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生まれたばかりの自分の子を埋めた母親。その事件の犯人は友人だった―― 幼い頃の淡い思い出と残酷すぎる格差を描いた衝撃のセミフィクション

  • 2024.10.8

この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

本人たちは仲の良い友人であっても、その間には到底越えられないほどの「格差」があることもある。『望まれて生まれてきたあなたへ』(やまもとりえ/KADOKAWA)は、子どもの頃から続く友情と格差を描いた作品だ。

主人公・福永まどかは、医師の家庭に生まれた小児科医。引き継いだ実家の個人医院で働いていたある日、死亡した女児を公園に埋めて遺棄したことで捕まった母親のニュースを目にした。その日逮捕されたのは、職業不詳の川畑望容疑者。彼女は、まどかの小学校以来の友人だった。この物語では、まどかと望がまだ無邪気な子どもだった頃からの思い出を、ゆっくりと振り返っていく。

小学生のまどかは、きれいな洋服を着てピアノ教室に通う恵まれた家庭の女の子だった。支配的な母からの圧力を感じながらも、生活や金銭面で苦労したことは一度もない。一方、望はシングルマザーの貧困家庭で育ち、毎日の家事を担いながら金銭的に苦しい生活を送っていた。本作では、こうした無垢な友情の裏にある残酷すぎる“格差”をまざまざと見せつけられる。

あの頃子どもだったまどかにとって、自分なりの苦悩があった。子どもにとっては、今見えていることだけが現実。他人からすれば、恵まれているように思える環境でも、まどかは自分のことに精一杯で、自分が一番大変で、一番かわいそうだと思って生きていた。

志望していた中学校に受かり将来は東京の大学に進学したいと望に話すまどか。そんなまどかに対し「いいなー」と言う望だが、それに対し、自分の努力なのだからそんな風に言わないでほしいと伝えてしまう。

世の中には、努力すらさせてもらえない環境の子どももいる。だが、恵まれた家庭のまどかには、そうした格差が目に入らない。子どもだからこその残酷さに、思わず心が重たくなってしまう…。「自分は望と違って努力してきたのだ」と話すまどかに対し、望はまるですべてを諦めたかのような無表情を浮かべていた。

環境が変わり疎遠になってもなお、ふたりは友だちだった。成長していくにつれ、より大きくなっていく格差。まどかと望のような人は他にもいるだろう。ふんわり柔らかいタッチで描かれた本作は、そんなどうしようもないほどキツい現実を教えてくれる。

一体どうして、望は子どもを遺棄してしまったのか。望まれて生まれてきた友人が逮捕されてしまうまでのできごとを振り返るまどかの物語を、どうか最後まで見届けてほしい。

文=ネゴト / 押入れの人

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