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勤務時間外のメールに対応すると「燃え尽き症候群」になりやすい

  • 2024.10.11
Credit: canva

ようやく仕事が終わり、ソファに腰を下ろして、ビール片手にひと休み。

…と思っていた矢先、スマホが鳴って上司から仕事の質問メールが届く。

こうした勤務時間外のメールに仕方なく対応する方は多いと思いますが、しかしこれには心身の健康を蝕む危険性があります。

米ミネソタ大学ツインシティー校(UMTC)の先行研究によると、退勤後や週末などの勤務時間外に仕事のメール応対をすると、ストレスレベルが高まり、うつ症状や燃え尽き症候群のリスクが高まることがわかっているのです。

これはスマホやPCによる遠距離連絡が容易になり、リモートワークも浸透したデジダル時代ならではの大きな弊害と言えるでしょう。

研究の詳細は2022年11月28日付で学術誌『Journal of Communication Management』に掲載されています。

目次

  • 現代は「私生活」と「仕事」の境界線が曖昧
  • 私生活での仕事対応は「燃え尽き症候群」につながる?

現代は「私生活」と「仕事」の境界線が曖昧

今や、私たちの社会はプライベートと仕事の境界線が非常に曖昧になりつつあります。

スマートフォンやパソコンを代表とするテクノロジーの発達により、24時間365日いつでも簡単に連絡ができるようになりました。

一見すると効率性の勝利のように見えますが、そのせいで私生活に仕事が入り込み、勤務時間外にも仕事の応対をしなければならないことが増えています。

さらにこの流れに拍車をかけたのがコロナ禍に浸透したリモートワークでした。

在宅での仕事が可能になり、通勤や朝礼、昼休憩といった会社ごとの決まった時間割がなくなったことで、多くの人が自分に合った勤務時間で働けるようになりました。

しかしこのことは同じ会社に勤めている人同士でも、働いている時間あるいは休んでいる時間がズレてしまうことを意味します。

つまり、自分が休んでいる時間帯に同僚や上司から仕事の連絡が届くようになったわけです。

プライベート時間に仕事対応しなければならない機会が増えている / Credit: canva

こうしたプライベートでの仕事対応は、皆さんも実感されているように、かなりのストレスを受けます。

そこでミネソタ大学ツインシティー校の研究者らは、勤務時間外に仕事対応することが具体的にどのような弊害を生んでいるのかを調査しました。

私生活での仕事対応は「燃え尽き症候群」につながる?

本調査はアメリカ在住で様々な職種についている315名の正規雇用の従業員を対象としました。

オンラインで実施したアンケート調査で、勤務時間外の仕事対応の頻度や日常的なストレスレベル、および心身の健康状態について回答してもらっています。

その結果、勤務時間外にメールを返信するなどの仕事対応をする頻度が多かった参加者ほど、日常的なストレスレベルが高く、雇用主に対する悪口やネガティブな印象が強まっていることが判明しました。

さらに重要な発見は、勤務時間外の仕事対応が多かった人ほど、「燃え尽き症候群」の発症リスクが有意に高まっていたことです。

勤務時間外のメール返信が「燃え尽き症候群」につながる? / Credit: canva

燃え尽き症候群とは、主に仕事上の対人コミュニケーションにおいて過度なストレス刺激を受け続けた結果、心理的に消耗して急にやる気や熱意を失ってしまう状態を指します。

特に燃え尽き症候群になりやすい人は、

・責任感が強くて仕事熱心

・まじめで頑張りすぎ

・過度に完璧主義

といった特徴を持っていることが多く、これに加えて、理不尽な要求を押し付けてくる職場や、努力に見合った報酬を与えてくれない職場、さらには周囲に相談できる相手がいない環境が合わさると、燃え尽き症候群の発症リスクが非常に高くなります。

またここでの調査は「勤務時間外の仕事対応」も発症リスクの上昇に寄与する要因となることを示すものです。

プライベート時間に来た仕事上のメールに返信してしまうのも、真面目で責任感が強い性格特性が関与しているのでしょう。

真面目で責任感が強い人ほど「燃え尽き症候群」になりやすい / Credit: canva

同様の結果は豪ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)による2023年の研究でも報告されています(RMIT, 2023)。

ここではアメリカ在住の896名のフルタイムワーカーを対象とし、先と同様の調査を行いました。

その結果、勤務時間外に仕事上のメールに応対することが多かった人ほど、慢性的なストレスレベルが高く、うつ症状や緊張性頭痛、不眠症、疲労感、集中力や判断力の低下が起きやすくなっていることが示されたのです。

以上の研究は、プライベートの時間に仕事の対応をすることがいかに健康への害悪となりやすいかを明らかにしています。

また勤務時間外の仕事対応で心身が疲労することは、その本人の生活の質を下げるだけではなく、会社全体の生産性の低下にもつながることを指し示すものです。

現代のテクノロジー社会では、プライベート時間に仕事の連絡を受ける機会が間違いなく増えています。

従業員の健康と会社の利益を守るためにも、私生活と仕事の境界線を明確に分けることは重要なようです。

気軽にいつでも連絡を取れるような時代になったからこそ、会社は「退勤した社員に仕事のメールをしない」などのルール作りをきちんと行っていくことが大切になるでしょう。

参考文献

Responding to work emails after hours contributes to burnout, hostility
https://theconversation.com/responding-to-work-emails-after-hours-contributes-to-burnout-hostility-229461

Study calls time on stressful out-of-hours intrusions
https://www.rmit.edu.au/news/all-news/2023/mar/out-of-hours

元論文

When work and life boundaries are blurred: the effect of after-hours work communication through communication technology on employee outcomes
https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/JCOM-06-2022-0073/full/html

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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