1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. オーガニックコットンは、本当にサステナブル?

オーガニックコットンは、本当にサステナブル?

  • 2024.10.8

10月7日は世界コットンデー(World Cotton Day)。コットンの持続可能な生産と貿易を通して、社会、経済、そして環境にもいい影響がでるように、コットンを取り巻く現状について認知度を上げる日だ(世界貿易機構(WTO))。

タオルやTシャツなど、私たちの暮らしに身近な繊維、コットン。では、最近、よく耳にするようになってきたオーガニックコットンとコットンの違いって? やや高価ながら人気なオーガニックコットンを選ぶ理由として、「赤ちゃんの肌や敏感肌にやさしいから」「環境にいいから」「サステナブルだから」などと耳にするけれど、でも、それは本当?

オーガニックコットンは本当に地球にも人にもやさしい? オーガニックかそうでないかで、値段が大きく変わるのはなぜ? そんな疑問の答えを探るべく、サステナビリティ・エディターが、コットンを種から育ててみることに挑戦。育てながら実感した大変さや愛おしさも合わせて、オーガニックコットンを選ぶと、なにがサステナブルなのか調べてみた。

オーガニックコットンはどうやって育つ?

■コットン観察日記
5月22日:コットンの種をゲットコットンの種をゲットした日に驚いたのは、種が薄いモフモフに包まれていること。コットンと人類の歴史は、数千年前から現在までつづいているというのに、種を見るのは、これがはじめて。入手した種は、アメリカ産のアップランドコットンで遺伝子組み換えがされていないもの。種は土のなかに入れる前に、水に濡れたティッシュで包み、1日程度、染み込ませるところからスタート。土に入れてからは、様子を確認して「まだかなあ」と確認する日々。すると、4,5日後に、いくつかの種からかわいい双葉がでているのを発見! 約20年ぶりに植物を種から育てる体験に毎日そわそわ&ワクワク。

オーガニックコットンとコットンの違いコットンは、世界の生産量が2番目に多い繊維。Textile Exchangeのレポートによると、2022年に約2,500万トンが生産され、世界繊維生産量の約22%を占めている(ちなみに最も多いのは、合成繊維で全体の約65%を占める)。コットンは繊維になるだけではなく、種子、茎、殻、リンター(コットン種子の表面にある繊維)などの部分からは副産物として、食用油や肥料が得られ、私たちの生活に必要な資源を供給してくれる。

従来のコットンは、収穫までの過程に殺虫剤や化学肥料、枯葉剤が使用されることがほとんど。害虫に耐性ができるよう遺伝子組み換えが行われることもある。遺伝子組み換え作物は殺虫剤使用減によりコストと環境負荷を軽減するはずだったが、カメムシの大発生など予想もしなかったことが起きている。農地や昆虫、さらには野生生物にまで影響を与えるリスクが浮き彫りになった(国連大学, 2010年)。

Women's Health

このようなコットンの育て方による弊害はほかにもある。たとえば、土壌に残った化学肥料が地下水の汚染につながったり、土壌微生物がいなくなり、作物を育てる土壌の力が減少してしまったりすることだ。それは、最終的にそこに住んでいる農家の人々や周辺コミュニティの人々の健康を害することにもなる。一方で、オーガニックコットンは有機農業で育てられたコットンのこと。有機農業とは、遺伝子組み換え技術を使用せず、自然に存在しない化学肥料や殺虫剤も使用しない育て方のことだ。その土地の生物多様性や地域の条件などに適応しながら作物を育てるため、土壌と生態系の健康を維持・促進し、さらには農家の人々の健康も守りうるところが、オーガニックコットンのいい点といえる(Textile Exchange, 2022年)。

また、オーガニックコットン1トンを収穫すると約978キログラムのCO2が排出されるが、それは従来のコットンよりも46%少ないといわれている(The Soil Association, 2015年)。つまり、オーガニックコットンを選択することは、地球温暖化の加速を防ぐことにもつながっている。

猛暑の洗礼を受けるコットン

■コットン観察日記
7月10日:本葉が育ってきた今年の夏は梅雨入りが遅いと思いきや、台風が連続して直撃。猛烈な暑さとともに毎日のように起こるゲリラ豪雨や数日つづく曇り空と、これまでの夏の気候と異なっていて、ちゃんと育つか不安になってしまう。なんだか弱々しい本葉たち。10個の種からここまで枯れずに生き残ったのは、たった4つだけ。「負けるなー!」と声をかける日々。

気候変動に苦しむコットン農家の人々近年では、気候変動の影響でコットンが収穫できない農家もいる。たとえば、雨の降り方に変化が生じ、頻繁に干ばつや洪水が起きているアフリカのオーガニックコットン農家は深刻な被害を受けている。エチオピアでは、洪水によりオーガニックコットンの農地の約半分が失われたというケースもある。

農家の人々は、農地のまわりに植樹して洪水の被害から守ろうとしたり、土の保湿・保温ができるように稲わらやビニールフィルムなどで土壌表面をカバーし、干ばつの影響を軽減したりなど、気候変動に適応するためにさまざまな工夫を試みている(Textile Exchange, 2022年)。メリットはたくさんあるオーガニックコットンだけれども、このように人の手間もコストも非常にかかるので、簡単に育てることはできない。

Women's Health

実際に数字が、そのハードルの高さを物語っている。オーガニックコットンの生産量は2019/20年の249,153トンから2020/21年には342,265トンに増加したものの、同年のオーガニックコットンの市場シェアは、全コットン生産量の1.4%にしか満たない(Textile Exchange, 2022年)。

オーガニックコットンと正式に認められるためには、大体3年以上、農薬や化学肥料を使わないで栽培された農地で育てなければいけない。有機農業は土壌にも農家にも長期的な利益をもたらすが、この転換期の3年間、農家は大きな負担を負うことになる。オーガニックコットンのニーズが増加しているとはいえ、簡単な一歩ではないのだ。

たくさんの人の手がかかって育つコットン

■コットン観察日記
7月30日:葉っぱに異変を見つけたすくすくと育ちはじめ、葉っぱも大きくなってきたコットンたちに、ある日、悲劇が……。それは恐れていた害虫の発生! どうやらとても小さいハエの幼虫が葉にもぐりこんで食べていることから、葉の光合成を邪魔している様子。駆除するには、恐らく葉の先にいると思われる幼虫をピンセットでつぶすのが確実なようだけど、害虫のしわざだと理解した頃には、幼虫が食べ進んだ白い跡で葉がいっぱいになってしまっていたので、葉ごと取り除くことに。同じような被害がほかの葉にも複数でてきてしまったので、本当に本当に、喉から手がでるほど殺虫剤の力を借りたかった!さらなる対策として、成虫になったハエを捕まえるために、黄色のハエとりシートを設置。バッタやクモなどほかの虫が捕まってしまっているのを見つけたときは、罪悪感が……。ごめんね。

コットンを取り巻く労働問題コットン農家の人々は害虫だけでなく、自然と向き合うゆえに立ちはだかるさまざまな問題に、日々取り組んでいる。本来、コットンを育てるためには、畑の掘り起こし、種まき、肥料の散布、水の散布、除草作業、人工授粉、殺虫剤の使用、除草剤の散布、綿花の摘み取り、綿繰り工場への搬入などといった工程があり、たくさんの人の手を必要とする。だから、児童労働や労働問題の温床になりやすい。

Women's Health

たとえば、人工授粉作業はインドでは伝統的に女子児童が行う仕事とされているそう。綿の摘み取りも、人海戦術が効果的なので、多くの女性か児童労働頼みになっている。アメリカでは、その厳しい労働をアフリカから連れてきた黒人奴隷に頼っていた歴史もある。私たちが手にとるコットンが安いのは、そうした背景があるのだ。

オーガニックコットンを選ぶとなにがサステナブル?

■コットン観察日記
8月29日:コットンの花が咲いたしばらくたったある朝に、白い花が咲いているのを発見! その嬉しさといったらなんとも言えない。だけど、花の命はあっという間。咲いた翌日には、きれいなピンク色に変化するものの、すぐしぼんでしまった。なんだか儚い。結局、もともと10個あった種から花をつけたのは2つ、できた実の数はそれぞれ1つ。合計2つという結果だった。コットンを種から育ててみたことで、自然が与えてくれる恵みや条件のみで行う難しさを痛感。だからこそコットン農家の人々への感謝がじわじわと湧いてくるし、服の品質表示を確認して、コットンであろうとなかろうと、それが天然繊維であれば、その一着の服の原料を育む生産者や農家の人々に想いを馳せるようになった。オーガニックコットンを選ぶということは、私にとって、遠く離れた地に住んでいる生産者と間接的にでもつながろうとする試みであり、彼らに感謝を伝える手段かもしれない。

オーガニックコットンがサステナブルといえる本当の理由は?育て方がまったく異なるこの2つのコットン。実はその違いは、製品にしてしまうとわからなくなる。従来の方法で栽培されたコットンでも、残留農薬はとても少ない。そのため、収穫されたコットンのみからオーガニックかどうかを化学的に判別することは現状、不可能(日本オーガニックコットン協会)。つまり、オーガニックコットンでできた製品だから「赤ちゃんの肌にも使える」「肌にやさしい」ということは、誰にも言えないのだ。

Women's Health

殺虫剤や化学肥料の使用をせず土壌の力を守り、温室効果ガスの排出を軽減して育てられたオーガニックコットンを、あえて誰にやさしいのかと聞かれれば、それは恐らく環境とコットン農家にやさしいという回答になる。では、私たち一人ひとりが、どうやって真に有機農業でつくられたオーガニックコットンを見分けることができるだろうか? それを教えてくれるのが、第三者認証制度だ。

オーガニックコットンを選ぶときの目印

Global Organic Textile Standard(GOTS)認証有機農業で栽培された原料を使用し、環境と社会に配慮して加工・流通されたことを示す認証。原料のコットンがオーガニックであることだけでなく、収穫から流通までのすべての過程において環境的・社会的に配慮され、ほかの製品との混合がないように管理されていることの目印になる。また、GOTS認証取得のためには、児童労働、強制労働などの禁止はもちろんだが、コットン農家の生活賃金の計算や生活賃金を支払うための計画の策定が必要となることもポイントだ。

Organic Content Standard(OCS)認証原料から最終製品までの履歴を追跡し、それがオーガニック繊維製品であることを証明する認証。製品の混合や汚染がないように整えられた管理体制、オーガニック繊維の含有率を消費者に保証する基準だ。OCS認証をとるためには、すべての製造過程におけるトレーサビリティの確保が必須となる。GOTS認証同様、第三者の目によって審査がなされる。

これらの認証以外にも「コットン・イン・コンバージョン」「トランジショナル・コットン」「プレオーガニックコットン」などと呼ばれる、オーガニックコットンへ移行期間中のコットンを選択することも、農家を支える手段になる。伊藤忠商事とkurkkuは一人でも多くのコットン農家のオーガニックコットンへの移行を支えるために、プレオーガニックコットン(POC)プログラムを立ち上げた。現在では、このプラグラムを通して、50以上のブランドに移行期間中のコットンや移行期間を終えたオーガニックコットンが使用されているという。ほかにも、パタゴニアでは移行期間中のコットンを購入する動きをウェブサイトで公表し、同コットンを使用した最初のウェアを2020年春に発表している。

元記事で読む
の記事をもっとみる