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スイスのトレインジャーニー 山間を縫うように走る名列車

  • 2024.10.15

九州とほぼ同じ面積に標高4,000メートル級の山々が48座そびえる雄大な自然に恵まれた国、スイス。

国内には鉄道が隅々にまで通じており、神秘の氷河や名峰、豊潤な牧草地など圧倒的な”地球の美”を車窓から目の当たりにできる。移動には船も使いクルーズを楽しみながら趣きある町を巡っていく。

スイスの東部からイタリアの街まで南下するベルニナ・エクスプレス。クール駅から始まり、山間ルートを進みサン・モリッツへと向かう。


玄関口チューリヒを出発、すぐに山景色へと変わる

【Day1/14:30】Zürich Hauptbahnhof(チューリヒ中央駅)

1日2,900本以上の列車が発着し、プラットホームへのアクセスが便利な駅といわれている。

なぜこんなにもスイスのトレインジャーニーは旅人を惹きつけるのか。その理由を確かめるためにチューリヒを出発し、美しい街々に立ち寄りながら氷河観光の名所であるユングフラウヨッホを目指す、8日間の鉄道旅に出かけた。

バーゼル、ベルンそして隣国のリヨンやミラノ……。チューリヒ中央駅の電光掲示板には、国内外のデスティネーションが表示され、スイス最大の国際ターミナル駅の役割を果たしているのがわかる。改札はなく(車内検札でチェック)、街の通りからそのままホームへ行けるスムーズさ。時計の国だけあり発着の時間は正確だ。「発車のアナウンスやベルが鳴らないから、乗り遅れないように」との事前情報の通り、定刻になると静かにゆっくりと車両が動き出した。

2階建て特急列車が出発を待つ。

初日は、東部の街、クールを経由しサン・モリッツまで行く旅程。景色は街から山岳風景にあっという間に変わり7つの山頂が連なるクールフィルステン連峰などに目を奪われ、1時間15分でクール駅に到着。そこからは、スイス五大鉄道の一つであるイタリアの街ティラーノまでを結ぶベルニナ・エクスプレスに乗り換える。

緑が輝く田園風景、木々に覆われた山間など、光と影の情景を繰り返しながら進んでいくと「ランドヴァッサー橋を通ります」との車内アナウンスが。この石橋は岩崖の間、足場がない場所に造られ鉄道建築の傑作といわれ、空中を走っている気分に。すぐにトンネルに入り、標高1,775メートルのサン・モリッツ駅に向かい列車は登っていく。

一枚絵のような車窓からの景色は、写真に収める前にじっくり眺めて胸に刻む。

スポーツが盛んな美しい山岳リゾート地

【Day1-2】St.Moritz(サン・モリッツ)

ベルニナ山脈の麓にある小さな村と湖の美景。

サン・モリッツ駅を降りると湿度のない爽やかな風が頬をつたう。スイス屈指の冬のリゾートとして有名なこの地は、“シャンパン気候”と呼ばれ、炭酸の泡のような爽快感ある天候、晴天率の年間平均が322日という過ごしやすい地域として知られている。

駅の目の前に広がるサン・モリッツ湖が街のシンボルであり、湖を囲む散歩道では犬を連れて散策する地元の人のほか、アスリートらしき人たちがランニングをしている。標高1,700メートルを超えるサン・モリッツはオリンピック選手の高地トレーニングにも使われており、今年のパリ五輪前にも走る姿があったという。冬は凍った湖の氷上を馬が走るレース「ホワイトターフ」や氷上ポロなども開催される。

冬のリゾートのきっかけを作った5ツ星「クルム・ホテル」。

ベルニナ山脈といくつかの湖が織り成す美しい景色は夏、冬ともに魅力があり、歴史的には約160年前にウィンターツーリズムが栄えた。クルム・ホテルの創業者が英国人ゲストに、イギリスの暗い冬とは違う晴れの日が多いサン・モリッツの快適さを伝え「もし冬のスイスに満足できなかったら宿泊代はいらない」という賭けをしたという。

その話に乗った英国人は太陽が眩しいスイスの冬に魅せられ、評判が広がり瀟洒なリゾート地として一目置かれるようになったのだ。中心地のドルフ地区にはブランド店や五ツ星ホテルが軒を連ね、プライベートジェットが離着できる飛行場もある。そんな華やかさと大自然が織り成すゆったりとした時間の流れを兼ね備えたバランスのいい山のオアシスだ。

サン・モリッツ湖の散歩道に設置された望遠鏡を覗くと雪上競馬の写真が入っていた。

爽やかな風が吹くリゾート、サン・モリッツの必訪スポット4選

高台の優美なクラシックホテル ◆Suvretta House(スヴレッタ・ハウス)

“ダブルルームグランドデラックス”の部屋からの眺め。

自然公園にある「スヴレッタ・ハウス」は、静寂を求めるセレブに愛されている5ツ星ホテル。

山間に建つ城のようなエレガントな佇まいと創業1912年から変わらぬ温かなホスピタリティーでゲストを迎える。

約50平米の“ジュニアスイート”。

チェックインを済ませ部屋に入ると、窓から見える山と湖の景色が一枚絵のようで、時間を忘れて眺めていたくなる。

クラシカルな料理が味わえる「スヴレッタ・シュトゥーベ」のディナー。

メインダイニング「グランドレストラン」や伝統的なスイス料理が味わえる「スヴレッタ・シュトゥーベ」など美食を満喫し贅沢な時間が流れる。

ホテルはゲレンデと隣接し近くにハイキングコースもありアクティブに楽しめるのも嬉しい。

ロビーラウンジでは軽食からディナーまで楽しめる。

Suvretta House(スヴレッタ・ハウス)

所在地 Via Chasellas 1, St. Moritz
電話番号 +41 81 836 36 36
客室数 171室
料金(1室) 493スイス・フラン~(2名利用の場合)
●2025年夏は改装のためクローズする予定
https://suvrettahouse.ch/

リフトで行く感動の絶景レストラン

◆Paradiso(パラディーソ)

木を贅沢に使った居心地のいいメインダイニング。オンシーズンの冬は1日で700人ほどが訪れるので必ず予約を。

標高2,181メートルの場所にある「パラディーソ」は、美しい山々やエメラルド色の湖などサン・モリッツを象徴する美景を見渡せるレストラン。

リフトで景色を楽しんでから店へと向かう。

大気汚染を防ぐため一般車は入れないエリアなので、行くのはリフトかトレッキングというアクセスがまた楽しいのだ。

スイスの伝統的なマカロニパスタ 牛肉のラグーとアップルソース添え” 41スイス・フラン。

料理はスイスの伝統をベースにしながらトリュフ入りのチーズフォンデュなど、贅沢な美味しさが添えられ心が潤う味わい。

トリュフ入りのチーズフォンデュ” 48スイス・フラン。「このフォンデュはジャガイモを生ハムでくるんでチーズをつけて食べると美味しいよ」とシェフ。

サン・モリッツの人気店でキャリアを積んできたシェフは、自身で山にキノコを採りに行き料理に使うなど、この土地の食材を生かしたメニューを意識している。

イタリア出身のシェフ、アンドレア・ハナッティ氏が腕を振るう。

セラーには約700種類のワインが並び、輸出をほぼしていないスイスワインも揃っているので、料理、絶景とともに美酒に酔いしれたい。

山小屋風の店構え。

Paradiso(パラディーソ)

所在地 Via Engiadina 3, St. Moritz
電話番号 +41 81 833 40 02
営業時間 9:00~17:00
定休日 水曜
●要予約 2024年夏の営業は10月13日まで。冬は2024年12月中旬~2025年3月末の予定。
https://winter.paradiso-stmoritz.com/

約130年の歴史を持つカフェ

◆Confiserie Hanselmann St. Moritz(コンフィズリー・ハンゼルマン・サン・モリッツ)

地元で愛されている店。

高級ブランドショップやレストランが集まる中心部、ドルフ地区にあるこの店は1894年創業の老舗。

ショーケースには焼きたてのペストリーやフルーツたっぷりのケーキ、チョコレートなどが美しく並び、ほとんどがホームメイド。

ホットチョコレート 7.5スイス・フラン、ミックスベリータルト 6.5スイス・フラン、クロワッサン 1.8スイス・フランなど。

奥のレストラン&カフェで味わうことができ、ココ・シャネルなども訪れていたという名店の歴史を感じながら過ごすことができる。

オーナーのアンドレア・ムシュアー氏。

Confiserie Hanselmann St. Moritz(コンフィズリー・ハンゼルマン・サン・モリッツ)

所在地 Via Maistra 8, St. Moritz
電話番号 +41 81 833 38 64
営業時間 7:30~19:00
定休日 無休
https://www.hanselmann.ch/

アルプスを描いたスケール感ある代表作

◆Segantini Museum(セガンティーニ・ミュージアム)

サガンティーニの自画像。

アルプス風景画の革新者と言われているジョヴァンニ・セガティーニ。

頭上に差す太陽が表現された《アルプスの真昼》。

イタリアやスイスで制作し最期の5年間を過ごしたこの地に1908年に建てられたのがこの美術館だ。

ドーム型天井の開放的な展示室で観る《生・自然・死》は圧巻。

代表作であるアルプス三部作《生・自然・死》をパノラマサイズで観ることができるほか、自然とともに生きる人々を描いた作品に出合える。

Segantini Museum(セガンティーニ・ミュージアム)

所在地 Via Somplaz 30, CH-7500, St. Moritz
電話番号 +41 81 833 44 54
営業時間 10:00~12:00、14:00~18:00
定休日 月曜・祝日
料金 15スイス・フラン
●開館期間は5月20日~10月20、12月10日~4月20日
https://segantini-museum.ch/en/home_2/

文=梅崎奈津子
写真=橋本 篤
取材協力=スイス政府観光局、スイスインターナショナルエアラインズ、スイストラベルシステム、サン・モリッツ観光局

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