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キツツキは脳とか大丈夫なの? 研究者「大丈夫だけど、思ってた理由と違った」

  • 2024.10.12
キツツキの頭蓋骨には「衝撃吸収材」が存在しなかった!
キツツキの頭蓋骨には「衝撃吸収材」が存在しなかった! / Credit: Gordon Congdon/Audubon Photography Awards

キツツキは1秒間に20〜25回ものスピードで木をつつきますが、それによって脳を痛める様子はまったくありません。

これは専門家にとって長年の謎であり、可能性としては「くちばしと頭蓋骨の間に”衝撃吸収材”があり、それが脳を守っている」という説が有力視されてきました。

このアイデアは、アメフトのようなコンタクトスポーツの怪我防止ヘルメットの開発にも応用できると考えられたほどです。

しかし、ベルギー・アントワープ大学(University of Antwerp)らの2022年の研究で、キツツキには、衝撃から脳を保護する吸収材がまったく存在しないことが判明しました。

むしろ、キツツキは衝撃を真正面からモロに受けていたようです。

そうだとすれば、なぜ彼らは頭痛や脳震盪を起こさないのでしょうか?

研究の詳細は、2022年7月14日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。

目次

  • つつきの衝撃はまったく軽減されていなかった!
  • キツツキの脳サイズなら、脳震盪は起きない

つつきの衝撃はまったく軽減されていなかった!

本研究では、「キツツキが脳を保護するために衝撃を吸収している」という大方の説を検証するため、高速度カメラを用いて、3種のキツツキのつつき行動を撮影しました。

対象としたのは、クマゲラ、エボシクマゲラ、アカゲラの3種で、木をつつく様子を1秒間に最大4000フレームで記録し、衝撃を受けた際のくちばしや頭の微妙な動きを分析しました。

その結果、つつきによる衝撃はまったく減衰しておらず、くちばしや頭へ衝撃をまともに受けていたのです。

動画上で、キツツキのくちばしとその付け根、それから脳の部分に色違いのマーカーを付してみると、すべての箇所が木をつついた瞬間に、まったく同じスピードで停止していました。

これは、くちばしから頭蓋骨に至るまで、衝撃を一切吸収していないことを意味します。

次にチームは、キツツキの身体測定値と、衝撃発生時の頭部の平均速度をコンピューターモデルに組み込み、「衝撃を吸収しないモデル」と「衝撃を吸収するモデル(くちばしと頭蓋骨の間に衝撃吸収材があると想定)」の2パターンを作成して比較。

その結果、衝撃を吸収するモデルの場合、木をつつく力が極端に弱まることがわかったのです。

シミュレーションした様子。上が硬い嘴と頭蓋骨、下が嘴と頭蓋骨の間に衝撃吸収構造があった場合を示す。衝撃吸収機構があると木へ衝撃波弱まってしまう。
シミュレーションした様子。上が硬い嘴と頭蓋骨、下が嘴と頭蓋骨の間に衝撃吸収構造があった場合を示す。衝撃吸収機構があると木へ衝撃波弱まってしまう。 / Credit:Van Wassenbergh et al/Current Biology(2022)

研究主任のサム・ヴァン・ワッセンベルク(Sam Van Wassenbergh)氏は、こう説明します。

「もしキツツキが、衝撃を吸収しながら木をつつくとしたら、非常に余分なエネルギーコストがかかります。

脳への衝撃を軽減するクッションを内蔵していると考えた場合、木に穴を開けるためには、今よりもっと強い力が必要となるでしょう

では、衝撃吸収材を備えていないのに、どうして脳へのダメージがないのでしょうか?

キツツキの脳サイズなら、脳震盪は起きない

エボシクマゲラ
エボシクマゲラ / Credit: Gordon Congdon/Audubon Photography Awards

キツツキの一回一回のつつき行動は、サルやヒトの脳サイズであれば、脳震盪を起こすのに十分な衝撃があります。

しかし調査の結果、キツツキ程度の小さな脳であれば、その衝撃でも脳にダメージを与えるには及ばないことが明らかになったのです。

ワッセンベルク氏は「キツツキの脳サイズを踏まえた場合、つつき行動による衝撃は、脳震盪を起こす閾値をはるかに下回っていた」と説明します。

(A)人間の脳と(B)3種のキツツキの脳を比較した図。キツツキの脳サイズでは脳震盪の閾値圧力が人間よりも有利であることがわかる
(A)人間の脳と(B)3種のキツツキの脳を比較した図。キツツキの脳サイズでは脳震盪の閾値圧力が人間よりも有利であることがわかる / Credit:Van Wassenbergh et al/Current Biology(2022)

また、キツツキがつつく木の幹は、比較的柔らかな素材で、すぐに変形しうるため、その分、脳への衝撃も軽減されていました。

研究チームによると、キツツキの脳がダメージを受けるには、今の2倍の速度で木をつつくか、あるいは、金属のようなより硬い表面をつつく必要があるとのことです。

そうすれば、さすがのキツツキも脳震盪を起こすと予想されます。

最近の研究では、頭突きをする動物は脳に障害を受けている可能性が指摘されていますが、キツツキの場合は特別な機能を体が持たなくても脳へのダメージは心配がないようです。

今回の研究成果は、長年、専門家の間で広まっていた”衝撃吸収説”に真っ向から反論するものです。

さらに、生物進化の視点からすると、より大きな頭や首の筋肉を持つキツツキが存在しない理由も、これで説明がつくかもしれません。

大きな頭や筋肉を備えたキツツキは、より強力なつつきができますが、それはキツツキの脳サイズでも脳震盪を起こすリスクを高めてしまいます。

今ぐらいのサイズ感であれば、余分な衝撃吸収材も必要とせず、思い切って木つつきができるようです。

※この記事は2022年7月公開のものを再掲載しています。

参考文献

New Study Shakes Up Long-held Belief on Woodpecker Hammering
https://www.audubon.org/news/new-study-shakes-long-held-belief-woodpecker-hammering

Why Don’t Woodpeckers Get Brain Damage? Research Presents an Intriguing New Hypothesis
https://www.sciencealert.com/new-research-challenges-past-ideas-on-why-woodpeckers-don-t-suffer-brain-damage

元論文

Woodpeckers minimize cranial absorption of shocks
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(22)00855-7

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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