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【脳が恋に落ちる】名画『真珠の耳飾りの少女』には脳を虜にする仕掛けがあった!

  • 2024.10.12
Credit: Mauritshuis

オランダの巨匠、ヨハネス・フェルメール(1632〜1675)。

彼が遺した『真珠の耳飾りの少女』は、絵画史に燦然と輝く名画として知られます。

口元にかすかな笑みを湛え、こちらをそっと見つめる少女の静かな表情は、観る者の目を惹きつけて離しません。

まるで不思議な魔力でも秘めているようですが、最近、絵を所蔵するオランダ・マウリッツハイス美術館(Mauritshuis)の研究で、なぜ多くの人が少女を飽くことなく見つめ続けてしまうのかが明らかになりました。

調査によると『真珠の耳飾りの少女』には、鑑賞者の脳を虜にするある仕掛けが隠されていたようです。

目次

  • なぜ『真珠の耳飾りの少女』から目が離せなくなるのか?
  • 脳を虜にする秘密が隠されていた!

なぜ『真珠の耳飾りの少女』から目が離せなくなるのか?

『真珠の耳飾りの少女』が制作されたのは1665年もしくは1666年とされています。

フェルメールが33〜34歳頃の作であり、画家としての技術が成熟しつつある時期でした。

構図は少女の上半身だけを描いた実にシンプルなもので、かすかな笑みを湛えているように見えることから「北のモナ・リザ」「オランダのモナ・リザ」などと称されています。

『真珠の耳飾りの少女』/ Credit: ja.wikipedia

フェルメールは1675年に43歳の若さで破産同然で亡くなり、彼が遺した作品も競売にかけられるなどして方々に散逸しました。

『真珠の耳飾りの少女』も他の絵と同じ運命をたどり、色々な所有者の元を転々としています。

しかし1881年に「フェルメールの希少な作品が海外に流れるのを防ごう」との働きかけがあり、マウリッツハイス美術館に寄贈され、今日に至るまで同館に所蔵されることとなりました。

他方で、フェルメールがここに描いた少女が誰なのかは今もわかっていません。

彼の妻や娘のマーリア、昔の恋人、あるいは全くの想像で描かれた人物など、さまざまな説があります。

ただ少女の正体が誰にせよ、彼女が今も世界中の人々の目をとらえて離さない魅力を秘めていることは確かです。

そこでマウリッツハイス美術館は今回、脳科学者と協力し、なぜ私たちが『真珠の耳飾りの少女』に強く魅了されるのかを脳活動から解き明かすことにしました。

脳を虜にする秘密が隠されていた!

調査では20名のボランティアを対象に、視線を追跡するアイトラッカーと脳波(EEG)を非侵襲的に測定できるキャップを装着し、同館に所蔵されている『真珠の耳飾りの少女』を鑑賞してもらいました。

また比較対象として、他の4つの絵画でも同じことを行っています。

1つ目はオランダの画家ヘラルト・ファン・ホントホルスト(1592〜1656)の作品『ヴァイオリン弾き』(1626年)で、2つ目は同じくオランダの画家レンブラント(1606〜1669)の作品『テュルプ博士の解剖学講義』(1632)

3つ目が同じくレンブラントの作品『63歳の自画像』(1669)で、4つ目がフェルメールの作品『デルフト眺望』(1660〜1666頃)です。

そして実験の結果、『真珠の耳飾りの少女』を鑑賞したときにだけ、他の4作品では見られない「持続的注意ループ(sustained attentional loop)」という神経活動現象が起こっていることがわかりました。

これは鑑賞者の視線が絵画の各ポイントを順番に繰り返し移動し続ける現象を指します。

アイトラッカーのデータと合わせて分析すると、鑑賞者の視線はまず少女の瞳に奪われ、その次に口元に移動し、最後に真珠の耳飾りへと移り、このトライアングルのサイクルを延々と繰り返していたのです(下図を参照)。

このように観る者の視覚的注意が固定され続けることで、絵画から目が離せなくなり、他のどの作品よりも鑑賞時間が長くなっていました。

鑑賞者の視線を分布したもの。瞳・口元・耳飾りを移動するサイクルができていた / Credit: Mauritshuis

これについて、マウリッツハイス美術館のマーティン・ゴスリンク(Martine Gosselink)館長は「フェルメールの作品の多くは通常、どこか1点に焦点を当てて、その他の部分は少し曖昧にしている特徴があるのに対し、『真珠の耳飾りの少女』は目元・口元・耳飾りと視線を集めるポイントが複数あることに大きな違いがある」と指摘します。

このことからフェルメールは「持続的注意ループ」が生じやすくなるよう、言い換えるなら、観る者の脳が恋に落ちてしまうよう意図的に『真珠の耳飾りの少女』を描いた可能性があるのです。

また鑑賞者の脳波データを分析すると、大脳の内側にある「楔前部(けつぜんぶ)」という領域が顕著に活発化していました。

この脳領域は自己反省過去のエピソード記憶の再生に関与しているため、鑑賞者は『真珠の耳飾りの少女』を観ている間、個人的な思い出(例えば、初恋の相手とか亡き妻の面影など)を想起しているのかもしれません。

鑑賞実験の様子 / Credit: Mauritshuis

研究に参加した脳科学者のマーティン・ド・ムニク(Martin de Munnik)氏は「私たちの注意は望むと望まざるとに関わらず、少女に強く引かれて、彼女を愛してしまうのでしょう」と話しました。

フェルメールの人物画では、誰かが書き物をしていたり、針仕事をしていたり、地球儀を見つめていたりと、忙しそうな人たちが描かれていますが、『真珠の耳飾りの少女』は違います。

彼女はまさに「私を見て」と言わんばかりに、あなたのことをじっと見つめているのです。

参考文献

Girl with a Pearl Earring visually captivates the viewer
https://www.mauritshuis.nl/en/press-releases/girl-with-a-pearl-earring-visually-captivates-the-viewer/

The ‘pearly triangle’: neurological investigation reveals secret of Vermeer’s Girl with a Pearl Earring
https://www.theartnewspaper.com/2024/10/03/the-pearly-triangle-neurological-investigation-reveals-secret-of-vermeers-girl-with-a-pearl-earring

Real art in museums stimulates brain much more than reprints, study finds
https://www.theguardian.com/science/2024/oct/03/real-art-in-museums-stimulates-brain-much-more-than-reprints-study-finds

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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