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【映画を聴く】異色作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を音楽面から考察

  • 2024.10.13
【映画を聴く】異色作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を音楽面から考察
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』 (C) & TM DC (C) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

『ジョーカー』続編はミュージカル色の濃い作品に

【映画を聴く】2019年に公開され、大ヒットを記録するとともに高い評価を得た『ジョーカー』。その続編となる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、ミュージカル色の濃い異色作として仕上げられた。囚われの身であるホアキン・フェニックス演じるジョーカーの妄想と狂気は、レディー・ガガ演じるハーレイ・クインという“共犯者”の出現によりさらに激化。フランス語で「狂気の伝染」を意味するサブタイトルの通り、ふたりは破滅的な世界へと突き進んでいく。ここでは音楽面に話題を絞り、作品に込められた意図を考察してみたい。

前作で大きな役割を果たした音楽について

前作『ジョーカー』は、アーサー・フレックという主人公の精神が徐々に蝕まれ、ジョーカーというスーパーヴィランが生まれるまでの過程を中心に描いていた。アイスランドの作曲家、ヒドゥル・グドナドッティルによるサウンドトラックはアーサーの内面を表すのに欠かせない要素であり、電気チェロを主体としたサウンドはアーサーの孤独や苦悩を静かに、しかし強烈に表現。アーサーが狂気へと転じる様子を音で見る者に伝えた。今作でも引き続きグドナドッティルはサウンドトラックを担当。前作にも増して不協和音や不穏なノイズ、地を這うような低音をふんだんに含んだ楽曲を提供している。

前作では、既発曲の使われ方も話題になった。ジョーカーとしての“正装”に身を包み、自宅近くの階段ですべてから解放されたように踊り狂う彼の後ろで使われたのは、ゲイリー・グリッターの「Rock ’n’ Roll(Part 2)」。この曲をはじめ、クリームの「White Room」やジミー・デュランテの「Smile」、ラストで流れるフランク・シナトラの「That’s Life」など、ここぞというところで使われる曲たちが記憶に残っている人は多いだろう。いずれも物語の補助線として機能しながら、強烈なインパクトを与えることに成功していた。

『フォリ・ア・ドゥ』では映画と音楽の連携がさらに深化

今作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、前作で見られた音楽要素がさらに拡張。ついにはミュージカルとして仕上げられることになったわけだが、そこで大きな役割が与えられているのが、ポップ・シンガーであり俳優としての一面も持つレディー・ガガである。彼女が出演した2018年の映画『アリー/スター誕生』のプロデューサーにトッド・フィリップス監督が名を連ねていたことから今作でのキャスティングが実現したという。

ガガの演じるリー・クインゼルは、ジョーカーとの出会いからハーレイ・クインに。彼とともに数々の悪事に手を染めていく。先鋭的なポップ・ソングから古き良きスタンダードまで歌いこなすレディー・ガガの起用により、『フォリ・ア・ドゥ』の音楽表現の可能性は格段に広がったと言っていいだろう。一方のホアキン・フェニックスも、2005年の『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でカントリー歌手のジョニー・キャッシュを演じた際には低音の効いたヴォーカルを聴かせたり、2010年の怪作『容疑者、ホアキン・フェニックス』では謎めいたラップを披露したりと、音楽との関わりは少なくない。

作中ではジョーカーとハーレイ・クインのデュエットやそれぞれのソロ・パフォーマンスにより、さまざまな楽曲が歌われる。ジョーカーがソロで歌うのは、スティーヴィー・ワンダーやトニー・ベネットのカヴァーで知られる「For Once in My Life」、ミュージカル『ドーランの叫び、観客の匂い』の挿入歌の「The Joker」など。ハーレイ・クインのソロは、劇中で映像も使用されるミュージカル映画『バンド・ワゴン』の挿入歌でありエンタテインメント讃歌「That’s Entertainment」、フランク・シナトラのカヴァーで知られ、前作ではジョーカーのテーマ的な楽曲として鳴らされた「That’s Life」など。そして、デュエットでミュージカル『パル・ジョーイ』の曲「Bewitched」、ビー・ジーズ1967年のヒット曲「To Love Somebody」、カーペンターズのカヴァーで知られるバート・バカラック&ハル・デイヴィッド作の「(They Long To Be)Close To You」などが歌われている。

これらのミュージカル・パートが果たす役割は大きい。ジョーカーとハーレイ・クインの妄想と狂気が音楽とともに視覚化されることで、観客は彼らの脳内のカオスをよりダイレクトに体感することができる。多くのミュージカルでは、歌い手が自らの存在をより能動的/肯定的に定義し、外界に対して自らを表現する場面が見られる。ピュアな恋愛ドラマとは一線を画すが、本作でもそれは基本的に変わらない。ハーレイというパートナーを得て、「人生は喜劇だ」というジョーカーの狂気は加速。さらなる凶行を繰り返すことになる。

終盤で歌われる、アウトサイダー・アーティストの楽曲

今作に散りばめられた音楽要素のうち、とりわけジョーカーその人との関わりを強く感じさせるのがラストで歌われる「True Love will Find You in the End」という曲だ。これはアメリカでカルト的な人気を誇るシンガー・ソングライター、ダニエル・ジョンストンのオリジナル曲である。

ダニエル・ジョンストンについては、2005年のドキュメンタリー映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』が詳しい。ジョーカー/アーサーと同じく深刻な精神疾患を抱えながら活動を続け、2019年に58歳で亡くなったアウトサイダー・アーティストである。父親の操縦するセスナ機に同乗して墜落させたとか、自由の女神に落書きして捕まったとか、カセットテープがダビングできることを知らず注文のたびに1本ずつ歌を歌い直して録音していたとか、ジョンストンの破天荒なエピソードは数知れないが、その音楽は、無垢そのもの。一切の装飾を排し、“うたとことば”だけで構成された楽曲群は、ニルヴァーナのカート・コベインらも魅了した。

なかでも「True Love will Find You in the End」はジョンストンの代表曲として知られる。2分にも満たないこの楽曲で印象に残るのは「真実の愛が最後に君を見つけるだろう」という曲名にもなった一節。ジョーカーはアコースティック・ギターのシンプルな伴奏にのせて、呟くように歌う。ジョーカーは最後に真実の愛を見つけるのかどうか。ご自身の目でそれをご確認いただきたい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

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『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、2024年10月11日より全国公開中。

 

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