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【インタビュー】なぜ南葛SCは名将風間八宏監督を招へいできたのか。岩本義弘GMが経緯を明かす

  • 2024.10.10
【インタビュー】なぜ南葛SCは名将風間八宏監督を招へいできたのか。岩本義弘GMが経緯を明かす
【インタビュー】なぜ南葛SCは名将風間八宏監督を招へいできたのか。岩本義弘GMが経緯を明かす

Text by 高橋アオ

地域リーグからJリーグへ―。この理想を掲げてクラブ運営をするチームは日本中に数多くある。その中でも衆目を引く成長を遂げながら下部カテゴリーから駆け上がる社会人チームが存在する。

東京都葛飾区を拠点とする関東サッカーリーグ1部南葛SCは、世界的なサッカー漫画『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一先生がオーナー兼代表取締役社長を務め、「ボールはともだち」をモットーにJリーグ入りを目指している。

2018年にスポーツジャーナリスト、出版業経営者からサッカークラブ運営のゼネラルマネージャーとなった岩本義弘代表取締役専務兼GM(以後岩本GM)にインタビューを実施。

連載インタビュー第2回は日本が誇る名将・風間八宏監督招へいの経緯を明かした。

(取材・撮影・構成 高橋アオ)

取材日2024年5月25日

風間監督招へいの経緯

昨年11月7日に南葛SCは、2024年シーズンから風間監督がトップチームの指揮官、クラブ全体のテクニカルダイレクターに就任すると発表した。風間監督は日本屈指の指導者であり、過去に桐蔭横浜大、筑波大を率いて数多くのプロ選手を輩出し、プロクラブでは川崎フロンターレ、名古屋グランパスを指揮した。特に川崎ではパスサッカーの土台作りに着手し、後にJ1を4度制覇した川崎黄金期の基盤を作った。

【インタビュー】なぜ南葛SCは名将風間八宏監督を招へいできたのか。岩本義弘GMが経緯を明かす
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日本でも屈指の指導者と称される風間監督をなぜ南葛SCが招へいできたのか。経緯を岩本GMに尋ねた。

――風間監督との契約の経緯を教えてください。

2023年、関東リーグ1部からJFL(日本フットボールリーグ)への昇格が難しくなった7月の終わりから8月の頭にかけて、高橋先生と翌年以降の体制について話し合いました。

クラブとして目指すサッカースタイルについては、「ボールはともだち」というコンセプトが変わることはありません。ただ現実問題として、高橋先生にはこう伝えました。「ボールを大事にするサッカーをピッチで体現できているクラブは、日本全国を見渡しても決して多くありません。だからといって、スペイン人監督を連れてくれば必ずうまくいくというわけでもないと思っています」 以前から高橋先生は、バルセロナのスタイルやスペインサッカーに強い関心を持っています。とはいえ、今述べたようにスペイン人監督をこの地域リーグにアジャストさせること、さらには言語や費用の問題をクリアすることはとても難しい。 では日本人の指導者の中で、「ボールはともだち」を実現させられるのは誰なのか。風間さんがその最高峰であることは言うまでもないでしょう。幸いにも僕は風間さんと20年来の付き合いがありましたので、高橋先生の許可を得た上で、風間さんに南葛SCの監督就任に関するオファーをすることにしました。

正式オファーを出すまでの2時間の会話

『キャプテン翼』の主人公・大空翼の名言「ボールはともだち」をモットーとする南葛SCにとって、パスをつないで創造性豊かなサッカーを見せてきた風間監督は打ってつけな存在だ。ただ関東リーグ1部のチームに、日本屈指といわれる名指揮官が監督として就任するのか―。困難なミッションに思えたが、岩本GMは好機を見逃さなかった。

――風間監督との交渉は大変でしたか。

最初に一報を入れたのは昨年の8月頭でした。風間さんも忙しくて、改めて8月の最終週に連絡することになりました。その後、9月頭に静岡でお会いして、2人でじっくりと話をさせてもらったんです。

最初の2時間くらいは、風間さんの最近の活動や考え方を聞かせてもらいました。そこで個人的に思ったのが、風間さんはこれまでの経験から、例えばバルセロナのようにアカデミーとトップチームが同じスタイルを追求する組織作りに興味があるのではないかということでした。

【インタビュー】なぜ南葛SCは名将風間八宏監督を招へいできたのか。岩本義弘GMが経緯を明かす
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――確かにアカデミーとトップチームが同じコンセプト、メソッドでやっているチームは少ないですよね。

また風間さんのもとには、海外からたくさんのオファーが届いているそうです。「アカデミーを見てほしい」「メソッドを教えてほしい」と、指導者のノウハウを求める声が数多く来ており、中には興味深い話もあるそうです。僕としてはこのあたりのことも踏まえた上で、正式なオファーを出しました。

キャプテン翼はずるい

風間監督へのオファーを決断した岩本GM。新たな挑戦を求める指揮官に提示したオファーは、南葛SCにしか提案できないオファーだった。風間監督がオファーを受けた際に発した言葉とは。

――どのような口説き文句を風間さんに話されましたか。

まず伝えたのが、南葛SCの男子トップチームの監督と、クラブ全体のテクニカルダイレクターを務めてほしいということです。男子トップチームだけでなく、女子チームの南葛SCウイングス、さらにはアカデミーにも風間さんのメソッドを浸透させてほしいと。加えて、海外からも注目を浴びているメソッドを、例えば「キャプテン翼メソッド」のような形で、『キャプテン翼』と絡めて世界に発信していくという提案です。

風間さんは今、自身が積み重ねてきたものを言語化・映像化することに注力しています。そのメソッドを海外や後世に伝える意味も含め、「『キャプテン翼』を使って世界中に発信していきませんか?」とオファーをしたんです。

【インタビュー】なぜ南葛SCは名将風間八宏監督を招へいできたのか。岩本義弘GMが経緯を明かす
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――風間さんの反応はいかがでしたか。

個人的には、瞬時に断られる可能性もあると思っていましたが、風間さんはすぐには断りませんでした。オファーしたあとの第一声というか、その席で特に印象的だったのが、「『キャプテン翼』はずるいよな」と笑顔で話していたことでした。その表情や口調からは、「ワクワクしてくれている」という雰囲気も伝わってきました。

――「『キャプテン翼』はずるい」は面白いですね。その後の流れはスムーズでしたか。

僕としてはある程度の手応えを感じることができたので、そのあとすぐに東京で会うことにしました。高橋先生と僕、そして風間さんと所属事務所の社長の4人で会食をしたんです。南葛SCのオーナー兼社長として、高橋先生からも改めてオファーをしてもらいました。

高橋先生からオファーしてもらったあと、もう一度風間さんと会いました。そこで「南葛さんにお世話になります」と言われた時は、オファーを出しておきながら、僕自身が「本当ですか?」と聞き返してしまうくらい驚きました。あとから聞いた話では、風間さんは最初に僕と2人で会った時から、オファーを前向きに考えてくれていたようです。ご家族は自宅でその気配をすぐに察知したそうですが、僕はそんなことも知らずに大きなリアクションを取っていたわけです(笑)。

あれから数カ月が経ち、今では風間さんが南葛SCを指揮している姿を誰もが当たり前のように受け入れています。でも、あの風間さんが南葛SCという地域リーグのクラブの監督をやっているんですよ。もし数年前のエイプリルフールにそういうポストをしたら、「それは全然現実味がない!」とみんなに一蹴されてしまうでしょう(笑)。

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――優秀な監督ですから、契約するのに資金的に難しい面はありましたか。

我々が出せるMAXは出していますが、それでも風間さんの市場価値からすると『10分の1よりかは払っている』という感じです。裏を返せば『10分の2は払っていない』ということです。

事前にパートナー企業にも協力の相談をさせてもらい、南葛SCとして出せるMAXの額を出しています。ただそれでも、風間さんの市場価値からすると、「10分の1より少し上」というくらいの金額です。本当に引き受けてくれてよかったと、感謝の気持ちでいっぱいです。

「ボールはともだち」を具現化する名将

オファーを快諾した風間監督はチームに独自のメソッドを注入し、チームはより「ボールはともだち」を体現するように魅力的なサッカーを展開し始めた。取材時はリーグが開幕して間もなかったが、岩本GMは確かな手応えを得ていた。

――風間さんへの期待や、どのようなサッカーを見せて地域リーグを盛り上げてほしいと考えていますか。

地域リーグを盛り上げるというか、南葛SCらしいサッカーで見ている人たちを盛り上げてほしい。一番のキーワードは、やはり「ボールはともだち」です。『キャプテン翼』にとって最も重要なこの言葉を具現化し、相手を圧倒できるようなサッカーを見せてほしいと思っています。

――実際に風間監督が就任して、岩本GMの視点で変化はありましたか。

どこを見ても変化があります。風間さんは「まだまだ」と言っていますが、関東リーグ1部開幕までの約3カ月で、よくここまで変化したなと。リーグ戦第2節では、過去2年間で4戦4敗だった東京ユナイテッドFCと対戦しました。相性がよくない相手に対し、圧倒的な内容で勝利を手にすることができた。1試合ごとに一喜一憂するつもりはありませんが、変化が明確に感じられるうれしい一戦でした。

【インタビュー】なぜ南葛SCは名将風間八宏監督を招へいできたのか。岩本義弘GMが経緯を明かす
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南葛SCの練習場を訪れた際、選手たちはどこか楽し気にボールを追いかける様子が印象的だった。止める、蹴るの基本技術を大事にしながら、ボールを動かしながら相手をはがしてゴールへと運ぶ。この一連のプレー動作は早く、正確に実戦を想定しながら取り組んでいる。風間メソッドを吸収しようと練習に励む選手たちの充実した表情が伺えた。

元日本代表MF今野泰幸は「上手くなるというよりは意識付けですよね。普段の練習から要求するところが高い。ターンするとか、最短でしっかり前を向いて前に当てていくとか。そういうことを常々言われるので、意識が変わるから、頭が変わる。やろうとしているサッカーの質が高くなってくるから、そういう意味でレベルアップしているのかなと思います」と、風間メソッドの本質は意識面、判断面での向上と捉えていた。

風間監督が指導した選手たちは口を揃えて「サッカーが上手くなる」という返答が多い。だが基本技術はメソッドの前提であり、指導の神髄は意識面の変化を促し、意識付けることで創造性の高いサッカーをピッチ上で実現している。

風間監督は「(南葛SCのサッカーに)『完成はない』。サッカーはずっと完成がない。また当然ながら上手くなって、強くなれば自然と勝ちはついてくる。いろんな意味で目指すものはそこ(勝利)だけではない。とにかく選手の質を上げること。それからみんな定義を理解しているし、どうするかは分かっている。その基準をどこまで上げるか。そこは挑戦ですね」と、「ボールはともだち」というチームテーマを追い求めている。

チームは全国社会人サッカー選手権大会関東予選で東京都リーグ1部SHIBUYA CITY FCに1-3と敗退し、リーグ戦はVONDS市原が2連覇を果たしたため、惜しくも今季はJFL昇格を逃してしまった。それでも創造性あふれるサッカーを見せて多くのファンを魅了して歓喜を届けられた。「ボールはともだち」を具現化するサッカーの完成度が高まる来季にJFL昇格を期待したい。

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