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東原亜希さん「子どもにはお金の増やし方より“稼ぐことの楽しさ”を伝えたい」

  • 2024.10.9

ママになって、そして起業してから「これっておかしい」と思うことが増えたという東原亜希さん。次世代、そして私たちが幸せに生きていくために、「おかしい!」と声にしていく不定期連載の対談。今回は、『きみのお金は誰のため』が20万部超えのベストセラー、「お金の向こう研究所」代表で社会的金融教育家、そして申真衣さんの元同僚でもあるタッチーこと、田内学さんをお招きしました。

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東原亜希さん(以下東原)田内さんの書籍は、たぶん皆が想像しているような「どうしたら儲かるか、増やせるか」といったお金の本とは違いますね。うちの子も、高学年くらいになったらぜひ読んでほしいなと思いました。
――(編集部、以下略)先日、とある高校の金融の授業で特定の銘柄を勧めているという現状を耳にし、資産運用の話にばかりスポットが当たりやすいことに田内さんは疑問を呈されていましたよね。
東原 子どもたちって、未来の塊でしかない。その子どもにまず投資を勧めるって、もう大人が夢を見られていないんだなと感じてしまって……。
田内学さん(以下田内) まさにそこなんです。子どもまで「賢く増やす」側の思考になってしまったら、社会は成長しません。
東原 頑張って余力で投資するのはいいけど、子どもたちの可能性を否定してしまうようで悲しい気持ちになります。
田内 投資とは、世の中に役立つものを作ろうとする人たちにお金を渡して、彼らに未来を託す行為です。可能性ある子どもたちには、そのお金を受け取って未来を作る側になってほしいですね。今、みんな投資したがっているから、投資してもらうチャンスなんですよね。

❝人の役に立つから経済が回る、という 当たり前のことを理解しないといけない 田内学さん❞

東原 ところで、そもそも、豊かになるってどういうことをいうんでしょうか。
田内 それ、大事なところですよね。昔は、お金が増えることなんだと漠然と思っていました。ところが、ゴールドマン・サックスに入って、お金の流れを見て気づいたのはお金の総量は増えていないということ。金利や配当でお金が増えるのも、誰か払う人がいるからです。詳しくは割愛しますが、増えているのはお金の総量ではなくお金の貸し借りです。昔より生活が豊かになったのは、お金が増えたからではなく、お金が流れることでいろんなものが作られたから。車で移動できたり、クリック一つで本が届いたり、大学で勉強できたり。ところが、最近ではお金が主役になっている。大学生でも「奨学金の返済もあるし、老後も不安だし、バイトしまくります」と。せっかく大学に行っているのにもったいないですよね。
東原 さっきの話ですね。学生にはお金ではなくて未来を作る側になってほしいという。どうしたらそういう社会のマインドを変えられるんでしょう。
田内 「自分の周りの5人の平均が自分自身だ」という言葉があります。しかし、環境はなかなか変えられない。でも例えば一冊の本でも、新しい生き方や価値観に出合い、人生を変えられることがある。SNSだと自分の興味のあることしか上がってこないので、出合いをくれる書店ってやっぱり大切なんだなと痛感します。

❝お金を払うほうがえらい、と 何となく思っちゃっているのもおかしい 東原亜希さん❞

東原 田内さんの本もそういうきっかけになると思います!ところでなぜ本を書こうと思われたんでしょうか?
田内 円安とか少子高齢化とか、いま日本には問題が山積みですよね。だけど、「お金さえ増やせば、安心して暮らせる」と信じている人が多い。警鐘を鳴らさないとまずいと思って、この本を書いたんです。今起きているインフレもそうですが、お金を受け取って働く人がいなくなっちゃうとお金の価値は下がってしまう。ところが、「働く人よりお金のほうがえらい」と勘違いしている。小説の中で主人公の家はとんかつ屋さんをやっていますが、僕の実家は蕎麦屋を営んでいました。お父さんお母さんが家でご飯を作ったら一応感謝されるのに、外食だと逆に作るほうが「お客様は神様だ」とお客さんに感謝する、お金を払うほうが「えらく」なる。
東原 よくわかります。海外だとスーパーの店員さんも座っておしゃべりしたり食べながら接客しているし、お客さんも店員さんも対等な印象ですよね。でも日本は…。
田内 対等じゃないですよね。
東原 私もものを作って売っているのですが、お客様とは対等でいたいと思っています。私たちも、いいものを提供するために努力しているし、もちろんミスがあったら謝る。けれど、買ったからなんでもクレームを言っていいというのは違うと思う。世の中を見ていると、お金をたくさん払う人がえらい、使うほうがえらいという刷り込みがあるのかなと。
田内 アメリカの例がすべていいわけではないのですが、日本と何が違うか考えた時、アメリカには例えば子どもがビジネスを学ぶ機会としてレモネードスタンドがよく例に挙げられます。「他人に役立つことをしたからお金をもらえる」、シンプルにお金は対価であることを知る機会はアメリカでは多いと感じます。知人同士だったら、困った時にお互い助け合うでしょう。でも知らない人同士でも、役立つことをしてあげればいい。その代わりに、お金をもらえる。でも日本だと、バイトを始めてお金を稼ぐとなると、時間を切り売りしてお金に変えるような感覚がありませんか。
東原 あるかもしれません。家でも、お手伝いをしたらお金を払う、という場合も多いですが…。
田内 知らない人にでも役に立つことをしていこうではなく、逆に家族にでも役立つことをしたらお金をよこせ、という発想や、与えられた仕事をやるだけでいい、という受動的な態度につながってしまうのでは勿体ない。「他人に役立つことをしたからお金をもらえる」「それが希少であればよりもらえる」ということを、子どもたちには教えたいです。
東原 例えば私は服や食品を作っているから、その対価としてお金をもらうのは子どもにもわかりやすいと思うのですが…会社員の家庭だと、教え方って難しいですね。
田内 もし会社員のパパやママが家に帰ってきて仕事の愚痴ばかり言っていたら「嫌なことを我慢しているからお金がもらえるんだ」と子どもは学ぶでしょう。すると、「お金を払っているんだから嫌なことは我慢しろ」というクレームの話につながるのかもしれません。

❝お金を抱え込むことよりどうしたら 人の役に立ち、投資したいと 思ってもらえるのか、を考えてほしい 田内学さん❞

東原 そうしてお金に対するネガティブなイメージの刷り込みが生まれてしまうのかな…。金融教育としては、子どもたちは今どんなことを学んでいるんでしょうか?
田内 高校では公共と家庭科の2教科で教えています。でも今は、先ほど話したように資産形成の話が注目されやすくて。
東原 子どもに資産運用の話ばかりしても…。
田内 多くの大人にも誤解があるのだと思います。いわゆる資産というと、目に見えやすい金融資産に目が行きがちです。でも自分の知識や経験も大事な資産ですし、自分を助けてくれるような人間関係は特に大切ですよね。
東原 その感覚を、金融業界のど真ん中にいた方が言ってくださると説得力があります。
田内 ゴールドマンの時は、自分の能力をいかにお金に変えるかをもちろん考えました。でも今、もし印税のためだけに稼ぎたいだけなら、こうやって編集者の方もメディアで取り上げたり、協力してくれたりしないと思うんですよ。
東原 やっぱりお子さんが生まれてから変わったんでしょうか。
田内 そうですね。自分は数学が得意で、その得意なことを生かしてうまく生きてこられた。でも自分がいなくなった後も子どもたちがちゃんと暮らしていくためには、教育によってその子の生きる能力を高めることも大事だけれど、生きている社会自体をよくしないといけないんじゃないか、と。
東原 防犯と一緒ですよね。自分の家だけが安全でも子どもを守れないのと一緒で、街が安全じゃないといけない。自分の家の子だけでなく、周りも幸せじゃないと誰も幸せになれない。
田内 本当にそう思います。自分だけの能力を高めるというと、「いい学校いい企業」となるけど、その努力をやるほど、競争だけが苛烈になる。それもある程度は必要ですが、社会が良くなるほうに視野を広げる努力をしたほうがいいと実感しています。
――なかなか「いい学校いい企業」の競争から抜け出すのは大変ですよね。
田内 特に人が多い都会はそうですね。「おいしいお寿司を食べられるのは漁師さんや魚市場で働いている人のおかげ」と社会科で習うのに、いざ進路指導になると「人よりもいい大学に」「安定した年収の高い企業に」と話が変わってきます。「社会で役立つ人間に」と言いながら、先生も親も、うまく説明できてないと思うんです。でもそれは僕なりに答えを見つけつつあって。僕らは一人では生きていけないんです。お金がない時代は、家族や地域の人など知っている人同士で助け合うしかなかった。ところが、お金の登場によって、知らない人にも協力してもらえるようになった。その構造がわかれば、一番大事なのは、どうやって協力者を増やすかなんです。あくまでその道具として、お金がある。誰とでも仲良くなる力が、最強なんです。
東原 なるほど!やるべきことが見える気がします。

❝子どもには「稼ぐことは人の役に立ち、楽しいこと」 「お金を借りられるのは信用されているということ、それって素晴らしいこと」 っていうのが伝わればいいなって 東原亜希さん❞

田内 お金を増やすことを目的に働いても、仲間は増えない。子どもたちに話すのは、「親や先生は君のお金を増やすことに協力してくれるかもしれないけど、他人は君がお金を増やすことに一切興味がない。むしろ、使ってほしいと思っている。でもいっぽうで、君が世の中のみんなのために何かしてくれるなら、協力しようとする人が現れる。誰の役に立つかを考えたほうが、君のやりたいことは叶いやすくなるよ」ということ。
東原 お金も集まってきますね。
――そう思うと、親も教育として「子ども自身のお金を増やすこと」に注力しすぎている気がしました。
田内 そうですね。自分のまわりでも上手くいっている人は、人に頼るのが上手だったり、かつ周囲のことを考えている人が多いですよね。
東原 結局のところ気持ちが大事だと思います。学歴もお金もある田内さんが言うときれいごとみたいに思われることもあると思うんですけど、そこを素直に信じられる人が、成功していくんだと思います。
田内 人は、ただお金を増やしたいだけの人を応援しないですよね。部活でチームのためにと思うその延長で、子どもたちが社会を感じてくれたらいいですよね。これまでは国が大企業や産業を守ってこれた部分があった。でも、年金ですら自己責任でお願いしますといわれる状況で、もう役に立たない会社は国も守れない、消えていくだけだと思います。これまでは会社に入ったらゴールでしたが、「人の役に立つからお金をもらえる」という当たり前をやっていかなければ、おそらくこれからは生き残っていけないでしょう。
東原 私の家は祖父母が地域でお店をやっていたんです。祖母はよく「これおまけね」とお客さんにサービスしていたんですが、サービスしたお客さんはまた絶対来てくれる。私も会社をやっていて、ノベルティやキャンペーンとか、お客さんに先に還元すると、また買っていただけたりするんですよね。別に立派なビジネスではないけど、お客さんが喜んでくれることを実践していくことが、結果利益にもつながっているんだなと実感していて。
田内 それが立派なビジネスですよ。
東原 あとは、先ほど話したように、家で愚痴を言うよりは、パパとママはこんな仕事をしているんだよという話をたくさんしたほうがいいと思っています。海外は企業のファミリーデーがたくさんありますが、そういうのももっとあったらいいのに。
田内 そうですね、親が背中を見せるのもすごく大事だと思います。どこで習い事させたらいいという話ではなく、結局子どもは親を見ている。キャッシュレス時代になり、お金を払っている感覚もわかりづらいですが、お金に価値があるのは、働いてくれる人がいるから。そこを親が理解して、お金を払う先で感謝の気持ちを伝える背中も見せられたらいいですよね。

田内学

1978年生まれ。東京大学工学部卒業。同大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。ゴールドマン・サックス証券株式会社で16年間勤務。2019年に退社し執筆活動開始。著書に『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)、『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)など。

『きみのお金は誰のためボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』
田内学著、¥1,650/東洋経済新報社

中学2年生の優斗はひょんなことで知り合った投資銀行勤務の七海と謎めいた屋敷へ。そこにはボスと呼ばれる大富豪が住んでおり「お金の『3つの謎』を解けた人に屋敷を渡す」と告げられる。大人も子どもも一緒に読みたいお金の教養小説。

東原亜希

1982年生まれ。モデル、タレント。2002年のデビュー以後、テレビや雑誌で活躍。株式会社Motherを起業し、食品やアパレルの企画、販売を手がける。プライベートでは2008年柔道家の井上康生氏と結婚、2009年より2年間スコットランドに在住。現在4児の母。

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撮影/須藤敬一 ヘア・メイク/KIKKU〈Chrysanthemum〉(東原さん) スタイリング/山本有紀 取材・文/有馬美穂 編集/中台麻理恵
*VERY2024年9月号「東原亜希さんのそれっておかしくないですか?」で先回り美容」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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