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26人のデザイナーが答える「今までで一番好きなファッションショーは何ですか?」

  • 2024.10.14

誰にでもお気に入りのファッションショーがある。服や演出、特別なパフォーマンスが印象的だから、すべての要素が見事に合わさった忘れられないコレクションだから。理由はなんであれ、ここ『VOGUE』のオフィスでは、自分たちの心に刻まれているファッションショーの話題になることは珍しくない。

ファッションショーを知り尽くしている人たちといえば、デザイナーだ。毎シーズン、8分ほどのスペクタクルを見せてくれる彼らにも、お気に入りのショーはあるはず。そこで私たちは多種多様なデザイナーを対象に2つの素朴な疑問を投げかけた。

「ご自身がこれまで携わったランウェイショーの中で、最も印象に残っているものは?」

「自分以外のデザイナーのショーで、今までで一番好きなものは?」

マックイーンMcQUEEN)やヘルムート ラングHELMUT LANG)など、何人かの回答者は同じブランドのコレクションをあげたが、中には意外なショーがお気に入りだと答える人もいた。26人全員の気になる回答は、以下の通り。

1. マーク・ジェイコブス

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

お気に入りをあげるのは難しいですが、パンデミック直前にキャロル・アーミタージュと行った2020-21年秋冬のショーはとても自慢に思っているものの1つです。「これが最後のショーになるとしても別にかまわない」と当時言ったのを覚えています。

マーク ジェイコブス 2020-21年秋冬コレクションより。
Marc Jacobs RTW Fall 2020マーク ジェイコブス 2020-21年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

忘れられないのは、カール・ラガーフェルドが招待してくれたシャネルCHANEL)の2018-19年秋冬のショーです。カール史上最高のショーやコレクションだったとは言い切れませんが、彼はほかのデザイナーをショーに招待することはあまりなかったので、招待客として出席できたことはとても光栄でした。彼がシャネルで手がけたものすべてが大好きでした。

シャネル 2018-19年秋冬コレクションより。
シャネル 2018-19年秋冬コレクションより。

2. グレン・マーティンス(Y/PROJECT/Y/プロジェクト)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

ピッティ・ウオモで発表したY/プロジェクトY/PROJECT)の2019-20年秋冬メンズコレクション。ファッション業界から美術館、学校まで、フィレンツェの文化と暮らしに関わるあらゆる人を7,000人以上招待したんです。

ショーはトスカーナのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会で開催され、日没から始まることになっていました。来場者全員に小さな小さな懐中電灯を配って、インディー・ジョーンズさながらのスタイルで散策して、大聖堂と修道院のフレスコ画など、イタリアの名作や古代フィレンツェそのものに出会う体験をしてもらったんです。懐中電灯だけを頼りに。

全員がゆっくり時間をかけて散策できるように、ショー自体はその2時間後に開始しました。まだ真っ暗闇の中、ようやくメインの広場に集まったゲストたちは、今度は懐中電灯でモデルたちを照らさなければなりませんでした。コミュニティとして力を合わせて初めて、服を見ることができたのです。何千もの小さな懐中電灯がランウェイを照らす様子は、この上なく神秘的でした。

Y/プロジェクト 2019-20年秋冬ピッティ・メンズコレクションより。
Y/Project Show - 95. Pitti Immagine UomoY/プロジェクト 2019-20年秋冬ピッティ・メンズコレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ジョン・ガリアーノによるディオールDIOR)の2007年春夏オートクチュールコレクション「マダム・バタフライ」。完璧そのものでしたから。ファッションが商品やエンゲージメントではなく、すべて「美しさ」のためにある時代でした。

ディオール 2007年春夏オートクチュールコレクションより。
Paris Fashion Week Haute Couture Spring/Summer 2007 - Christian Dior - Runwayディオール 2007年春夏オートクチュールコレクションより。

3. サバト・デ・サルノ(GUCCI/グッチ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているのは、グッチGUCCI)でのデビューコレクションですね。頭の中で描いていた通りのショーになったので、感嘆ものでした。一番よかったのは、全く新しいチームと一緒に制作できたことです。彼らのエネルギーとコレクションに対する直向きな姿勢は並外れていて。自分のキャリアにおいて、これほど激しく心が揺さぶられたのは初めてで、忘れられない体験になりました。クリエイティビティ、チームワーク、そしてピュアな熱意が混ざり合ったあの感じは、私の中に永遠に残り続けます。

グッチ 2024年春夏コレクションより。
グッチ 2024年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなのは、アトリエ ヴェルサーチェATELIER VERSACE)の1997-98年秋冬オートクチュールコレクションですね。私が初めて見たランウェイショーで、まだ14歳でした。その1週間後にジャンニ・ヴェルサーチェは銃撃に遭い、悲劇的な死を遂げるので、結果的にこれが彼の最後のクチュールショーとなりました。なので、このショーは私にとって特別なものなのです。彼への憧れはすでに計り知れないものでしたが、あのショーで確固たるものになりました。エネルギー、大胆なデザイン、そして真のエレガンスに満ちていて、私に大きな影響を与えました。

ジャンニのことはいつも心の中にあり、あのコレクションは多大な芸術性と深い喪失感が融合した瞬間として記憶に刻まれています。私がクリエイティブな道に進むきっかけとなり、ファッションにはパワーと感情を呼び起こす力があるのだと気づかせてくれました。

アトリエ ヴェルサーチェ 1997-98年秋冬コレクションより。
アトリエ ヴェルサーチェ 1997-98年秋冬コレクションより。

4. アナ・スイ

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

一番印象に残っているのは、「トリニティ(クリスティ・ターリントンナオミ・キャンベルリンダ・エヴァンジェリスタの3人)」がベビードールドレスを着て歩いた1994年春夏のショーですかね。揃ってランウェイで立ち止まったあの瞬間は、3人がその場の思いつきでやったことなんです!

アナ スイ 1994年春夏コレクションより。
アナ スイ 1994年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

私が一番好きなランウェイショーは、プラダPRADA)の2008年春夏コレクションです。ジェームス・ジーンによる美しい妖精のプリントと、アイコニックなフラワーヒールとアール・ヌーヴォーのシューズが印象的でした!この世のものとはとても思えない、幻想的なコレクションでした。

プラダ 2008年春夏コレクションより。
プラダ 2008年春夏コレクションより。
プラダ 2008年春夏コレクションより。
プラダ 2008年春夏コレクションより。

5. シモーン・ロシャ

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

ついこの間ゲスト・デザイナーとして携わったジャンポール・ゴルチエJEAN PAUL GAULTIER)のオートクチュールショーは、今でも記憶に鮮明に残っていますし、これからもずっと残り続けると思います......本当に素晴らしい、刺激的な経験になりました。

シモーン・ロシャ×ジャンポール・ゴルチエ 2024年春夏オートクチュールコレクションより。
シモーン・ロシャ×ジャンポール・ゴルチエ 2024年春夏オートクチュールコレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

決めるのはなかなか難しいですけれど、実際にその場で見てみたかったショーが2つあります。「ヴォス」と題されたマックイーンの2001年春夏のショーと、コム デ ギャルソンCOMME des GARÇONS)の2005-06年秋冬ショーです。「ヴォス」はガラスボックスが割れ、呼吸用チューブの付いたマスクを被った、ヌード姿で横たわっている作家のミッチェル・オリーが現れるという演出があったやつです。コム デ ギャルソンの「ブロークンブライド」もこの目で見てみたかったですね。あのショーに登場した服は昔からずっと大好きなんです。

マックイーン 2001年春夏コレクションより。
Alexander McQueenマックイーン 2001年春夏コレクションより。
コム デ ギャルソン 2005-06年秋冬コレクションより。
コム デ ギャルソン 2005-06年秋冬コレクションより。

6. ピーター・ミュリエ(ALAÏA/アライア)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

私が思う「ラグジュアリーファッションのあるべき姿」を体現していたという意味で、昨シーズンのアライアALAÏA)のショーが好きです。

アライア 2024-25年秋冬コレクションより。
アライア 2024-25年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

たった1つに絞るのは無理です……たくさんあるので。ヘルムート ラングの1994年春夏ラフ・シモンズRAF SIMONS)の1999年春夏ジョン・ガリアーノJOHN GALLIANO)の1994-95年秋冬、アライアの2002年春夏ショーは私に感動と夢を与えてくれたので、どれも私にとってとても大切な意味を持つショーです。私を変えたとさえ言えます。

ヘルムート ラング 1994-95年秋冬コレクションより。
ヘルムート ラング 1994-95年秋冬コレクションより。
ラフ・シモンズ 1999年春夏メンズコレクションより。
ラフ・シモンズ 1999年春夏メンズコレクションより。
ジョン・ガリアーノ 1994-95年秋冬コレクションより。
ジョン・ガリアーノ 1994-95年秋冬コレクションより。

7. トリー・バーチ

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

アメリカ自然史博物館のギルダー・センターで行った2024年春夏のショーは、地球上にいるとは思えないような非現実的な空間で繰り広げられて、格別でした。ジーン・ギャングの幻想的なインテリアは、レトロフューチャーな曲線のルックとモジュール設計のテーラードアイテムを引き立ててくれる完璧な背景になりました。

トリー バーチ 2024年春夏コレクションより。
TOPSHOT-FASHION-US-TORY BURCHトリー バーチ 2024年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

2002年にポンピドゥー・センターで開催されたイヴ・サンローランによる最後のオートクチュールショーに運よく出席できたんです。「ル・スモーキング」、サファリジャケット、バイアスカットのガウン、マティスやラランヌへのオマージュ、シアードレスなど、彼のシグネチャーや革新的なデザインの数々に立ち返った究極の餞別のようなコレクションでした。サンローランが業界に与えた影響は計り知れません。彼はトレンドを生み出し、常識を打ち破り、ファッションと自分自身を幾度となく作り変えました。そしていつも、女性の官能的な魅力と強さの両方を絶妙に引き出してくれました。

サンローラン 2002年春夏オートクチュールコレクションより。
Yves Saint Laurent Spring 2002 HCサンローラン 2002年春夏オートクチュールコレクションより。
サンローラン 2002年春夏オートクチュールコレクションより。
Yves Saint Laurent Spring 2002 HCサンローラン 2002年春夏オートクチュールコレクションより。
サンローラン 2002年春夏オートクチュールコレクションより。
Yves Saint Laurent Spring 2002 HCサンローラン 2002年春夏オートクチュールコレクションより。

8. マリーン・セル

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているのは、2019年9月に開催した(マリーン・セルMARINE SERRE)の)「Marée Noire」ショーです。パリのうんと郊外にあるオートゥイユ競馬場のすぐ横の屋外スペースで行って、天気も不安定で緊迫感がありました。世界の終末を予言するような、気候変動への危機感を感じさせるような悪天候で、ショーを引き立てる素敵な背景となりました。「Marée Noire」は「石油流出」を意味するので、母なる自然が演出に携わるには、この上なくぴったりな舞台でした。

このショーはどこか終末ものでありながら、変化への希望も感じさせるものでした。驚くほど好評で、「Marée Noire」は私のキャリアの転機となり、ファッションと環境意識が激しく交差する決定的な瞬間となりました。

マリーン・セル 2020年春夏コレクションより。
マリーン・セル 2020年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ほかのデザイナーのショーでこれまでで一番好きなのは、マックイーンの2009-10年秋冬コレクション「The Horn of Plenty」です。このショーは本当に画期的で、メゾンが過去のランウェイショーで使った小道具が散らばる、巨大な廃品置き場という設定だったんです。モデルたちは壊れた車の破片や捨てられた瓦礫をヘッドピースとして着用し、ゴミを宝に見立てながら、消費主義への批判を視覚的な形で力強く表現していました。

廃棄物を再構築し、ファッション業界の過剰生産や余剰在庫といった問題を浮き彫りにするこのアプローチは、私の心に深く響き、ファッションに対する私自身のアプローチに合致しています。強烈なビジュアルと示唆に富んだ力強いメッセージを融合させるマックイーンの才能にはインスパイアされ続けています。

マックイーン 2009-10年秋冬コレクションより。
マックイーン 2009-10年秋冬コレクションより。
マックイーン 2009-10年秋冬コレクションより。
マックイーン 2009-10年秋冬コレクションより。

9. キャサリン・ホルスタイン(KHAITE/ケイト)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

自分の(ブランドの)ショーにしか携わったことがないことを考えると、直近で開催した2024-25年秋冬ショーですかね。夫とのコラボレーションを本当に楽しんでいますし、彼が私を高めてくれている気がします。

ケイト 2024-25年秋冬コレクションより。
ケイト 2024-25年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

すぐに思い浮かぶのが2つあります。

ジョン・ガリアーノの1994-95年秋冬ショーは感情に訴える、ダークで、ムーディーで、手が込んだコレクションなんですけれど、同時に何から何までシンプルなんです。まったく新しいプロポーションとカッティングを取り入れながら、どこか懐かしさも感じる。少し日本っぽくて、少しイタリアっぽくて、もちろんヴォードヴィルっぽい。そしてドラマ性がある。これだからショーが好きで、ファッションに酔いしれるんです。あのようなショーを見ると、必死に努力する甲斐があると思えます。つい最近、彼のドキュメンタリーを観て知ったんですが、あのショーは彼がどん底にいたときに制作されたもので、それを思うとますます衝撃的で天才的です。

もう1つの好きなショーはマックイーンの2001年春夏コレクションで、率直に言うとただただ強烈でした。コンセプトは複雑で不快だったんですが、ショーは申し分なくて。あの闇。あの設定。エンディングのあの美しさ。ガラスが砕け散るあのエンディングはとんでもないです!今時あのようなショーはできません。(マックイーンは)途方もなく勇敢でした。これこそが、デザイナーを本当に知る術なんです。彼らは自分が誰なのかを語るのではなく、見せてくれるのです。魔法のようなものですね。

ジョン・ガリアーノ 1994-95年秋冬コレクションより。
ジョン・ガリアーノ 1994-95年秋冬コレクションより。
マックイーン 2001年春夏コレクションより。
マックイーン 2001年春夏コレクションより。

10. ヒラリー・テイモア(COLLINA STRADA/コリーナ ストラーダ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

コリーナ ストラーダCOLLINA STRADA)の2020年春夏コレクション「Thank You Very Much for Helping Me」は、私にとって忘れられない経験の1つです。マンハッタンのブロックを1つまるまる閉鎖して、ミスフィット・マーケットの協力のもと、通りにファーマーズ・マーケットを設営することができたんです。すべて屋外で、終日にわたって通りすがりの人たちが立ち止まってショーを見たり、声をかけてくれたりして。ファッション業界以外の人たちが楽しんでいるのを目の当たりにできて、あらゆる人たちを巻き込むことができたのは本当に魔法のような体験でした。

ショーが終わるとマーケットを開放して、誰もが無料で参加できる“買い物体験”を行ったんです。みんなノリノリでしたね!オレンジが欲しかったんですけれど、私が行き着いた頃には玉ねぎが1個残っているだけで(笑)。その後、真のコリーナ・コミュニティーらしく、足を運んでくれた人たちはみんな、マーケットで手に入れた食材を使って作った料理を投稿していました。私が思うに、コリーナのショーのレベルを格段にアップしてくれたコレクションです。

コリーナ ストラーダ 2020年春夏コレクションより。
Collina Strada show, Runway, Spring Summer 2020, New York Fashion Week, USA - 08 Sep 2019コリーナ ストラーダ 2020年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

それぞれ違う理由で好きなショーがたくさんあるので、一番を選ぶのは本当に難しいですが、真っ先に思い浮かぶのはプラダの2008年春夏コレクションです。このコレクションは私のファッションキャリア形成期に行われたもので、デザイナーとして最も大きな影響を受けたものの1つです。妖精とフローラルの要素が大好きで、ジェームス・ジーンによる巨大な壁紙と、会場に映し出されたプロジェクションがとてもモダンに感じられました。ファッションの新たな可能性に目を開かせてくれたショーです。

プラダ 2008年春夏コレクションより。
Prada Spring 2008プラダ 2008年春夏コレクションより。

11. ジュリアン・ドッセーナ(RABANNE/ラバンヌ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

京都で行われた、ニコラ・ジェスキエールによるルイ・ヴィトンLOUIS VUITTON)の2018年リゾートショーですかね。あのとき私は日本を旅行していて、ミホミュージアムというとても特別な場所で、ニコラがあの強い女性たちと素晴らしいルックの数々で繰り広げたビジョンは本当に圧巻の光景でした……。

ルイ・ヴィトン 2018年リゾートコレクションより。
ルイ・ヴィトン 2018年リゾートコレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

子どもの頃、パリのエスパス・コミネで行われたヘルムート ラングのショーにすごくいい意味で衝撃を受けたことを覚えています。アンバー・ヴァレッタがシンプルなTシャツと極端に長いトレーンがついた短いスカートを纏っていたショーです。音楽、観客の興奮ぶり、ラングが提案した確かな新しさは、私にはファッションショーというわずかな一瞬の理想形を象徴しているように思えます。今でも忘れられません。

ヘルムート ラング 2000-01年秋冬コレクションより。
ヘルムート ラング 2000-01年秋冬コレクションより。

12. パトリック・ディカプリオ&ブリン・タウベンシー(VAQUERA/ヴァケラ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

パトリック・ディカプリオ(以下PDC) ヴァケラVAQUERA)のショーで一番好きなのは2016-17年秋冬コレクションです。ブリンと私が初めて一緒に手がけたコレクションでした。あの年は誰もが「コラボレーション」と「クリエイティビティ」を第一に創作していて、ニューヨークのファッションシーンのある種の黄金時代が終わりを迎えたような年で。当時はとても希望に満ちていて、エキサイティングでした。

私たちはパーティー会場としてよく使われていた悪名高いチャイナ・シャレーという中華レストランと宴会場でショーを行いました。モデルたちには、それぞれの個性を表現しながら歩くようにと指示したんです。タバコを吸うモデルたち、キスをするモデルたち、ランウェイを駆け抜けるモデルたち、観客と目を合わせながらゆっくりと歩くモデルたち。レストランのブースに座っているゲストたちと交流しながら、みんな会場内を進んでいったんです。このショーはヴァケラの歓喜と革命の物語の始まりを告げている感じがするので、特別な思い入れがあります。

ブリン・タウベンシー(以下BT) 私は、2017-18年秋冬のショーが一番印象に残っています。『VOGUE RUNWAY』に初めて取り上げられて、「ついにここまで来たか」という感じがしました。でも、今振り返ると当時はまだまだ未熟でしたね。未熟だったからこそよかった部分もあります。実際に着られるような服も、売れた服もほとんどなかったですが、純粋な情熱と表現の賜物ではありました。

当時はクレアとデヴィッドもまだいて、4人でデザインをしていました。コレクションを見れば、多くの視点から考えられたものだということが感じ取れると思いますし、それもあってとてもダイナミックなものになっています。あのコレクションにはティファニー(TIFFANY & CO.)ジュエリーポーチを模したドレスとアメリカ国旗のドレスという、私たちの最もアイコニックな2つのピースが登場しました。

ヴァケラ 2016-17年秋冬コレクションより。
Vaqueraヴァケラ 2016-17年秋冬コレクションより。
ヴァケラ 2017-18年秋冬コレクションより。
ヴァケラ 2017-18年秋冬コレクションより。
ヴァケラ 2017-18年秋冬コレクションより。
ヴァケラ 2017-18年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

PDC ほかのデザイナーのショーで一番好きなのは、一卵性双生児のモデルだけをキャスティングしたアンダーカバーUNDERCOVER)の2004年春夏コレクションです。双子が1組ずつランウェイに出てきて、1人は “普通”のルックを、1人はもう片方が着ていたルックの歪んだバージョンを着ていたんです。体から溶け落ちているような格子柄のスーツ、シルエットからはみ出るようなラペルや肩の縫い目、ほどけたネックラインといったように。

このコレクションは醜形恐怖症がもたらす影響を表しているのだと思います。他人をどう見るかは自分自身をどう見るかによって決まり、歪んだ鏡は虚像しか映し出してくれない由々しきものです。共感と平和を呼びかけるショーでもあったと思います。フィナーレでは「Violence invites violence(暴力は暴力を招く)」「Silly to kill or die(殺すのも死ぬのも愚かだ)」「Who wants to be a soldier?(兵士になりたい人はいるか?)」といったメッセージ入りのシャツを着たモデルが登場したんです。自分を歪んで捉えることは災いを招く。戦争ほど悲惨なものはあるでしょうか?

BT 実在するデザイナーではないですが、映画プレタポルテ』(1994年)の最後に出てくる裸のファッションショーが好きです!

アンダーカバー 2004年春夏コレクションより。
アンダーカバー 2004年春夏コレクションより。

13. マリア・コルネホ(ZERO + MARIA CORNEJO/ゼロ+マリア・コルネホ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

間違いなくゼロ+マリア・コルネホZERO + MARIA CORNEJO)の2020年春夏のショーですね。私たちはもうランウェイショーはやっていないので、あれは今でもブランドにとっての“最後のショー ”です。 2019年9月にザ・スタンダード・ハイラインで行ったんですけれど、ちょうど美しい夕日が見られて。コレクションはイギリスのドラマ『女王ヴィクトリア 愛に生きる』(2016年)にインスパイアされたものでした。

ゼロ+マリア・コルネホ 2020年春夏コレクションより。
ゼロ+マリア・コルネホ 2020年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

グレース・ジョーンズらが出演した、イッセイ ミヤケISSEY MIYAKE)のファッションショー「Issey Miyake and Twelve Black Girls」です。とても勇気づけられるショーで、グレースはとても魅惑的な存在感を放っていました。今でも頭を離れません!あのショーはとても美しく、当時は信じられないほど画期的だったんです。あと、まだ14歳だったナオミ・キャンベルを起用して、東京で撮影したリッチモンド コルネホ(RICHMOND CORNEJO)のキャンペーンのことも思い出させてくれますね。

イッセイ ミヤケ 1976年春夏コレクションより。
Issey Miyake Spring 1976 Ready to Wear Runwayイッセイ ミヤケ 1976年春夏コレクションより。

14. アーデム・モラリオグル(ERDEM/アーデム)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

ヴィヴィアン・ウエストウッド レッド・レーベルVIVIENNE WESTWOOD RED LABEL)の2000年春夏コレクション。私はインターンだったのですが、ヴィヴィアンとアンドレアスが1つの世界を創り上げていく様子に魅了されました。

自分のブランド、アーデムERDEM)のショーで個人的に気に入っているのは、2015年春夏コレクションですかね。ヴィクトリア朝時代の植物画家マリアンヌ・ノースをモデルにしたもので、ロンドンにある倉庫のど真ん中に、ジャングルのような温室を作ったんです。最初のモデルたちがランウェイに登場したとき、温室の湿気と匂いを感じることができて、一瞬、会場にいた誰もがどこか別の場所にいるような錯覚に陥りました。

ヴィヴィアン・ウエストウッド レッド・レーベル 2000年春夏コレクションより。
Vivienne Westwood Fashion Show And Partyヴィヴィアン・ウエストウッド レッド・レーベル 2000年春夏コレクションより。
アーデム 2015年春夏コレクションより。
アーデム 2015年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ずっと好きなコレクションが2つあります。1つ目はジャンポール・ゴルチエの1995年春夏のランウェイショー。「Fin de Siècle(世紀末)」と題されたいびつなコレクションは見事で、とても美しく、パリと90年代の要素を落とし込んだ『ベニスに死す』(1971年)のような世界観でした。最後にはスリップドレスを着たマドンナがアンティークの乳母車を押しながら登場して。天才的です!

2つ目はヨウジヤマモトYOHJI YAMAMOTO)のウエディングをテーマにした1999年春夏コレクションです。ランウェイで変形するドレスや、モデルが服を脱いで下のレイヤーがあらわになる演出など、実に巧妙で詩的で。本当に美しく、幻想的でした。

ジャンポール・ゴルチエ 1995年春夏コレクションより。
ジャンポール・ゴルチエ 1995年春夏コレクションより。
ヨウジヤマモト 1999年春夏コレクションより。
ヨウジヤマモト 1999年春夏コレクションより。

15. ゾーイ・ラッタ&マイク・エクハウス(ECKHAUS LATTA/エクハウス ラッタ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

ゾーイ・ラッタ(以下ZL) (ニューヨーク近代美術館の別館)MoMA PS1で行った2016-17年秋冬コレクション。私たちは場慣れしていない、バックステージは美術館の中、おまけにその日は吹雪いていたので、モデルたちは緊急簡易ブランケットを身につけて会場入りしなければなりませんでした。ランウェイは螺旋状になっていて、写真はモデルたちが部屋の中央に到達したときに撮られました。天気のせいで誰も来ないと思っていて、マイクと私は、ショーの間ずっと外で雪の中、モデルたちが暖を取れているかが気になって付きっきりでした。フィナーレを迎えて、そこではじめてショーは超満員で、長蛇の列ができていたことを知ったんです。

マイク・エクハウス(以下ME) エクハウス ラッタ(ECKHAUS LATTA)以外で携わったものだと…..スリーアズフォー(threeASFOUR)のどれかですね。大学1年生の夏休みにインターンをして、それから毎シーズン携わるようになったんです。あの頃関わったものがとりわけ思い出深いとは言えないですけれど、ショーの準備や作り上げる過程は、当時の私が思う「ファッション」そのものでした。どのような形であれ、手伝えたことをとてもラッキーに感じていましたね。というのも高校生の頃、『ザ・デイリー』誌でインターンをしていた私は、授業をサボってできるだけ多くのショーに行くようにしていたんです。

回転する台の上にモデルが佇んでいたスリーアズフォーのダイチ・プロジェクトでのショーは、特に心に残っています。超満員で、とにかくクールで、ショーに来る観客はいつも見たこともないような超絶斬新な格好をした人たちばかりで。あと、キールズ(KIEHL'S)がスポンサーになった香水入りのギフトバッグが配られたのも鮮明に覚えています。それまでキールズのことは聞いたことがなくて、入っていた香水に夢中になった私は、ギフトバッグを2つも持って帰ってしまったのはここだけの話です……。最近、ゾーイのコレクションに同じ香水の小瓶があることを発見しました。

エクハウス ラッタ 2016-17年秋冬コレクションより。
エクハウス ラッタ 2016-17年秋冬コレクションより。
スリーアズフォー 2006-07年秋冬コレクションより。
スリーアズフォー 2006-07年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ZL ドリス ヴァン ノッテンDRIES VAN NOTEN)の2008-09年秋冬ショーは私の人生を変え、私にファッションの仕事をしたいと確信させたショーでした。1930年代の古いロータリーワックスプリンティングの技術を復元して、新しいテクニカラーのテキスタイルを作っていたんです。当時の私にはぴったりなコレクションでした。

ME お気に入りはないです。良くも悪くも、私を形作ってきたショーがいくつかあって、どれもとてもパーソナルな意味を持っていて、心の中に大切にしまっておいています。一番好きなのはどれかと聞かれるのは、子どもがいる人に、お気に入りの子どもは誰かと聞くようなものです。

ドリス ヴァン ノッテン 2008-09年秋冬コレクションより。
Dries Van Noten - PFW Fall Winter 2008/09 - Runwayドリス ヴァン ノッテン 2008-09年秋冬コレクションより。

16. イザベル・マラン

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

最も印象に残っているショーは、コロナ禍にダンスコレクティブの(ラ)オルドと行った2021年春夏ショーです。あの時期に(ラ)オルドとともに創作できたことは、エネルギーと愛に満ちた素晴らしい経験でした。

イザベル マラン 2021年春夏コレクションより。
FASHION-FRANCE-ISABEL MARANTイザベル マラン 2021年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ジャンポール・ゴルチエの2013年春夏オートクチュールショーはお気に入りのショーの1つです。服やテーマの解釈の仕方もさることながら、会場のエネルギーも凄まじくて、全員とても楽しんでいました!

ジャンポール・ゴルチエ 2013年春夏オートクチュールコレクションより。
ジャンポール・ゴルチエ 2013年春夏オートクチュールコレクションより。

17. ラザロ・ヘルナンデス&ジャック・マッコロー(PROENZA SCHOULER/プロエンザ スクーラー)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

ジャック・マッコロー(以下JM) 過去のコレクションを振り返っていると、子どもの頃の古いアルバムを見返すような気分になることがよくあります。懐かしさ、心の重み、恥ずかしさなど、苦しい時代や無様だった頃のショーをそれぞれ見ていると、さまざまな感情が呼び起こされます。

客観的に振り返るのは難しいですが、なるべくフラットに振り返ると2015-16年秋冬コレクションが記憶の中で際立っていますかね。あのシーズンの創作プロセスは、とりわけ解放的だったんです。ロバート・モリス、特に彼のカットしたフェルトを用いた作品群にインスパイアされ、作品が持つエフォートレスなエネルギーを自分たちのピースにも取り入れようとしました。

最初の数回のフィッティングは、最終形のイメージは全くない状態で進めたんです。その代わり、クラシックな形やシンプルなスタイルを起点にルックをハサミで切ったりして、生地がランダムな形に垂れ下がるように手を加えていきました。このアプローチが制作に自由をもたらし、思いもよらない作品につながったんです。この解放的な感覚は、今でも自分たちの制作に生かし続けようとしています。

ラザロ・ヘルナンデス(以下LH) 私たちにとっては、すべてのショーが何らかの理由で思い出深いものとなっていますが、2022年春夏コレクションはここ最近のハイライトとして印象に残っています。

もう二度と大きなショーができないかもしれない。その可能性があまりにも現実性を持っていたパンデミック明けに行った最初のショーでした。親友たちの紹介で、私たちはなんとか一般解放された直後のリトルアイランドをショー会場にすることができたんです。屋内に大勢でいることにまだ少し違和感があった当時のムードにぴったりな会場だっただけでなく、屋外だったので数百人のニューヨーカーを初めて招待することができました。

ショーはちょうど夕日が沈む頃に行われ、仕事で関わっている人たち全員が1年以上ぶりに集まりました。逆境に果敢に立ち向かっているような感じがして、いろいろな意味でめでたかったです。あの時のエネルギーにはしびれました。あのショーには、2人とも特に思い入れがありますね。

プロエンザ スクーラー 2015-16年秋冬コレクションより。
プロエンザ スクーラー 2015-16年秋冬コレクションより。
プロエンザ スクーラー 2022年春夏コレクションより。
プロエンザ スクーラー 2022年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

JM ヨウジヤマモトの1999年春夏のショー。当時は今のようにコレクションの情報や詳細をすぐに入手することはできなかったんです。私がこのコレクションに初めて触れたのは、画像やショーの映像を通してではなく、ニューヨークのグランド・ストリートにあるヨウジヤマモトの店舗ででした。店舗にコレクションが納品された後で、何時間もかけてルックを一点一点、内側も外側も丹念にチェックしたのを今でも鮮明に覚えています。閉店を知らせるスタッフからの声がけで、やっと店を後にしたくらい長居しました。

それから数カ月後、ようやくショーの映像を見たとき、私の興奮はさらに高まりました。ミッドセンチュリーのクチュールと「解体されたブライダルウェア」というヨウジ自身のビジョンとの融合には完全に心揺さぶられました。今でも、このコレクションは現代屈指のコレクションの1つだと思っています。

LH ヘルムート ラングの2001年春夏コレクション。外から中の様子が見えるかもしれないと思って、学校をサボってショー会場まで行ってみることにしたんです。当時の私にとって、世界はファッションを中心に回っていました。とても親切な広報の人が、私がうろうろしているのを見て、中でショーを見たいかと聞いてくれて立ち見券をくれたんです。これが私が初めて生で見た本物のショーでした。また、この時期のヘルムートの最もアイコニックな瞬間の1つにもなりましたね。もう何年も前に見たこのショーが私にもたらした感動はいろいろな意味で、私がジャックと作り上げるプロエンザ スクーラーPROENZA SCHOULER)の指針でもあり続けています。決して忘れることはありません。

ヨウジヤマモト 1999年春夏コレクションより。
ヨウジヤマモト 1999年春夏コレクションより。
ヘルムート ラング 2001年春夏コレクションより。
Helmut Lang RTW Spring 2001 Showヘルムート ラング 2001年春夏コレクションより。

18. ジョニー・ヨハンソン(ACNE STUDIOS/アクネ ストゥディオズ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

パリで開催した10周年記念のショーはとても満足のいく出来でした。アーティストのシルヴィ・マクミランが素晴らしい燭台を製作してくれて、アクネ ストゥディオズACNE STUDIOS)のシグネチャーであるピンクのベッドも用いました。ショーの後にはパーティーを開いて、いいお祝いになりましたね。

アクネ ストゥディオズ 2023年春夏コレクションより。
FASHION-FRANCE-ACNE STUDIOSアクネ ストゥディオズ 2023年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

キャロル クリスチャン ポエル (CAROL CHRISTIAN POELL)の2004年春夏コレクションのショー。あれは別格でした。

19. スチュアート・ヴィヴァース(COACH/コーチ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

コーチCOACH)での10周年記念ショー(2024年春夏)は、プロとして一周回って原点に立ち戻れたような気がして、自分の人生においてのファッションハイライトです。

私は1996年にニューヨークのカルバン クラインCALVIN KLEIN)でキャリアをスタートさせました。コーチのクリエイティブ・ディレクターとしてニューヨークに戻ってきたとき、アメリカのポップカルチャーやユースカルチャーのいろいろな側面に着目し、それに反応するような形で創作するクリエイティブプロセスを踏み始めました。そしてついに10年後(の2024年春夏シーズンで)、若かりし頃の自分が生きたニューヨークをコレクションのインスピレーションにしたんです。あのコレクションは、私のニューヨークとアメリカとの関係を自伝的に表現したもので、私の大人としての人生の一幕を締めくくるものでした。集大成は、ショーのフィナーレで3歳の息子が私の腕の中に飛び込んできたあの瞬間です。

コーチ 2024年春夏コレクションより。
photo: Armando Grillo & Gianluca Carraro/ Gorunway.comコーチ 2024年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ほかのデザイナーのショーで一番好きなものは、ルイ・ヴィトンに在籍していた頃に幸運にも携わることができたショーです。マーク・ジェイコブスがアーティスティック・ディレクターを務めていて、彼の独創性と真のオリジナリティには当時と変わらず畏れを感じています。

2003年春夏コレクションで、マークは村上隆と制作したレインボーカラーのモノグラム・パターンをショーで発表したバッグに使用し、現代のデザインを方向づけるコラボレーションに乗り出しました。あれは本当の意味で、21世紀のファッション業界最初のコラボレーションだったと思います。お揃いのサテンドレス、それも色違いのものに身を包み、「Eye Love」柄の村上隆コラボバッグを提げたモデルたちが派手なパンクのサウンドトラックとともにランウェイに登場したオープニングは、私にとってファッションにおける時代の分岐点となった瞬間でした。

ルイ・ヴィトン 2003年春夏コレクションより。
Louis Vuitton fashion show for the Spring-Summer 2003, Ready-to-wear collections in Paris, France On October 07, 2002-ルイ・ヴィトン 2003年春夏コレクションより。

20. ニコラス・デ・フェリーチェ(COURRÈGES/クレージュ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

過去に在籍していたメゾンで携わったショーについては強烈な思い出がいろいろとありますが、クレージュCOURRÈGES)で手がけた初めてのショーは、夢のようなクレイジーな体験としてこの先もずっと覚えていることでしょう。コロナの関係で無観客で行わなければなりませんでしたが、通常のショーと同じような感覚を味わいたくて、映像はリアルタイムで一発撮りしたんです。会場となった場所は、自分がよくパーティーで訪れていところで、1年以上閉鎖されていました。そこに巨大な白いボックスを設置して、ほとんどの友人たちがその壁を登ったりしながらショーを見ていました。3年以上経った今でも、あの瞬間を自分が生きたことが信じられないときがあります。

クレージュ 2021-22年秋冬コレクションより。
クレージュ 2021-22年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

1つだけ選ぶのは不可能に近いです。1960年代から今日に至るまで、本当にたくさんのコレクションに心を奪われ、影響を受け、深く感動してきました......でも、どうしても1つだけ選ばなければならないとしたら、チャラヤンCHALAYAN)の1998年春夏コレクションですね。

このショーは私に大きな感動を与え、デザイナーは文字通り服をデザインし、ショーを構想することでメッセージや視点を表現することができるということを教えてくれました。ドレーピングを通して言葉を紡いでいく感じですかね。彼は作品を通して、セット、音楽、服というファッションショーを構成するすべての要素はつながっていて、それぞれが完全で重要なものであることを示しています。まるで革命的な詩みたいなんです。

チャラヤン 1998年春夏コレクションより。
チャラヤン 1998年春夏コレクションより。

21. マイケル・コース

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

最も印象に残っているのは、2021-22年秋冬コレクションで開催した40周年記念のショーですかね。故郷であるニューヨークに常にインスパイアされてきた者として、愛するシアター・ディストリクトとタイムズ・スクエアの路上でコレクションを発表するのはずっと夢でしたが、パンデミックとロックダウンがあってやっと叶えることができました。

ルーファス・ウェインライトがショーの間中パフォーマンスを披露し、ナオミ・キャンベル、アシュリー・グラハムシャローム・ハーロウリヤ・ケベデヘレナ・クリステンセンパロマ・エルセッサーアレック・ウェックヴィットリア・チェレッティカレン・エルソン、キャロリン・マーフィーといった伝説的なスーパーモデルを含むキャストへのセレナーデを奏でました。信じられないほど素晴らしかったです。このコレクションはしなやかさ、タイムレスな魅力、ラグジュアリーなグラマー、1981年の創業以来、私が掲げてきたものすべてを体現しています。

マイケル・コースコレクション 2021-22年秋冬コレクションより。
マイケル・コースコレクション 2021-22年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

1974年、ファッションに夢中だった10代の頃、ホルストンHALSTON)の1975年春夏コレクションに衝撃を受けたことを覚えています。彼自らが「スキンプ」と呼んでいた短いヘムライン、オーバーサイズのくたっとしたシルエットのバッグ、フラットシューズ、流線型のフォルムを打ち出したコレクションで、スポーティでアメリカンなリラックス感が心に響いて、今でも惹きつけられます。今なお時代を感じさせません。

ホルストン 1975年春夏コレクションより。
Halston Spring 1975 Ready to Wear Advanceホルストン 1975年春夏コレクションより。

22. ジョセフ・アルチュザラ(ALTUZARRA/アルチュザラ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

2009-10年秋冬コレクションで開催したアルチュザラALTUZARRA)の初ショー以上に思い出深いショーはおそらくないです。あのショーは、友人や家族、そして私を信じて応援してくれた人たちのサポートなくしては作り上げられませんでした。

コレクションを披露したアンドリュー・クレップス・ギャラリーは、(オーナーの)クレップスさんのご厚意で、ギャラリースタッフ用の服と引き換えに1日貸りることができたんです。友人たちが天井から照明を吊るし、トム・ペシューとローラン・フィリポンが無償でショーのヘアメイクをやってくれて。モデルのキャスティングはエージェンシーが手伝ってくれて、母はバックステージのおやつにクッキーを焼きました。

靴は6足しかなかったので、スタイリストのメラニー・フインとヴァネッサ・トレイナと私はショーの間中ひざまずいて、ランウェイに出て行くタイミングでモデルたちに靴を脱ぎ履きさせていました。音楽は床に置いたラジカセから流して、観客席はなし。誰も来ないんじゃないかとすごく心配していたんですけれど、ショーが終わってバックステージから出ると、部屋はエディターやバイヤー、カメラを構えた人たちでいっぱいでした。夢ではないかと自分をつねるくらい、信じられない瞬間でした。あのショーではコミュニティと家族の偉大さ、そしてみんなの圧倒的な愛を感じました。

アルチュザラ 2009-10年秋冬コレクションより。
アルチュザラ 2009-10年秋冬コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ニコラ・ジェスキエールの大ファンなんです。彼が生み出すものは驚くほど美しく、示唆に富んでいて、常に限界に挑み続けています。彼が手がけたバレンシアガ(BALENCIAGA)2001-02年秋冬コレクションが一番好きなショーかもしれないですね。テレビで見て、いまだかつて見たことがないようなコレクションに圧倒されたのを覚えています。砂時計のようなシルエットやコルセットのディテールなど、過去を彷彿とさせながらも驚くほどモダンで魅力的なショーでした。また、あのショーは断固たるビジョンを体現していて、それを思うと今にして(ジェスキエールへの)尊敬の念は深まるばかりです。

バレンシアガ 2001-02年秋冬コレクションより。
バレンシアガ 2001-02年秋冬コレクションより。

23. エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラ(BODE/ボーディ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

パリのシャトレ座で行ったボーディBODE)の2023-24年秋冬メンズランウェイショー「The Crane Estate」。母と彼女の3人の姉妹にインスパイアされたウィメンズウェアをローンチするショーだったので、一番印象に残っています。(オープニングでは)フランス人の叔父が数カ月前に亡くなった妻(私の最愛の叔母)を偲んで愛について独白して、私の夫であり良きコラボレーターのアーロン・オージュラと彼のクリエイティブ・パートナーのベン・ブルームスタインが劇場内にケープコッド様式の家とガレージ、ピーストーンまでしっかりと敷き詰めた庭を再現してくれました。母の子ども時代や青春の思い出を彷彿とさせる光景でした。

ボーディ 2023-24年秋冬メンズコレクションより。
ボーディ 2023-24年秋冬メンズコレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

いわゆる「ショー」ではないのですが、2008-09年秋冬から2010-11年秋冬にかけてのアダム キメル(ADAM KIMMEL)のコレクションに、当時パーソンズ・スクール・オブ・デザインでメンズウェア・デザインを学び始めた私はものすごく影響を受けました。好きなデザイナーはこれからもずっとラルフ・ローレンですけれど、アダム キメルのような新進気鋭のブランドが時代を作ると同時に超えていくのを見るのは、いつも刺激になります。

アダム キメル 2008-09年秋冬メンズコレクションより。
アダム キメル 2008-09年秋冬メンズコレクションより。
アダム キメル 2010-11年秋冬メンズコレクションより。
アダム キメル 2010-11年秋冬メンズコレクションより。

24. トム・ブラウン

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

ピッティ・ウオモで行った2009-10年秋冬のショー。私にとって初めてのヨーロッパでのショーで、私のすべての作品に見られる特異なコンセプトをちゃんと表現したのも初めてでした。ユニフォームとユニフォームが表す厳格さと反復性。一列に並んで、同じ服を着てシンプルな日常業務をこなす男性たち。今なお色褪せない光景です。シンプルな単調さが、それぞれの個性を輝かせています。

トム ブラウン 2009-10年秋冬メンズコレクションより。
THOM BROWNE MEN FW09 NEW YORK 2/6/09 LOOKBOOKトム ブラウン 2009-10年秋冬メンズコレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

ディオールの2005-06年秋冬オートクチュールコレクション、カール・ラガーフェルドが手がけたシャネルの2005-06年秋冬オートクチュールコレクションと、クリスチャン ラクロワCHRISTIAN LACROIX)の2005-06年秋冬オートクチュールコレクション。ほかのデザイナーが手がけたショーを生で見たのは初めてで、今の自分のコレクションの見せ方の原点はここにあります。なぜなら、これらのショーはただ服を発表する以上のものだったからです。「今見たものはなんだったのか」と人びとに考えさせ、疑問を抱かせ、夢を見せ、その瞬間だけのために作られた純粋なクリエイティビティとクラフツマンシップの世界に観客を引き込んでいました。ショーをやるなら、こうやるべきだと思ったんです。

ディオール 2005-06年秋冬オートクチュールコレクションより。
ディオール 2005-06年秋冬オートクチュールコレクションより。
シャネル 2005-06年秋冬オートクチュールコレクションより。
シャネル 2005-06年秋冬オートクチュールコレクションより。
クリスチャン ラクロワ 2005-06年秋冬オートクチュールコレクションより。
クリスチャン ラクロワ 2005-06年秋冬オートクチュールコレクションより。

25. ヴィクトリア・ベッカム

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

2023年春夏パリコレクションで行った初めてのランウェイショーが、おそらく一番印象に残っているショーです。パリは私にとって昔から特別な街で、そこでファッション界で最も名高い人たちと肩を並べてショーを開催できたのは、本当にこの上ない達成感がありましたし、ブランドにとって大きな節目となった瞬間でした。

ヴィクトリア ベッカム 2023年春夏コレクションより。
ヴィクトリア ベッカム 2023年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

リチャード・プリンスにインスパイアされた、マーク・ジェイコブスのルイ・ヴィトンのショーが一番好きです。現代アーティストたちをインスピレーションにできるところが好きで、ジェイコブスのその姿勢には憧れますし、共感できます。私がこれまでに会った中で、彼は最も知的で、魅力的で、才能にあふれた人物の1人であるだけでなく、ポピュラーカルチャーのことを本当にわかっています。だからこそ、これほどまで共感を呼ぶんだと思います。

ルイ・ヴィトン 2008年春夏コレクションより。
France - Louis Vuitton Spring/Summer 2008 - Paris Fashion Weekルイ・ヴィトン 2008年春夏コレクションより。

26. フランチェスコ・リッソ(MARNI/マルニ)

──これまで携わったランウェイショーの中で最も印象に残っているものは?

最も印象に残っているショーは2022年春夏、コロナ明け最初のショーです。制作の全過程に心揺さぶられて、人生で一番感慨に耽っていた時期でした。会場にあるモノすべてにストライプを描いて、(観客含め)参加したすべての人にストライプ模様の服を着せて、すべてが私たちの創作活動の根幹を成す「喜び」に満ちていました!人のために服を作ること、人を幸せにするために服を作ること。それが私にとっての喜びなんです。

マルニ 2022年春夏コレクションより。
マルニ 2022年春夏コレクションより。

──ほかのデザイナーのショーで今までで一番好きなものは?

マックイーンがマイケル・クラークと手がけたのダンスショー(2004年春夏コレクション)が好きです。時が止まって、浮遊している感じがしました!あれほどドラマティックで美しい形で異なる表現方法が融合したことはないと思います。あのショーは私の血肉となり、いつまでも心に残ることでしょう。

マックイーン 2004年春夏コレクションより。
Models present creations for British desマックイーン 2004年春夏コレクションより。

Text: Laia Garcia-Furtado Adaptation: Anzu Kawano

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