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2025年メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュート特別展の詳細が発表。来春のテーマは「ブラック・ダンディズム」

  • 2024.10.10
Unknown (American). [Studio Portrait], 1940s–50s. Gelatin silver print. The Metropolitan Museum of Art, New York, Twentieth-Century Photography Fund, 2015 (2015.330)
Unknown (American). [Studio Portrait], 1940s–50s. Gelatin silver print. The Metropolitan Museum of Art, New York, Twentieth-Century Photography Fund, 2015 (2015.330)

2019年、「キャンプ:ファッションについてのノート(Camp: Notes on Fashion)」をテーマに掲げたメットガラMET GALA)で、ザ・ブロンズ(THE BLONDS)が手がけた古代エジプトのファラオのようなアンサンブルに身を包んだビリー・ポーター。2021年「In America: A Lexicon of Fashion(イン・アメリカ:ファッションの辞書)」と題した回で、シルクのタキシードの上からパッチワークキルトを羽織ったエイサップ・ロッキー昨年のメットガラ5万個のクリスタルが輝くセットアップを着用したリル・ナズ・X。彼らが纏うこの現代の「ブラック・ダンディズム」スタイルは、このように何年もの間、メットガラのレッドカーペットを彩ってきた。

そして本日、メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートは2025年春に開催する特別展覧会のテーマを発表。題して「Superfine: Tailoring Black Style(華麗なるブラック・スタイル)」。ブラック・ダンディズムを題材に、大西洋地域のアフリカ系ディアスポラのアイデンティティ形成における衣服とスタイルの重要性を考察する。

コスチューム・インスティテュートとしては、2003年の「Bravehearts: Men in Skirts」以来となるメンズウェアに特化した展覧会であり、アンドリュー・ボルトンがキュレーター・インチャージに就任して以来、初めてゲスト・キュレーターを招いた展覧会でもある。

ゲスト・キュレーターを務めるのは、コロンビア大学バーナード・カレッジ アフリカーナ研究教授のモニカ・ミラー。彼女は今回、ブラック・ダンディズムを美的・政治的概念として確立する自著『Slaves to Fashion: Black Dandyism and the Styling of Black Diasporic Identity(原題)』(2009年)をインスピレーションに、18世紀の芸術作品から近代のランウェイ映画、初期の描写から現代の表現まで、あらゆる時代のブラック・ダンディズム像を展覧会で取り上げる。

目指すのは展示の多様化と歴史的偏見の是正

Livery, American, Courtesy Maryland Center for History and Culture, gift of Miss Constance Petre, 1946.3.3a-c. Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0078a–cLivery, American, Courtesy Maryland Center for History and Culture, gift of Miss Constance Petre, 1946.3.3a-c. Photo © The Metropolitan Museum of Art

「ダンディズム」とは、身だしなみへの強いこだわり、おしゃれや伊達に徹する態度を意味する言葉だ。また、「身なりがよく、賢く服を着こなすこと」という別の定義もあるとミラーは今朝の発表に先立だって述べた。

「(ブラック・ダンディズムとは)アイデンティティを再考し、異なる文脈の中で自己を再構築するための戦略であり、ツールです。本当の意味で境界線を押し広げること。特に奴隷制時代においては、誰が、そして何が人間として見なされるのか、その線引きにも挑むことを指していました」

今回の展覧会で紹介されるブラック・ダンディズムの歴史は、「黒人が『奴隷』、そしてほかの富や地位の象徴と同じように『手に入れられる贅沢品』から、いかにして世界のトレンドを左右し、自分のアイデンティティを自分の手で形成する自立した一人の人間へと変貌を遂げたかを描きます」とミラーは言う。レッドカーペットのような華やかな舞台でも、メトロポリタン美術館のような学術的な機関にもこれまでさほど取り上げられてこなかったと彼女が主張するブラック・ダンディズムに、光を当てる展覧会となる。

ブラック・ライブズ・マター運動をきっかけに、コスチューム・インスティテュートはアメリカのファッションが今までさまざまな現実を軽視して語られてきたことを認識し始めた。2020年以降、同機関はBIPOC(黒人、先住民、有色人種)デザイナーによる作品をおよそ150点収蔵コレクションに加えた。その一部は来春の特別展で公開される。

「この展覧会自体が、私たちの展示やコレクションの多様化への取り組みにおいて、また、私たちのキュレーションの進め方における歴史的偏見の一部を是正するという意味で、本当に重要な一歩を示すものだと感じています」とボルトンは言う。「メットにおけるファッションを、あらゆる機会とインクルーシビティへの入り口にするのが大きな目標です」

2021年の特別展「In America: A Lexicon of Fashion」へ向けてリサーチを行っている際にミラーの研究に出会ったボルトン。「ブラック・ダンディズムの何が興味深いかというと、単なるアイデンティティではないというところです」と彼は語る。「(今回スペシャル・コンサルタントを務める)写真家兼アーティストのイケ・ウデのように、自分を『ダンディ』と認識する人たちはもちろんいますが、同時に(もっと大きな)コンセプトでもあるのです」と述べた。「自由、不協和、ドラマ性など、現在は多くの黒人デザイナーがブラック・ダンディズムが象徴するさまざまな流儀を探求していると思います」

12の特徴で物語る「ブラック・ダンディズム」の変遷

Zoot suit, American, 1940s; Alfred Z. Solomon-Janet A. Sloane Endowment Fund, 2024 (2024.2a, b). Photo © The Metropolitan Museum of Art
2024.2a–cZoot suit, American, 1940s; Alfred Z. Solomon-Janet A. Sloane Endowment Fund, 2024 (2024.2a, b). Photo © The Metropolitan Museum of Art
Suit, American, 1939; Courtesy Benny Reese, Reese's Vintage Pieces. Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0235a–cSuit, American, 1939; Courtesy Benny Reese, Reese's Vintage Pieces. Photo © The Metropolitan Museum of Art
Ensemble, Virgil Abloh (American, 1980–2021) for Louis Vuitton (French, founded 1854), fall/winter 2021 menswear; Courtesy Collection Louis Vuitton. Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0229a–hEnsemble, Virgil Abloh (American, 1980–2021) for Louis Vuitton (French, founded 1854), fall/winter 2021 menswear; Courtesy Collection Louis Vuitton. Photo © The Metropolitan Museum of Art
Ensemble, Pharrell Williams (American, born 1973) for Louis Vuitton (French, founded 1854), spring/summer 2025 menswear; Courtesy<br /> Collection Louis Vuitton.<br /> Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0230a–jEnsemble, Pharrell Williams (American, born 1973) for Louis Vuitton (French, founded 1854), spring/summer 2025 menswear; Courtesy Collection Louis Vuitton. Photo © The Metropolitan Museum of Art
“Maya Angelou Passport” ensemble, Foday Dumbuya (Sierra Leonean) for Labrum London (British, founded 2014), fall/winter 2023; Courtesy Labrum London. Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0235a–c“Maya Angelou Passport” ensemble, Foday Dumbuya (Sierra Leonean) for Labrum London (British, founded 2014), fall/winter 2023; Courtesy Labrum London. Photo © The Metropolitan Museum of Art

展覧会は1934年にゾラ・ニール・ハーストンが発表したエッセイ『The Characteristics of Negro Expression(原題)』に基づく「ブラック・ダンディズムの12の特徴」で構成され、各セクションで衣服やアクセサリーだけでなく、絵画、写真、映画の抜粋など、あらゆるメディアを通してブラック・ダンディズムの変遷を物語る。

「Ownership」と題された最初のセクションでは、19世紀にメリーランド州で奴隷にされていた人の仕着せを展示。ハーストンのエッセイにも登場した音楽ダンス、快楽に関するカテゴリー「Jook」では1940年代のズートスーツなどが並べられ、「Cosmopolitanism」ではファレル・ウィリアムスや故ヴァージル・アブローが手がけたルイ・ヴィトンLOUIS VUITTON)のメンズウェアが見られる。

「登場する現代デザイナーの多くは、特別展で語られている歴史を自らのデザイン哲学の一部として活用しているという理由から選ばれました」とミラーは指摘する。また、何人かは西アフリカやカリブ海諸島にルーツを持つ。「ヴァージル・アブローグレース・ウェールズ・ボナーのショーノートは本当に興味深いです。彼らは今回取り上げている事柄を深く理解していて、人種や権力、移民、奴隷制度、植民地と植民地化、エンパワーメント、喜び、美学などにまつわる問題に精通しています」

今まさに復活を遂げているメンズウェア

“L’E Goldwill” bullion, Dynasty and Soull Ogun (American, born 1984) for L’Enchanteur<br /> (American, founded 2017), 2023; Courtesy<br /> L’Enchanteur.<br /> Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0242“L’E Goldwill” bullion, Dynasty and Soull Ogun (American, born 1984) for L’Enchanteur (American, founded 2017), 2023; Courtesy L’Enchanteur. Photo © The Metropolitan Museum of Art
“Name Spell Name Plate” necklace, Dynasty<br /> and Soull Ogun (American, born 1984) for<br /> L’Enchanteur (American, founded 2017),<br /> 2024; Courtesy L’Enchanteur.<br /> Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0240“Name Spell Name Plate” necklace, Dynasty and Soull Ogun (American, born 1984) for L’Enchanteur (American, founded 2017), 2024; Courtesy L’Enchanteur. Photo © The Metropolitan Museum of Art
“Kalinago Royal Coin #8” pendant, Dynasty<br /> and Soull Ogun (American, born 1984) for<br /> L’Enchanteur (American, founded 2017),<br /> 2023; Courtesy L’Enchanteur.<br /> Photo © The Metropolitan Museum of Art
DAN.0243“Kalinago Royal Coin #8” pendant, Dynasty and Soull Ogun (American, born 1984) for L’Enchanteur (American, founded 2017), 2023; Courtesy L’Enchanteur. Photo © The Metropolitan Museum of Art

メンズウェアは復興期の真っ只中にあるとボルトンは感じている。「それは、黒人デザイナーだけでなく、メットガラの共同ホストを務める男性たちのような、スマートな男性たちのおかげでもあります」。今年の共同ホストはファレル・ウィリアムス、俳優のコールマン・ドミンゴ、F1ドライバーのルイス・ハミルトン、ミュージシャンのエイサップ・ロッキー、そしてアナ・ウィンター。バスケットボールのスター選手、レブロン・ジェームズが名誉ホストを務める。

「全員、自己表現に関してはリスクを冒すことをいとわない人たちです。クラシックなものを生かしながら、全く新しい形に再解釈するのです」とボルトン。「黒人男性と黒人デザイナーは、今まさに起きているメンズウェアのリバイバルの最前線にいると思います」

例年通り、特別展には影響力あるコラボレーターが結集して取り組む。アメリカ人アーティストのトルクワセ・ダイソンがコンセプト・デザインを担当し、巨大なアフリカの頭像やマスクの彫刻で知られるタンダ・フランシスは展覧会のために特注のマネキンヘッドを制作。ニューヨークに拠点を置くフォトグラファーのタイラー・ミッチェルがカタログを撮影する。

「Superfine: Tailoring Black Style」はルイ・ヴィトンのほか、インスタグラム、ホブソン/ルーカス・ファミリー財団、プレシャス・モロイ・モツェペ博士とアフリカ・ファッション・インターナショナル、タイラー・ペリー、コンデナストが協賛。会期は2025年5月10日から10月26日まで。5月5日に開催されるコスチューム・インスティテュートの主な活動資金源であるメットガラ終了後に一般公開される。(日程はすべて現地時間)

Photos: Courtesy of the Metropolitan Museum of Art Text: Nicole Phelps Adaptation: Anzu Kawano

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