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絶望した父が娘と一緒に海に…不穏すぎる次回予告にショッキングな展開が続く 木曜ドラマ『わたしの宝物』

  • 2024.11.19
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(C)SANKEI

木曜劇場(フジテレビ系木曜夜10時〜)で放送されている『わたしの宝物』は、不倫相手の子を夫に内緒で育てようとする托卵妻の物語だ。
こう書くと、扇情的なあざといドラマに思われるかも知れないが、ドラマ内で起こっていることは誰の身に起こってもおかしくない出来事で、だからこそ、とても血の通った等身大の話に感じる。
主人公の専業主婦・神崎美羽(松本若菜)は、外面は良いが家庭内では乱暴な言葉をぶつけてくるモラハラ夫の宏樹(田中圭)との冷め切った夫婦関係に疲弊しており、子供が欲しいという言葉にも耳を貸してもらえず、辛い日々を過ごしていた。 そんなある日、中学時代の幼なじみである冬月陵(深澤辰哉)と再会。フェアトレード会社を経営する陵の仕事を手伝う中で美羽は安らぎを感じ、心が惹かれていくが、それでも家庭を第一に考え、適切な距離をとっていた。
しかしある夜、宏樹に強引に抱かれたことで心に傷を負った美羽は、陵に助けを求め、一夜限りの関係を持ってしまう。 その後、陵は仕事で海外に旅立ち美羽もあの夜のことは忘れようと思っていたが、子供を宿し、DNA鑑定をしたところ宏樹ではなく陵の子供だと判明する。 そして同じ頃、陵は海外で事件に巻き込まれて行方不明に。覚悟を決めた美羽は、陵のことは隠して宏樹の子として托卵しようと決意する。

田中圭が演じるモラハラ夫が良いお父さんに変わるからこそ、見ていて苦しくなる

第1話では美羽が夫からモラハラを受けており、とても苦しい日々を過ごしていることが「これでもか」と描かれる。そんな辛い日々から一瞬でもいいから抜け出したいという思いから一夜の関係を持つため「仕方ないよなぁ」と美羽の気持ちを理解してしまう。
同時に一夜の関係を持った初恋の人が、命を落としたかもしれないという状況になるため、亡くなった陵のためにも残された子を、たとえ一人でも育てたいと思う美羽の決意が描かれるため、成り行きで托卵を選んでしまったことも「仕方ないよなぁ」と思ってしまう。 不倫や托卵といったおこないを選んだ美羽に対して、視聴者が「許せない」と怒るのではなく「仕方なかった」と思えるように、本作は腐心している。それが何より表れているのがモラハラを繰り返す最低の夫・宏樹の描き方だった。
だが、話が進むに連れて宏樹の振る舞いはどんどん優しくなり、美羽と娘の栞のために頑張る良き父親へと変わっていく。
元々、宏樹が美羽に辛く当たっていたのは職場のストレスで精神的余裕がなくなっていたからで、宏樹もまた苦しんでいたということが次第に明らかになっていく。
そして、初めは子育てにも無関心だったが、栞が生まれると積極的に育児に関わる良いお父さんに変わっていくのだ。
そのこと自体はとても幸せなことである。だが、宏樹が良いお父さんになればなるほど、托卵という行為を選んだことに対する美羽の罪悪感が時限爆弾のように膨らんでいき、いつバレるのか? という不安が大きくなる。
何より視聴者の側も宏樹の苦しみと、そこから脱却して成長していく姿を見て、むしろ応援したい気持ちになっていく。だからこそ、托卵の真相を知った時に彼が傷ついてしまうのではないか? と心配になってしまう。

『あなたがしてくれなくても』チームが新たに描く托卵&不倫ドラマ

田中圭の好演もあり、最低のモラハラ夫と思って視聴者が憎んでいた男が、いつの間にかもっとも愛すべき存在に変わってる。それこそが『わたしの宝物』が仕掛けた最大のマジックで、扇情的な題材を扱いながらも、優しくて哀しい珠玉の人間ドラマに仕上がっているというのが本作の印象だ。
本作のプロデューサーは三竿玲子。彼女は昨年、同じ木曜劇場で『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、以下『あなして』)という連続ドラマをプロデュースし、大きな話題を呼んだ。

ハルノ晴の同名漫画(双葉社)をドラマ化した本作は夫とのセックスレスに悩む妻・吉野みち(奈緒)が同じように妻とのセックスレスに悩んでいる会社の上司・新名誠(岩田剛典)と悩みを相談し合っている中で次第に不倫関係になっていく姿を描いた物語だ。
本作でもみちの夫・吉野陽一(永山瑛太)が、妻の悩みに対して無理解な最低の夫として描かれるのだが、永山瑛太の色気のある芝居の力もあってか、ダメだが憎めない男に見えてくるため、最初は最低男と思っていても、次第に感情移入してしまう。
それは新名誠の妻・楓(田中みな実)にしても同様で、彼女の仕事が多忙ゆえに夫との関係がうまく行かずセックスレスになったことが丁寧に描写されているゆえに、いつの間にか登場人物の誰かを安易に悪者にできなくなり、気まずい気持ちのまま、登場人物の行方を見守ってしまう。

『わたしの宝物』はオリジナル作品でプロデューサーの三竿の他にも『あなして』に参加した脚本の市川貴幸、株式会社FILMに所属する三橋利行がチーフ演出として続投しており、『あなして』で成功した要素が、より洗練された型で持ち込まれている。 田中圭が演じるモラハラ夫が、いつの間にか改心し、それゆえに視聴者がハラハラしてしまうという予想外の物はその最たるものだが、第5話では美羽が帰国した陵と抱き合っている姿を目撃した美羽の親友でシングルマザーの子森真琴(恒松祐里)から美羽が不倫していると聞かされた宏樹が、子供のDNA検査をして自分の遺伝子と一致しないことを知ってしまう場面が一気に描かれた。

そして、絶望した宏樹が、夜中に娘を連れて車で海に到着した場面で次週に続くとなり、予告編では波の音が聴こえる中、宏樹が娘といっしょに海の中に入っていくという自殺を連想させる映像が流れた。

『あなして』でも、視聴者から「地獄のランチ」と呼ばれた、不倫した妻・なおと不倫された妻・楓が喫茶店で対面する場面を自然音のみで描いた第8話の予告映像が、大きな反響を呼んだが、『わたしの宝物』の予告は「あの宏樹がそんな行動に出るなんて」という意外性もあってか、よりショッキングなものになっていると感じた。

不倫&托卵というキャッチーで下世話な題材を扱っている本作だが、作品から受ける印象はとても上品で、奥行きのある複雑な人間の姿がしっかりと描かれている。だからこそ見ていて胸が苦しくなるのだろう。


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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