料とし、主成分はカルシウムです。カルシウムは丈夫な植物にするために必要な栄養素であり、施肥することで土壌中の不足を補うことができます。また消石灰はpH12という強アルカリ性なので、土壌改良のほか土壌殺菌にも効果があります。植物や動物に有害な細菌類は生息できる土壌中のpHが限られており、消石灰を広範囲に散布し、pH調整を行うことで駆除、殺菌することができます。ただし土壌消毒を行ってすぐは植物にとっても害のあるpH値なので、消毒後の植え付けは数週間後に行いましょう。

対して苦土石灰の主成分はカルシウムとマグネシウムで、土壌中のpH値を調整する力は劣りますが、カルシウムという栄養素に加えて植物のエネルギーを作る元である葉緑素を作る上で欠かせないのがマグネシウムです。酸度調整効果が消石灰と比べると低く消毒には向いていませんが、植物にとっても比較的安全で改良後すぐに植え付けたり、2つの栄養素を一度に補ったりすることができ、扱いやすさから小規模な家庭菜園などでよく使われています。

苦土石灰の必要性を見極める方法

土壌
Rainer Fuhrmann/Shutterstock.com

苦土石灰を使用したほうがよいかを考えるためには、使う土の酸性度(pH)とカルシウム不足について把握する必要があります。土壌の酸性度の測定にはさまざまな方法があります。主な測定法としては、ホームセンターや園芸店で手に入る酸度計を使ってpHを調べるほか、リトマス試験紙で判定することもできます。リトマス試験紙を使う際は、地面から5~10cm程度の深さから土を採取し、蒸留水を1:2.5の分量で混ぜてよく撹拌し、30秒後に上澄み液を測定液やリトマス試験紙で測定して判定しましょう。

土の状態の大まかな目安としては、スギナやオオバコ、ハハコグサ、カヤツリグサ、メヒシバ、イタドリなどの雑草が目印になります。これらの植物が多く生えている土壌は酸性に傾いている可能性があるので、測定してもいいかもしれません。カルシウム不足については作物の障害で見極めることができます。土壌中のカルシウム分が不足するとトマト、ナス、ピーマンなどの果実に尻腐れ病が発症します。またキャベツやハクサイの芯腐れや葉先の枯れなどが顕著になります。

苦土石灰の使用量

石灰
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栽培したい植物によって適した土壌の酸度(pH)は異なります。まずは育てたい植物に適した酸度を調べましょう。その上で土壌改良が必要と判断された場合は、苦土石灰などを用いて酸度を調整します。1㎡あたりの土のpHを1.0上げる(アルカリ性に傾ける)目安は、消石灰なら80g、苦土石灰なら100g、有機石灰なら130gとされています。土1kgに対して1.5gの苦土石灰の使用が目安です。

苦土石灰を使うときの注意点

石灰
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緩効性の苦土石灰は、施した後すぐに植え付けても根を傷める可能性は低い反面、酸度調整の効果が出るまでにしばらく時間が必要です。散布後にすぐ植えても土壌は酸性のままなので、植え付けの1〜2週間前には散布しておくとよいでしょう。

また、石灰を使う場合の注意点として、他の肥料や堆肥と同じタイミングで土に混ぜてはいけないということが挙げられます。その理由は、苦土石灰とチッ素分が化学反応し、有毒なアンモニアガスが発生するためです。堆肥の場合、苦土石灰の殺菌作用により、堆肥中の微生物が死んでしまう恐れがあります。そこで、先に苦土石灰を土に混ぜ、1~2週間後に肥料を混ぜ込むことで、それぞれの効果が表れるタイミングを合わせ、より効果的な作用が期待できます。

苦土石灰を必要以上に施して土壌がアルカリ性に傾きすぎると、微量要素が吸収できなくなり、植物生育に悪影響が出ます。また土が硬くなりやすいため、与えすぎないように注意し、規定量を混ぜ込むようにしましょう。

石灰を使うときによくある失敗例

石灰
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ここでは石灰で土壌改良を行った場合の起こりがちな失敗について解説します。

アルカリが過多になる

石灰
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石灰の撒きすぎにより土壌中の酸性度(pH)がアルカリに傾きすぎてしまうと、リン酸や鉄、マンガンなどの栄養素を吸収できなくなり、生育に悪影響が出てしまいます。再び酸性土壌に戻したい場合は硫安、塩加、塩安、過石などの酸性肥料やピートモスを使います。しかし一度土壌がアルカリ性になってしまうと、酸性を抑えることよりも土壌改良が難しいので気をつけましょう。

カルシウムが過剰になる

土壌改良
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カルシウムは野菜の生育には欠かせない栄養素ですが、カルシウム過多になるとその他のミネラル分(栄養素)を吸収できなくなるため、さまざまな障害が出てきます。カルシウム分が少ない場合は補うことができますが、多い場合土壌中のカルシウムを除去することは困難です。また土壌中のカルシウムが十分にあっても土壌の乾燥や窒素過多による肥料バランスの崩れからカルシウムが吸収できず、カルシウム欠乏症になる場合もあります。その症状から土壌中のカルシウム分が少ないと判断し、さらに石灰を撒いてしまうと土壌中がカルシウム過多になる場合があります。そういった間違いや以前の石灰使用歴を知るためにも、初めての土地などでは石灰を施す前に土壌診断をすることが大切です。

石灰の上手な使い方

石灰
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苦土石灰は粉状のタイプと粒状のタイプが売られています。一般的に効果の早い粉状のものがよく使われますが、露地栽培で粉が飛ばされやすいなどの心配がある場合は、必要量が分かりやすく撒きやすい粒状のものもおすすめです。

利用する石灰の種類は、土壌の状態と植え付ける植物の適した酸性度(pH)によって選択しましょう。例えば、特に酸性土壌が苦手なホウレンソウやエンドウを酸性土壌に植える場合は、速やかな土壌改良が求められるため、苦土石灰ではなく消石灰を活用するのが効果的。一方ジャガイモは、土壌がアルカリ性に傾くと「そうか病」を起こしやすいため、基本的に石灰を施しませんが、カルシウム不足が気になる場合は中性の硫酸カルシウムを利用するなどが挙げられます。石灰を撒くときは、雨が降る前に撒いて耕すと、降雨後に土としっかり馴染み、ムラなく中和できるのでおすすめです。

石灰はポイントを押さえて使いこなそう

土作り
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石灰は酸性に傾いた土壌を中和し、同時に作物に必要な栄養素であるカルシウムを補うことができます。作物によって適した土壌の酸性度(pH)があるのでまずは土壌診断を行い、必要に応じて石灰の種類を選ぶことが大切です。またアルカリに傾きすぎないように適量を守り、植え付ける作物に合わせて使い分けるなどポイントを押さえることで、効果的な活用ができます。また、石灰は単体で土に施すのではなく、石灰を加える際には時期をずらして腐葉土や牛ふん堆肥などの有機質を施すのもおすすめです。有機質は石灰の効き目を緩やかにし、多少多めに施しても植物に害が表れにくくする効果があります。適切な使用で丈夫な植物の生育を促しましょう。

Credit
文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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