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ドラマ版には原作ファンから苦言も…?賛否両論ありつつもNetflixランクインの“名作”を振り返る

  • 2024.11.11

主人公・久能整の畳み掛けるような、圧倒的なセリフの量に気圧された記憶が、まだ新鮮に残っている。田村由美による漫画『ミステリと言う勿れ』が俳優・菅田将暉を主演に迎えドラマになったのは2022年、劇場版の公開は2023年。原作改編に賛否両論ありつつ、2024年11月現在もNetflixランキング10位以内に位置している、その人気の理由とは。

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(C)SANKEI

情報量&セリフ量の多い作品だが……

とにかく、喋る、喋る、喋る。菅田将暉演じる主人公・久能整は絵画鑑賞が趣味で、教育学部に在籍する大学生だ。ミステリー漫画の主人公(作者自身は否定しているジャンル設定で、タイトルにもその意図が反映されているものの)らしく、彼はさまざまな事件における探偵役を担っている。

原作の一話を読んだ人間は、もれなく全員驚いたことだろう。漫画という特性上、紙面には絵とセリフが同時に描かれることになるが、そのセリフの量が半端ではない。整は日頃から物事について思考を重ねる癖があり、何かの拍子に持論を展開しだすと、もう止まらないのだ。

果たして、この怒涛の情報量&セリフ量を、映像化したときに適切にまとめられるのか。誰もが懸念するところ、もちろん制作陣も当初から配慮していた点だった。そのハードルを超えるきっかけとなったのは、言わずもがな、整役に菅田将暉がキャスティングされたことが大きい。

字幕なしでもセリフが聞き取りやすいよう、発音も発声も良い俳優でなければならない。キャリアや知名度ともに申し分ない菅田は、くわえてクランクイン前に原作者との打ち合わせを希望し、作品のキーポイントとして登場するマルクス・アウレリウスの『自省録』も読み込んだという。

もともとが浮世離れしたキャラクターである以上、原作のイメージそのままに整を演じてしまうと、菅田の言葉いわく「教祖っぽくなってしまう」。視聴者に受け入れられやすい塩梅に人間味が感じられるようチューニングしたことで、ドラマ・劇場版ともに、親しみやすさも感じられる整の人間像が見事に浮かび上がった。

主人公は、作品の顔である。神や教祖のように崇め奉られ、憧れられるよりも、まず感情移入できる存在でなければならない。菅田はこれまでの経験から、その真理を感じ取っていたのだろう。結果、原作者も、整が生きたキャラクターになったと絶賛している。

劇場版+ドラマで『ミスなか』世界観を確立

2023年に公開された劇場版では、原作でも人気の高い通称・広島編を描いている。単体で観てもよし、ドラマ版と合わせるとより『ミスなか』の世界観が立ち上ってくる仕組み。

原作ではシームレスに描かれている他エピソードも合わせ、ドラマ版では広島編を飛ばし、かつ原作未完のうえでも違和感のないラストを導かねばならなかった。各部の調整は、容易に想像できないほど難航しただろう。正直なところ、原作のイメージと乖離しているキャラクターの存在や設定の改変など、ドラマ版には苦言を呈する声も多い。

しかし、ドラマや劇場版の公開から少しの日が経っても、ふと「またミスなか観よう」と思うファンが多いことは、Netflixのランキングが証明している。

それはひとえに、原作者が整を通して表出させようとした物の捉え方や、物事を理解するまでの過程(あるいは「物事はそう簡単に理解できないこと」を理解するまでの過程)について、丁寧に向き合い、ひとつの作品として結実させようとする誠実さがあったからではないだろうか。

整が教育学部に在籍しているからか、彼自身がつらい環境で育ってきた過去があるからか、子どもの生育環境や教育そのものに触れるセリフも多い本作。とくに「子どもって乾く前のセメントみたいなんです」という言葉に、思うところのある視聴者も多いだろう。

子どもの心はもちろん、大人の心だって、他者の心ない言動に跡をつけられる柔らかさがあると信じたい。それはときに、弱さや甘えと変換されるかもしれないが、自分だけではなく他者の心の脆さを受け止め、賛否両論ある作品や制作過程の裏側まで想像できる精神性を保ちたいものだ。

人には、心がある。インターネットやAIが発達し続ける社会でも、人から心は消えない。なんのために対話があるのか、この作品が、整が発し続けているメッセージを、あらためて味わうタイミングが来ているのかもしれない。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_