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いまも出会える、大島渚が遺した本棚。神保町〈猫の本棚〉

  • 2024.10.14
神保町〈猫の本棚〉店内

わかられてたまるか!な本たち

僕は本屋でローレンス・ヴァン・デル・ポストという聞いたことのない作家の『影の獄にて』という小説をふと目に留めました。本の帯に“日本軍の鬼軍曹ハラと……”と書いてあったので、外国人の書いた小説に日本人が出ているというのはちょっと面白そうだ、と思ってそれを買うことになったのが運の尽きでありまして。

「大島渚が語る『戦場のメリークリスマス』」『大島渚 全映画秘蔵資料集成』より。

映画監督・大島渚の蔵書に出会い、購入できる書店がある。神保町にある〈猫の本棚〉だ。

一つ一つの棚に異なる“棚主”がいるシェア型書店。小さくとも濃い「出会い」や「コミュニケーション」の場を作ることをテーマに、映画監督、脚本家、演出家、俳優、漫画家、音楽家、噺家、テレビマン、Kポップ好き、マッツ・ミケルセン好き、さまざまな趣味嗜好の棚主たちが、それぞれの棚を運営している。

神保町〈猫の本棚〉店内
〈猫の本棚〉には現在150の棚がある。棚主によって並ぶ本の種類はさまざま。古書やリトルプレス、CDやDVD、雑貨やアートなども。
神保町〈猫の本棚〉外観
〈猫の本棚〉外観。

現在は全部で150の棚があり、そのうち50の棚は店主の樋口尚文さんによるキュレーション。大島渚の蔵書を販売する〈大島渚文庫〉もその一つ。2022年5月から続いている人気企画だ。

神保町〈猫の本棚〉店内
「大島渚の“わからなさ”をこの棚でも表現したい」と樋口さん。天敵(?)野坂昭如の著書も並ぶ。〈大島渚文庫〉第2弾も計画中だ。
『大島渚全映画秘蔵資料集成』樋口尚文/編著
大島渚(映画監督)おおしま・なぎさ/1932年京都府生まれ。59年、映画監督デビュー。76年、阿部定事件を題材として物議を醸した『愛のコリーダ』で世界的に注目される。監督作は『戦場のメリークリスマス』(83年)、『マックス、モン・アムール』(86年)、『御法度』(99年)など多数。2013年没。

映画評論家であり映画監督でもある樋口さんは10代の頃から大島渚と交流があり、藤沢市鵠沼にある大島邸にもよく出入りしていたという。大島渚とはどんな本を愛読する人だったのかと聞くと、「実は、“正体”を見せない人だったんです」と樋口さん。

「書斎は広いんですが、本棚は小ぶりのものが3つほどあるだけ。しかも棚に並ぶのは、映画の資料やお父さんの蔵書だった夏目漱石全集ぐらい。本当のところは絶対に見せない人。作品もそうですよね。左翼的な作家だと言われているけど、めちゃくちゃ右翼的な人間もキラキラと描く。わからない人です。果たして自分が何者か、“わかられてたまるか!”というのが大島渚ですから」

『マルクス伝』、『キャプテン森勝衛』、『戦前日本マルクス主義と軍事科学』
〈大島渚文庫〉の本。『キャプテン森勝衛』は『戦メリ』のヨノイ大尉のモデルの伝記。『戦前日本マルクス主義と軍事科学』の著者は大島の妻、小山明子の叔父。
東松照明のサイン入り写真集『長崎〈1102〉』
東松照明のサイン入り写真集『長崎〈11:02〉』。

じゃあ、本来、膨大にあるはずの監督の蔵書は?というと、書斎の隅にある扉の向こうの「魔窟」にあった。「大島家の方々は誰も開けようとしないんです(笑)。2023年の没後10年も迫っていたのでアーキビストとしての血が騒ぎ、“僕が整理します”とパンドラの筺を開けてしまいました」

神保町〈猫の本棚〉店内
魔窟から発掘された白土三平の貸し本漫画。『忍者武芸帳』は1967年に大島渚が映画化。原画をコマ単位で撮影するという異色の手法。
神保町〈猫の本棚〉樋口、水野
樋口さんとオーナーの水野久美さん。

そこには大島の小学校・中学校・高校・大学時代のもの、助監督時代・監督時代のもの、「こんなものまである!」というものまで、ありとあらゆるものが整理整頓され詰まっていた。「大島さんは整理魔だったんです。本は、思想系、哲学系、文学系などは一通りあり、時代小説や推理小説、大衆小説、奇書、謎のエロ小説も(笑)。岡崎京子の漫画もありましたね」

そして、樋口さんの1年にわたるアーカイブ作業は『大島渚 全映画秘蔵資料集成』(800ページ超、重さ2.1kg超の大巨編)として結実、蔵書の一部は〈猫の本棚〉に並べることに。

「もともと本屋を始めたのは、彗星のように消えてしまいそうな本が、しかるべき人に手渡ってほしいという思いから。うれしかったのは、最近大島さんの『戦場のメリークリスマス』の再上映があり、若い女の子が来てくれたり、アメリカから大島研究者が来てくれたりしたこと。ああ、僕がやっているのはこのためだったんだなって」

神保町〈猫の本棚〉店内
取材に訪れた日は映画監督の蔵書〈大森一樹文庫〉をポップアップ。樋口さんは大森監督とも付き合いが長かった。
神保町〈猫の本棚〉店内
映画監督の〈青山真治文庫〉も。「青山さんのときは初日に行列ができました」

Information

神保町〈猫の本棚〉看板

猫の本棚

本と映画と猫が大好きな店主とオーナーが運営するシェア型書店。売り上げの一部を千代田区の保護猫団体に寄付している。

住所:東京都千代田区西神田2-2-6 102 
TEL:なし
営:14時30分~19時30分
休:月曜・火曜・水曜
HP:https://nekohon.tokyo/

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