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飛び交う考察…“謎の老婦人”が鍵を握る『海に眠るダイヤモンド』大人気作『逃げ恥』『ラストマイル』に続くか

  • 2024.11.12
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日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第2話より (C)TBS

日曜劇場(TBS系日曜夜9時〜)で放送されている『海に眠るダイヤモンド』(以下、『海に眠る〜』)は、二つの時代を行き来する壮大なスケールの連続ドラマだ。
物語は2018年の東京から始まり、1955年の長崎県の端島(通称・軍艦島)へと遡っていく。

主演の神木隆之介は一人二役で、現代パート(2018年)ではその日暮らしのホスト・玲央を演じ、過去パート(1955年)では端島を牛耳る鷹羽鉱業の職員として働く鉄平を演じている。
二つの時代を繋ぐのは謎の老婦人・いづみ(宮本信子)。ホストクラブの客として玲央と知り合ったいづみは、今では廃墟となった端島に玲央を連れて行く。
どうやら彼女は端島出身で、過去に鉄平に対して好意を抱いていたらしく、鉄平と瓜二つの玲央に興味を持っている。 いづみの正体は謎に包まれており、過去パートに登場する謎の歌手・草笛リナ(池田エライザ)、鉄平の幼馴染で鷹場鉱業職員の娘・百合子(土屋太鳳)、銀座食堂の看板娘・朝子(杉咲花)の誰かではないか? という考察が現在盛り上がっている。
だが一方で、物語の全貌はいまだ明らかとなっておらず、玲央が働くホストクラブといづみの家族が運営するIKEGAYA株式会社を中心とした現代パートと、1955年の端島で暮らす炭鉱員たちの物語がどのように結びつくのかは、第2話終了時点においては、まだ見えてこない。

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日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第2話より (C)TBS

本作は、石炭の採掘を中心に独自の発展を遂げた端島の日常を描くことに尽力しており、高層建築物の多い人工の島としての端島の特異なビジュアルとそこで暮らす人々が生み出す独自の世界観が全面に打ち出ている。
他のドラマと比べて、物語はスローペースで各キャラクターの目的もまだはっきりしていない。しかし、それでも映像に引き込まれるのは、この作品は絶対に面白くなるという作り手に対する強い信頼があるからだろう。

スケールの大きなドラマを作り続けてきた日曜劇場

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日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第1話より (C)TBS

本作の脚本は野木亜紀子、チーフ演出は塚原あゆ子、プロデューサーは新井順子が担当している。 3人は2018年に『アンナチュラル』(TBS系)、2020年に『MIU404』(同)という傑作テレビドラマを手がけ、ドラマファンから絶大な支持を獲得した。
また、この二作と同じ世界観を共有する現在劇場公開中の映画『ラストマイル』の興行収入は50億円を超えるヒット作となっている。
そんな3人が手がけた連続ドラマが『海に眠る〜』なのだが、日曜劇場での放送ということもあってか、金曜ドラマ(TBS系金曜夜10時〜)で放送された過去の2作とは違い、とても構えの大きな作品となっている。
『アンナチュラル』と『MIU404』は一話完結のクライムサスペンスで、法医解剖医や刑事を主人公にした事件モノという日本のドラマでは馴染み深いポピュラーなフォーマットに徹することで、敷居の高い社会問題を扱いながら万人が楽しめるエンタメ作品に落とし込むことに成功していた。 対して『海に眠る〜』は、二つの時代を行き来しながら作品の全体像がゆっくりと見えてくるという壮大な物語となっている。
テレビドラマのジャンルで言うと、NHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)に近い作りであり、神木隆之介、杉咲花、土屋太鳳という朝ドラで主演を務めた俳優が3人が出演し、宮本信子、美保純、尾美としのりといった2013年の朝ドラ『あまちゃん』に出演した俳優が現代パートで家族として出演していることから見ても、日曜劇場で朝ドラに匹敵する壮大な物語に挑戦しようという作り手の意思が感じられる。

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日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第1話より (C)TBS

労働の問題を描き続けてきた脚本家・野木亜紀子

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日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第1話より (C)TBS

脚本家・野木亜紀子の名が広く知られるようになったのは、2016年のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)からだ。
海野つなみの同名漫画(講談社)をドラマ化した本作は、お互いの利益のために偽りの夫婦を演じる男女が主人公のコメディテイストのラブストーリーだが、本作の最大の魅力は、夫婦の関係を雇用主と従業員に例え、話し合いを重ねることで理想の契約関係を構築していくところにあった。
『逃げ恥』を筆頭に野木のドラマは、労働をテーマにしたものが多く、低賃金で理不尽な働き方を強いられている労働者が雇用主と議論を交わす中で、少しでもマシな労働環境を手に入れる様子をエンタメの枠組みで繰り返し描いてきた。 『海に眠る〜』でも、地下で石炭を採掘する炭鉱夫たちが過酷な労働環境に従事していることが過去パートで描かれたのだが、現代パートでも一見華やかで優雅な仕事に見えるホストがいかに過酷で理不尽な労働に従事しているかが描かれた。
『ラストマイル』では、大手ショッピングサイトの巨大物流倉庫で働く労働者や運送会社で働くトラック運転手の労働環境を改善しようとする姿が描かれたのだが、おそらく『海に眠る』もまた、理不尽な労働環境を是正するために労働者が蜂起する姿が現在と過去で描かれるでのではないかと思う。 現在と過去を行き来する壮大なスケールの『海に眠る〜』が、労働環境の改善というもっとも現代的であるがゆえに取り扱いが難しいテーマを、どのような型血掘り下げていくのかに注目である。

TBS系 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』 毎週日曜よる9時


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。