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再生のカギはアーティスト。神山の奇跡を生んだアートハブ【オルタナティブ・カルチャーを育む町 vol.2】

  • 2024.10.12
神山の「創造の森」には、KAIRで生まれた作品が自然と共存するように点在する。スペイン系フランス人アーティストのアリアン・パトゥーと、ドイツ系スイス人デザイナーのルネ・ミュラーによるユニットDomestic-Wildが制作した《Wild Heart》(2023)。
神山の「創造の森」には、KAIRで生まれた作品が自然と共存するように点在する。スペイン系フランス人アーティストのアリアン・パトゥーと、ドイツ系スイス人デザイナーのルネ・ミュラーによるユニットDomestic-Wildが制作した《Wild Heart》(2023)。

神山を国内外の人たちを吸引し続ける“奇跡の田舎”たらしめている大きな要因の一つが、1999年にスタートした「神山アーティスト・イン・レジデンス(以下KAIR)」の存在だ。KAIRは神山の過疎化や産業衰退による地域課題に取り組む、NPO法人グリーンバレーの前身となる国際的なアートプロジェクト。毎年8月の終わりから11月にかけての約2カ月半(80日間)、国内外から2〜3名のアーティストを神山に招き、作品制作と展示の場を提供している。

グリーンバレーの源流は、1991年に実現された「アリスの里帰り」にある。戦前アメリカから寄贈された「青い目の人形」を、故郷に里帰りをさせる運動に、当時小学校のPTA役員をしていた大南信也が携わった。神山で生まれ育ち、米スタンフォード大学院から帰国した大南は、「アリスの里帰り」を機に自身の幼馴染みやPTA仲間たちと「住民主導のまちづくり」を実践。子どもたちの未来のために、さまざまな国際交流活動を行うようになる。KAIRはその流れから誕生した。

国内外で活動しているアーティストユニット、ポーワングの《森のカヌー》(2021)。
国内外で活動しているアーティストユニット、ポーワングの《森のカヌー》(2021)。

KAIRのディレクターを務める工藤桂子は、本プロジェクトが他の類似プログラムと一線を画す理由をこう語る。「KAIRは完全公募制で、応募者の中から神山に喜びや驚きをもたらしてくれそうなアーティストたちを、グリーンバレーのおっちゃんたち(活動を開始した第一世代のメンバーたちを、工藤は親しみを込めてこう呼ぶ)が自ら選考しています。そして住民たちが、来日したアーティストたちの生活面からアートの制作や設営に至るまで、全面的にサポートをしています」。

この地では、徳島に根づく、通りすがりのお遍路さんを歓迎する「お接待」の慣習があるため、町の人たちは見知らぬ人を自然に受け入れることに慣れているという。アーティストの多くはこの神山での出会いや体験を忘れられず、再訪してくる。ときには新しい仲間を連れて。地元発信のプロジェクトに引き寄せられ、同地に集まった移住者同士、または移住者と住人の間で交流が生まれる。そこから新たなコミュニティやプロジェクトが発足し、さらなる移住者を呼び込む──ここでもまた循環というキーワードが見えてくる。

オランダ人アーティストのカリン・ヴァン・デ・モーレンによる、地元の陶器を使用した《神山金継》(2018)。
オランダ人アーティストのカリン・ヴァン・デ・モーレンによる、地元の陶器を使用した《神山金継》(2018)。

成功を収めているKAIRだが、予算確保や後継スタッフの育成という課題もある。「ただ、グリーンバレーのおっちゃんたちは理屈よりも楽しそうだったら“やったらええんちゃうん”という人たち。それがKAIRの根底にあるので、今後もその精神は変わらずに継続していきたいです」

Photos: Ichisei Hiramatsu Tex: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto

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