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「サッカーライターは夢がない」、それでもなりたい方に送る業界のリアル

  • 2024.10.13
「サッカーライターは夢がない」、それでもなりたい方に送る業界のリアル
「サッカーライターは夢がない」、それでもなりたい方に送る業界のリアル

Text by ライター

「サッカーライターになりたい」。筆者もそんな想いで、この世界を志した一人だった。

インターネット上には、名刺があれば誰でもライターになれると書いてある職業だが、実際のところサッカーライターのリアルは書かれていなかった。

ライターは稼げない、ライターは激務、などネガティブな情報も目につく中、勢いでライターの世界に飛び込んだ筆者は現場で働く人間による生の声を求めた。

サッカーライター1年目の筆者が本媒体に多数の取材記事を寄稿する高橋アオ氏とともに、この世界の詳細について語り合った。

いい印象は一切ない

高橋ーー夢がない話をしてしまうと思いますが、よろしくお願いします。

浅野ーーよろしくお願いします。

髙橋ーー疑問なんですが、浅野さんはどうしてサッカーライターになろうと思ったんですか。

浅野ーー元々高校までは選手だったんですけど、プロなんて到底無理だった。だけどワールドカップにはどうしても行きたくて、それがライターなら叶えられるかもしれないと思いました。あと、サッカーの近くで仕事をしてみたかった。高橋さんはどうしてライターに?

高橋ーー成り行きですね。僕自身が海外で仕事をしていたときに、マスコミ関係の人と仲良くなったんです。そしたらその人から「ヨーロッパで大きな大会があるから、取材に行ってみないか」というお話をいただきました。

浅野ーーご縁は大きいですよね。

高橋ーーそうですね。ただ、石にかじりついてでも、サッカーライターなりたかったわけではありませんでした。そのころは元々サッカー関連の仕事をしていて、転職しようと思っていたタイミングだったから、「やってみよう」という感じですね。

浅野ーーそこから出版社や新聞社、テレビ局も経験していると思います。実際にサッカーライターになってみてどうでしたか。

高橋ーーいい面も、悪い面もある(笑)という感じですね。

浅野ーーまず、いい面から聞きたいです。

高橋ーー知らない景色をたくさん見られたことは良かった。普通に生活していたら絶対に知り得ない情報や知識にも触れられますし、絶対に話せないような人とも話せます。そういったキラキラした部分はありますね。

浅野ーーでは悪い面とは?

高橋ーー逆を言えば、闇も知った。あと、マスコミの方々にはいい人も多い反面、最低最悪な人間もたくさんいる。正直、この業界に対していい印象は一切ないですね。あと、いまはサッカー媒体自体に元気がない。浅野さんはお給料とかどうしているんですか。

浅野ーーそれでいうと、僕はバイトしていますよ。飲食とか港で力仕事したり。あと、なかなか休めないですね。

高橋ーーそこが1番問題で、ライターが食べにくい状況になっている。出版不況と言われているように、原稿料は下がっていますし、紙の媒体も減っています。新聞社や出版社は門戸が狭いですし、エリートしか行けない場所になっている。もちろん、業務委託契約やバイトという形でも入れますが、最初の2~3年は丁稚奉公のように働かされて、ほとんど経験を積めず、薄給で働かされるパターンがほとんどですね。

浅野ーーサッカーは需要がないんですかね?

高橋ーーいや、需要はあると思います。ただ。特にインターネットは広告の単価が低い。ニュース記事を書くWebの媒体だと、安くて500円とかもありますから。

浅野ーー厳しいですね。安い単価だったらなかなか休めないんじゃないですか。

高橋ーーまじで休めません(笑)。完全なオフは今月で多分3日ぐらいしかないです。正直、それでも全然いい方で、休みがない月もあります。

お金持ちにはなれないけど

浅野ーーサッカーライターは取材や書くことだけが仕事じゃないですもんね。

高橋ーーそうですね。企画書作りや撮影もあるので、なかなか大変。だからお金持ちにはなれない(笑)

浅野ーー夢がない(笑)

高橋ーーお給料とかの部分に関しては、なんなら赤字のときもありますから、夢のないことしか言えません。

浅野ーーそうは言っても、それでもこの仕事をやり続けてきましたよね。一体なぜですか?

高橋ーー1番の理由は、僕の記事を読んでもらうことでスタジアムに一人でも多くの方に行ってほしいからです。この選手はこういう想いで戦っているから応援しに行こうとか、あの選手のプレーを観に行ってやろうとか。そのような感じで、スタジアムに行くきっかけになってくれたら、俺はもう何も求めませんね。

浅野ーー読者ファーストですね。

「サッカーライターは夢がない」、それでもなりたい方に送る業界のリアル
「サッカーライターは夢がない」、それでもなりたい方に送る業界のリアル

高橋ーー読者・サポーターにどうやって効用を届けられるかしか僕は考えていません。もちろん、選手やクラブの関係者とも交流はあるんですけど、彼らを喜ばせることは、僕の中では前提です。選手の言葉やクラブの想いをサポーターや読者に届けることが僕にとって1番の仕事ですね。まぁ、綺麗ごとかもしれないですが…浅野くんはどうですか。

浅野ーー僕はライターになったきっかけこそ、自分のためでした。だけどいざ原稿を書いてみて、それが世に出ると、反応がうれしいんです。たとえ批判的なコメントだとしても、自分の書いた文章によって、何かを思ってくれる人がいる事実がやりがいですね。

高橋ーー分かる。物すごい暴言を吐かれても「あ、読んでくれたんだ」みたいに思える。もちろん度を越したものは相手にしないけれど、ほとんどの反応はうれしいですよね。

浅野ーーそうなんですよね。でも、だからこそいい記事が書けないときは、自分の実力に悶々とする。高橋さんは、取材するときに気を付けていることはありますか。

マスコミは虫

高橋ーー書くことが仕事だと勘違いされているけれど、1番大事な仕事は聞くことだと思っています。だからコミュニケーションの部分はとても大事にしていて、選手とメディアの前に一人の人間として接しています。だから相手と話すときにも、共感を大事にしている。

あとは相手の話を遮らないようにしています。相手が話し出したら絶対に喋らない。選手が話したいことを何とか聞き出すためにも、そのための環境づくりが大事。だから人がたくさん集まるミックスゾーンでの囲み取材は、5分を目安にしています。

浅野ーーついついたくさん聞きたくなってしまいますが、どうして5分に設定しているんですか。

高橋ーー選手たちにとって、練習や試合が終わった後はだるいわけですよ。走りまくって、酸欠に近いような状態ですから。たとえ早く帰りたいような状況でも、失言してしまったら書かれてしまうわけです。その状況で5分以上も取材させられたら、嫌な気持ちになると思うんですよね。

浅野ーーコミュニケーションはマニュアルがないから、難しいですよね。僕は現場を重ねる度に、他のライターさんのテクニックを見て、実践を繰り返しています。

高橋ーーそれこそ見ることもすごく大事です。サポーターはDAZNなどで試合を観られますから、自分しか見ていない景色を届ける必要があると思っています。映像に映っていない景色をどれだけ原稿に入れられるのか。それができないとしたら、ライターをやる資格はない。

浅野ーーたしかに。映像でいくらでも見返せる時代ですもんね。

高橋ーーもちろん書くことに関しては間違いが許されないし、読みやすい文章は重要です。ただ、その材料になる見る部分と聞く部分ができていないとしたら論外ですね。

浅野ーー僕はフリーなので、それらを教えてもらう前に現場に飛び込みました。だけど、どうしても机上の空論だけでは、どうにもならない部分がありました。ライターはいつも不確定な現場で仕事をするから、難しいと感じています。

「サッカーライターは夢がない」、それでもなりたい方に送る業界のリアル
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高橋ーーマスコミって虫なんですよね。ライターが益虫か害虫になるかは紙一重だと思っています。

浅野ーーマスコミは虫…

高橋ーー例えば、選手やクラブが高級料理だとすると、その利益だけをむさぼるだけだと、我々は料理にたかるハエになってしまう。それは害虫です。だけどミツバチのような益虫であれば、選手やクラブという名の花が持つ花粉を、サポーターや読者のような別な花に受粉させられる。僕はその架け橋になれたらいいと思います。

若いライターを求めている

浅野ーーでも、いまはその架け橋となる存在がどんどん減っている。個人的には若いライターがもっと増えてもいいのかなと思っています。

高橋ーーその通りだと思います。現状のライター界は夢がない世界になりつつあります。アスリートは日進月歩の勢いで成長していますが、マスコミは成長していない。非常に問題だと思います。

浅野ーー日本代表でいえば久保建英選手が同い年なんですけど、同世代の選手たちはどんどんステップアップしている。彼らに負けたくないという気持ちと同時に、もっとやらなければいけないと強く感じます。

高橋ーーぶっちゃけると、サッカーの文書はレベルがとても低い。だから、いまのままで構わないという考えは僕の中になくて、いろいろなジャンルの文書に目を通して、どうすればもっと伝わりやすく、面白くなるか研究するべきだと思います。

浅野ーーここまでの話を聞いて、ライター界にはある種の停滞感が漂っているのかなと思いました。

高橋ーーそうですね。だからこそ、若い人たちの力が必要です。

浅野ーーいまからサッカーライターになりたい人はどうすればいいんですかね。

高橋ーー夢がない話をしてきましたが、それでも簡単に投げ出さない覚悟と根性を持っている方がいれば、Qolyは歓迎しています。

浅野ーーそれは素人の方でも、Qolyで書けるという意味ですか。

高橋ーーそうです。取材がしたいのであれば、指導もできます。ただ、少し興味があるくらいの方を編集部は求めていないと思います。フリーランスは大変ですが、Jリーグだけではなくて、海外でプレーしている日本人選手に直接SNSで連絡を取って取材してみるとか、やり方はたくさんあります。だからまずはアクション起こすことが1番大事です。

浅野ーー僕はW杯に行きたくて、この業界に飛び込みました。そこからQolyで書かせてもらえるようになって、Jリーグや日本代表の取材に行かせていただき、状況が180度変わった。ただ、それでもライター界が今後どうなるかは誰にも分からないと思うので、日々ステップアップしていく必要性を実感しています。

高橋ーーただし一つ忠告しておくと、サッカーが好きな人こそ注意が必要。原稿料は低いですし、サッカーを嫌いになる可能性が十分にあります。それでも、サッカーライターはやりがいがある仕事です。Qolyはステップアップするための入口でも構いませんから、サッカーライターになる覚悟のある方は僕のXアカウント(@azzurri_t10)に連絡をください。相談でもいいので、お待ちしています。

サッカーライターは決して楽な仕事ではない。それでも、この仕事が持つやりがいと存在意義を、筆者もこの数ヶ月間で嚙みしめている。本記事がサッカーライターを目指す人にとって何らかの道しるべになれば幸いです。ご一読ありがとうございました。

(文 浅野凜太郎)

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