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古舘伊知郎が語る「目的のないインプット」の有用性。思考の画一化から抜け出し「自分らしさ」を掴むための“無駄”のススメとは

  • 2024.10.15
ダ・ヴィンチWeb
『伝えるための準備学』(古舘伊知郎/順文社)

「準備」という言葉には、「やらなきゃいけないこと」という義務的な意味合いを感じていた。だから、本書を読み終わって「準備」を前向きな言葉として捉え直している自分に驚いている。

『伝えるための準備学』(古舘伊知郎/ひろのぶと株式会社)は、プロレス実況やバラエティ番組の司会、ニュースキャスターなど、幅広いジャンルで活躍してきたアナウンサー・古舘伊知郎氏の最新著書だ。独自のワードセンスや瞬発力のある喋りの裏には、入念な準備があったことが赤裸々に明かされている。

本書のなかで古舘氏は、準備を「最悪の本番」と捉え、それを経験することによって「現実の本番は必ずやそれより上向く」と語っている。「失敗を避けるために効率的に準備をするのではなく、失敗という傷を負う非効率性も含めて準備である」というのだ。何かにつけて効率が求められ、ミスが許されない空気感のある現代社会において、この考え方は臆することなく人生を前に進めるためのお守りになってくれるのではないだろうか。

古舘流準備学における発想の転換は、失敗を次に進むための準備と捉えるだけに止まらない。続いて語られるのは、無駄の有用性だ。インターネットの発達により、私たちは求める情報を瞬時に得られるようになった。しかし、誰もが同じ情報にアクセスできるということは、思考やアウトプットの画一化に繋がりかねない。そうした状況を脱するためのカギとなるのが“無駄”だという。

ここでいう無駄とは、目的のないインプットや自分勝手な妄想のこと。一見無駄な知識や経験が自分のなかに蓄積されていくと、それは他にはない個性として花開くことがある。古舘氏いわく「無駄も不毛もつまらないこともぜんぶ含めて、最終的には『自分らしさ』を形成する壮大な準備」なのだ。F1のスーパースターだったアイルトン・セナにつけられた「音速の貴公子」という有名なキャッチフレーズも、レースとは無関係な妄想の連続によって生まれたのだった。そこに辿り着くまでの紆余曲折は、ボツ案も含めて本書に詳しく書かれているので、ぜひ読んでみてほしい。

成功も失敗も、無駄さえも成長の糧であり、未来を生きるための準備である。そう考えると、知らない世界に飛び込むことや、年齢を重ねていくことが楽しみになる。本書の取材でお会いした古舘氏は、間もなく70歳を迎えるとは思えないほどパワフルで、死ぬまで現役で喋り続けたいとおっしゃっていた。あらゆる経験を未来への出発点に変えてくれる準備という言葉には、いつまでも気持ちをエネルギッシュに保ってくれる力があるのだろう。その意識を手放さない限り、人生は今よりも上向いていくはずだ。「伝えるための準備」について書かれた本ではあるが、思い切って生きていく勇気をもらえる読書体験だった。

文=阿部光平

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