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無類のギャンブル好き。とにかく“人間くさい”。作家・黒川博行さんの素顔とは? 直木賞受賞記念の東野圭吾さんとの対談も収録

  • 2024.10.11
ダ・ヴィンチWeb
『そらそうや』(黒川博行/中央公論新社)

『破門』で直木賞を受賞した10年後の今年、『悪逆』で吉川英治文学賞を受賞したベテラン作家の黒川博行さん。11月には関西、九州在住の作家や書店員16人による「なにげに文士劇2024」の旗揚げ公演の実行委員長を務めるなど、75歳となった現在も精力的に活動されている。そんな黒川さんの作家デビューは、1983年に高校の美術教師を勤める傍らに書いた小説『二度のお別れ』が、第1回サントリーミステリー大賞佳作に選ばれた翌年のこと。つまり2024年は、黒川さんにとって「作家生活40年」の節目の年なのだ!

そんな記念すべき年に、黒川さんのエッセイ『そらそうや』(黒川博行/中央公論新社)が出版された。幼い日々から作家になった頃までを綴った「デビューまで」、執筆のこと&奥様やさまざまなペットとのことなど日常を綴った「作家的日常」、ギャンブル好きで知られる黒川さんの熱がほとばしる「麻雀・将棋・カジノ・そして運」、親しかった鷺沢萠さん、藤原伊織さんを偲ぶ「交友録」、自身の作品を振り返る「自作解説」、さらには直木賞受賞記念の東野圭吾さんとの対談「僕は運が強いんです」――これまでさまざまなメディアで発表されてきたエッセイ等を厳選した「決定版」とも言える本書。

本書で知る黒川さんは、とにかく「人間」くさい。冒頭のエッセイ「博打と船と」に描かれる幼い頃に育った昭和30年代の大阪・大正区の光景はかなり刺激的で(道路が馬糞だらけで雨の日には長靴をはかないとえらいことになったとか、その頃の男子の遊びは本質的に“博打”だったとか)、いきなり心を掴まれるのは必定。続く「美大受験」の奥義(黒川さんは現・京都市立芸術大学の彫刻家卒だ)には「なるほど」と納得するし、4年勤めたスーパーでのダメ社員ぶりもかなり笑える。その後に黒川さんは高校の美術教師になり(この当時のエピソードもかなり面白い)、作家デビュー。極めて力の抜けた文章の語り口は、すべてを「たまたま」のように見せかけるが、その実しっかり「狙ったものは外さない」のはさすがギャンブラー(黒川さんは無類のギャンブル好きなのだ)!

特に印象的なのは、オカメインコのマキをはじめとする生き物たちとの交流だろうか。マキは黒川さんと共に目覚め、グッピーやめだかたちの世話(これがなかなか複雑)の間もそばにいて、終わったら黒川さんの肩にとまって食卓に向かい、そのまま昼寝にも誘われる――門外漢には「ええ? インコってこんなに賢いの?」と驚かされるが、「生き物」に対する黒川さんの愛情の深さを垣間見てちょっとほっこり…ほっこりといえば、何より最大級にほっこりさせられるのは奥様(日本画家・黒川雅子さん。本書の装画も手がけている)へのリスペクトだろう。おふたりのやりとりの凸凹ぶりはなんともほほえましく、際どいギャンブルの話の刺激的な内容も中和されてしまうからすごい!

作家のエッセイにはいろいろなものがあるが、作品世界とはひとあじ違う人間くささを知るのは面白いもの。本書はまさにそんな1冊だ。本書を読んでから再び黒川さんの著作を読めば、さらに深く味わえるかもしれない。

文=荒井理恵

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