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いい女でいるなんてどうでもいい、世界で一番好きと伝えればよかった

  • 2024.10.13

大学3回生の頃、遠距離恋愛をしていた。免許合宿中、食堂で声をかけられたのが始まりだった。担当の先生のものまねで盛り上がったり、夜に海に行って花火をしたりした。

帰った後もやり取りは続き、毎日近況を報告しあった。数か月後には私の住む京都に遊びに来てくれて、清水寺や花見小路を案内した。

そこで合宿当時は私のことを「推し」と呼んでいて、ずっと話しかけたいと思っていたことを聞かされた。そんな経験は初めてだったので、私は舞い上がり、そんな自分の単純さに少し恥ずかしくもなった。

それから時々電話もするようになり、ある日電話越しに突然「好きだった」と言われ、付き合うことになった。生まれて初めての彼氏だった。

◎ ◎

長い距離に隔てられながらも、私たちは毎日欠かさずメッセージを送りあって、週に1回は電話をした。バイトを増やしてお金を貯め、交互に会いに行った。毎日、スマホをチェックするのが楽しみで仕方なく、通知音が鳴ると胸が高鳴った。

少し空き時間があると彼は今何をしてるかな、と考え、綺麗な景色や美味しい食べ物に出会うと彼にも見せたい、と思うようになった。いつもそんな私の話を楽しそうに聞いてくれ、そして自分も共有してくれる彼のことが、彼との時間が、大好きだった。

ある朝、必ず来るはずのメッセージが入っていなかった。少し違和感を覚えたけど、急かすのはよくないと思ってそのままバイトに行った。何度確認しても、通知音は来ない。

少し不安になった。でも、彼を信じようと思ってじっと待った。
夜になり、もう諦めて寝ようかという頃、通知音が鳴った。恐る恐る覗く。そこには、「突然ごめんね。東京で好きな人ができたのでお別れしたいと思って連絡しました。深く傷つけるようなことをしてしまってごめんなさい」と彼らしい文章が書かれていた。

心臓をぎゅっと掴まれたような息苦しさに胸が締め付けられる。そうじゃないかと覚悟していた自分がどこかにいて、妙に冷静になって何度も読み返した。

きっとすごく時間をかけてこの文章を考えて、すごく勇気を出してこれを送ったのだろう。それだけの覚悟があるのだろう。

これで終わりか。いや、終われない。「ちゃんと電話してからにしたい」とだけ私は送った。

◎ ◎

3コール程鳴った後、それが途切れる。

「もしもし」

電話口の声は震えていた。泣いているようだった。

「なんでそっちが泣いてるの」
「ごめん」
「こっちが泣きたい」
「ごめんね」

気づけば2人とも泣いていた。私は強がって、いい女だと思われたくて、

「仕方ないね。その人と幸せにね」

と、言ってしまった。違う、幸せになんて思えるわけない。そんな子より私の方が、何倍も、何十倍もあなたのことを好きだよ、後悔するよ。本当はそう言いたいのに。

「ごめんね。いつかまた会えることがあったら会おう」
「会わないよ」
「ごめん」
「……もういいよ。でも最後におやすみだけ言わせて」

彼は中々言おうとしなかった。これが最後になるということが分かって、今になって躊躇しているようだった。

自分で言いだしたくせに、と少し憎らしく思いながらも、最後くらいはいい彼女でいたいという私のつまらないプライドが、先に「おやすみ」と言わせた。彼は名残惜しそうに「うん。おやすみ」とか細く答え、私は電話を切った。せめてもの仕返しのつもりだった。

◎ ◎

良い彼女でいることなんて、どうでもいい。

私は間違いなく世界で一番、彼のことが好きだった。世界で一番、彼を大事にできる自信があった。たとえ振り向いてくれなかったとしても、それを伝えればよかった。

どうして強がってしまったのだろう。今になって、感情が溢れ出てきた。私は子供みたいに、声を上げて泣いた。こんなに泣ける自分がいると思わなかった。

気づけば時計の針は25時を回っている。今夜は新月で、外は暗い。月からも見放された気がした。きっと長い夜になる。今夜は、寝れそうにもない。

■みちのプロフィール
ガチャガチャが好き。地元の設置場所は大体把握済。

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