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愛の映画監督論:愛する才能に満ちた映画作家、フランソワ・トリュフォー

  • 2024.10.17
映画監督のフランソワ・トリュフォー
©Album/Aflo

愛する才能に満ちた映画作家。その愛はどこまでも広かった

フランソワ・トリュフォーは、しばしば「愛の映画作家」と呼ばれる。映画批評家だったトリュフォーは、1950年代末に、『大人は判ってくれない』で長編映画デビューし、ジャン=リュック・ゴダールらとともにヌーベルバーグを牽引する映画監督となったが、1984年に享年52歳で短い生涯を終える。

その葬儀の際、トリュフォーの盟友の一人、セルジュ・ルソーが弔辞で語ったように、トリュフォーの才能は、何かを「愛する」才能だった。それは、女性だけに及ばない。子供たちを、本を、そして、映画そのものを愛したのだ。

トリュフォーの代表作の一つに、『突然炎のごとく』がある。ジャンヌ・モロー演じるカトリーヌと、ジュールとジムという2人の男性たちをめぐる三角関係を描いた映画である。同じくアンリ=ピエール・ロシェの小説を原作に仰いだ『恋のエチュード』は、三角関係ものでも、『アデルの恋の物語』同様、もっと狂おしい情念的な愛だ。そして、その愛は死者にも向けられる。『緑色の部屋』は、亡くなった妻への妄執とも言うべき愛を描いたものだ。

また、トリュフォーは、『柔らかい肌』や『隣の女』のような不貞ものも得意とした。実生活でも恋多き男だったトリュフォー自身、カトリーヌ・ドヌーヴらと不倫を経験していた。

さらに、トリュフォーは、人が成長し、年齢を重ねる中で恋愛が変化していくさまも描いた。『大人は判ってくれない』で、トリュフォーの少年時代を演じたジャン=ピエール・レオの成長に合わせて撮られた、いわゆる「アントワーヌ・ドワネル」シリーズだが、これはアントワーヌの成長だけでなく、『二十歳の恋』では初恋を、『夜霧の恋人たち』では婚約を、『家庭』では夫婦生活を、そして『逃げ去る恋』では、夫婦関係の破局と新しい恋をと、恋愛過程の変化も主題にしている。

一方で、トリュフォーは、子供たちを愛した。長編デビュー前の短編『あこがれ』で、子供たちを撮る楽しさを知ったトリュフォーは、尊敬するジャン・ヴィゴの『新学期 操行ゼロ』やロベルト・ロッセリーニの『ドイツ零年』にあやかるように、『大人は判ってくれない』『野性の少年』、そしてその集大成とも言うべき『トリュフォーの思春期』と、子供映画の傑作を作っていくのだ。

また、トリュフォーは書物を愛した。小学校もまともに卒業していないトリュフォーは、本や映画を通して教養を身につけた。トリュフォーの映画はどの作品にも、文学的趣味が垣間見えるが、本への愛そのものをテーマにしたのが、レイ・ブラッドベリの原作を映画化した『華氏451』である。

そして、トリュフォーは、映画そのものはもちろんのこと、映画の製作やそこに関わる人々すべてを愛した。それが、共演者同士の恋愛模様含め、映画製作の舞台裏の様々なドラマを描いた、まさに「愛の映画作家」トリュフォーの集大成的な作品『映画に愛をこめて アメリカの夜』なのだ。

トリュフォーの愛を知る3作品

映画『恋のエチュード』場面シーン
『突然炎のごとく』と同じ原作者の残した、もう一冊の小説の映画化。ジャン=ピエール・レオ演じるフランス人男性とイギリス人姉妹の間の激しい三角関係を描く。トリュフォーの最高傑作との声も。©Everett Collection/Aflo
映画『映画に愛をこめて アメリカの夜』場面シーン
『突然炎のごとく』と同じ原作者の残した、もう一冊の小説の映画化。ジャン=ピエール・レオ演じるフランス人男性とイギリス人姉妹の間の激しい三角関係を描く。トリュフォーの最高傑作との声も。©Everett Collection/Aflo
映画『緑色の部屋』場面シーン
ヘンリー・ジェイムズの中編小説『死者たちの祭壇』を映画化したもの。若くして亡くなった妻が数十年経った今も忘れられず、妻の写真や遺品に囲まれながら暮らすジュリアンをトリュフォー自身が演じた。©Collection Christophel/Aflo

profile

François Truffaut(映画監督)

フランソワ・トリュフォー/1932年フランス・パリ生まれ。59年に『大人は判ってくれない』で長編映画デビュー。ゴダールらとヌーベルバーグを牽引した。遺作『日曜日が待ち遠しい!』(83年)まで25本の映画を撮った。1984年逝去。

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