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オランダから徳島の山間へ移住した夫妻が、クラフトビールを通して体感する優しさの循環システム【オルタナティブ・カルチャーを育む町 vol.3】

  • 2024.10.12
ビール造りを行うパートナーの「サポート役です」と笑うあべさやか。
ビール造りを行うパートナーの「サポート役です」と笑うあべさやか。

2018年にKAMIYAMA BEERをこの地に起業したあべさやかとパートナーのスウィーニー・マヌスもまた、KAIRがきっかけで神山を訪れ、この地に魅了された人たちだ。 オランダのアムステルダムを拠点にコミュニケーションをツールとしたアート活動を行っていたあべが2013年にKAIRに招聘されたことで、ドキュメンタリー映像制作を行っていたマヌスもともに神山で過ごすことに。映像制作に欠かせない通信インフラが完備していたことも、マヌスの滞在に大きく影響したという(神山は四国で初めて全戸に光ファイバーを整備したことで知られる)。そして、この3カ月が、二人の人生を大きく変えることになる。「滞在期間中は多様な人たちとの交流があり、楽しすぎてあっという間に時が過ぎてしまいました。その後アムステルダムに戻り、アーティスト仲間に神山の良さを熱弁しているうちに、神山と神山の人が恋しくなってしまい、数カ月後にまた戻ってきたんです。そうやってアムステルダムと神山を行き来するうちに、ここに落ち着いてもいいのではないかと思い始め、2016年の2月に移住しました」

常時揃えている4種のハウスビールに加え、季節ごとに限定フレーバーも登場する。あべが手がける、カラフルなラベルもビール熱をそそる。
常時揃えている4種のハウスビールに加え、季節ごとに限定フレーバーも登場する。あべが手がける、カラフルなラベルもビール熱をそそる。

神山でブルワリー(ビール醸造所)を始めることは、移住の際に決めたことだという。なぜビールだったのか? 「単純に私たちがビール好きで、ものすごく消費をしていたからです(笑)。マヌスも映像制作とビール造りを天秤にかけたときに、生涯の仕事にするのならビール造りがいいと、ビールに軍配が上がったんです」

醸造を行っているマヌスは、2014年からオランダでホームブルーイングを楽しみ、さまざまな醸造所を訪れたり、講座を受けたりと体系的にビール造りを学び、ついにナノブルワリーのオープンに至る。「紆余曲折ありましたが、とにかく誰かが助けてくれるんです。特にお世話になったのが、KAIRの初代会長で、隣接するキャンプ場(コットンフィールド)オーナーの森昌槻さんです。この建物はオランダ人の友人が設計をしてくれたのですが、それを森さんが日本の大工さん仕様に“訳して”くれたり、難しいアイデアを無理だと突き放すのではなく、どうしたら実現可能かを考えてくれたり。“やったらええんちゃうん”と、絶妙な距離感で手を差し伸べてくれるんです。そんな人との繋がりや、この温かいコミュニティが神山の最大の魅力だと思います」

あべが手がけたアートが施され、周囲の山々に溶け込むブルワリー。横を流れる川を伝って、森の学校みっけの子どもたちがやってくることも。ブルワリー内にはタップルームも併設。出来立ての自然発泡ビールを片手に、軽食も楽しめる。徒歩圏内にはキャンプ場や日帰り温泉施設もある。
あべが手がけたアートが施され、周囲の山々に溶け込むブルワリー。横を流れる川を伝って、森の学校みっけの子どもたちがやってくることも。ブルワリー内にはタップルームも併設。出来立ての自然発泡ビールを片手に、軽食も楽しめる。徒歩圏内にはキャンプ場や日帰り温泉施設もある。

目指しているのは自分たちが飲みたいと思う、本当においしいビール造り。「わざわざ遠くから運んできたビールを飲むのではなく、神山で獲れる自然の材料を使って自分たちで造ったビールを、ここに集まってくる人たちと楽しく、おいしく飲む。神山では誰かが誰かを助けるという人々の優しさが循環していますが、私たち(KAMIYAMA BEER)は、優しさはもちろん、地域の中で経済が循環することも目標にしています」

Photos: Ichisei Hiramatsu Tex: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto

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