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山手線の3倍!?オーストラリア沿岸に見つかった「世界最大の単一の植物」

  • 2024.10.6

2022年に地球上で最大と見られる「単一の植物」が発見されました。

西オーストラリア州にある世界遺産・シャーク湾(Shark Bay)の浅瀬には、「ポシドニア・オーストラリス(Posidonia australis)」という海草が、約180平方kmにわたって広がっています。

西オーストラリア大学(UWA)とフリンダース大学(Flinders University)のチームが、その遺伝子調査を行った結果、なんとすべてが単一の個体であることが判明したのです。

これは一体どういうことなのでしょうか?

研究の詳細は、2022年6月1日付で科学雑誌『Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。

目次

  • 4500年前に出現し、勢力を拡大していた
  • 「地下茎」によりクローン増殖

4500年前に出現し、勢力を拡大していた

今回のプロジェクトは、シャーク湾の海草が遺伝的にどれほど多様であるかを理解する取り組みから始まりました。

海草に何種類の植物が生育しているかを知るには、その植物のDNAを調べる必要があります。

そこでチームは、シャーク湾全域から10カ所を選び、P. オーストラリスのサンプルを採取。全サンプルから合計1万8000の遺伝子マーカーを解析しました。

その結果、「すべてが同じ単一の種類である」という驚くべき事実が判明したのです。

つまり、180平方kmに広がるP. オーストラリスはすべて、地下でつながった1つの個体であり、世界最大の単一植物群と見られます。

180平方kmと言われてもどのくらいの範囲か、すぐにはピンときませんが、例えば山手線が囲む内側の面積が63平方kmだと言われています。

そのためこの植物は山手線が囲む土地の3倍近い範囲に広がっていることになります。

シャーク湾は、約8500年前、最終氷期の終わりに海面が上昇したことで誕生しました。

シャーク湾は、栄養分が少なく、海草のストレスとなる水中の光量が多いことで知られます。また、水温の変動が大きく(年によっては17〜30℃の幅がある)、塩分濃度も場所によって2倍ほど違います。

こうした厳しい環境にもかかわらず、P. オーストラリスは適応と繁栄に成功しました。

正確な年齢を特定するのは困難ですが、その規模や成長速度から、シャーク湾での出現時期は約4500年前と推定されています。

では、この厳しい環境で、P. オーストラリスはいかに増えていったのでしょう?

「地下茎」によりクローン増殖

P. オーストラリスの分布範囲
P. オーストラリスの分布範囲 / Credit: Jane M. Edgeloe et al., Royal Society B: Biological Sciences (2022)

P. オーストラリスが他の植物と異なる点として、その巨大さ以外に、染色体の数が通常の植物の2倍であることが挙げられます。

これは、専門家が倍数体と呼ぶものです。

ふつう、植物は両親から半分ずつ染色体をもらい、2本対になった「二倍体」の形をとります。

ところが、P. オーストラリスは受け取る染色体の数が2倍、つまり親からすべてのゲノムを受け継ぎ、複製しているのです(=クローン)。

こうした倍数体の植物は繁殖能力を持たない(不稔)であることが多く、そのままにしておくと、有性生殖(オスとメスの交配)なしに、無限に増殖できます。

これは意外と身近な植物にも見られる性質で、代表的なのはジャガイモです。

では彼らはどうやって自らの複製を作っているのでしょうか? その具体的な方法が「地下茎」です。

地中に向かって茎を伸ばすことで、そこから根や芽が出て成長し、新たなクローンが生まれます。

P. オーストラリスは、こうして勢力を拡大していたのです。

P. オーストラリスの「地下茎」による繁殖法
P. オーストラリスの「地下茎」による繁殖法 / Credit: operation posidonia – How to become a Storm Squad Member

同様の例では、米国ユタ州のカロリナポプラなどが知られていて、こちらも根のつながった単一の木が森を形成しているとされています。

一方で、研究チームは「シャーク湾のような厳しい環境で、これほど大規模にクローン増殖できたのは実に驚くべきこと」と指摘します。

通常であれば、有性生殖により遺伝的多様性を豊かにすることが、厳しい環境や気候変動に適応するのに最良の方法です。

クローン増殖は遺伝的多様性に乏しく、環境変化に対してぜい弱になりやすい傾向があります。

実際、2010年と11年の夏に、西オーストラリアの海岸線を厳しい熱波が襲い、同地の生態系を直撃しました。

ところが、P. オーストラリスは、広範囲にわたって被害を受けたにもかかわらず、すぐに回復し始めたのです。

チームはこれについて、「P. オーストラリスは、180平方kmの範囲にわたり、わずかな体細胞の突然変異(子孫に受け継がれない程度の小さな遺伝的変化)を起こすことで、それぞれの場所ごとの環境変化に適応しているのかもしれない」と考えています。

これはまだ仮説の段階であり、チームは今後、この問題の解明に取り組んでいく予定です。

まとめ

海草は嵐の被害から海岸を守り、大量の炭素を蓄え、非常に多様な野生生物の生息地を提供しています。

そのため、海草群の保全や復元は、気候変動の緩和や生態系の維持にとって不可欠です。

P. オーストラリスは、西オーストラリアの海岸線を守る”巨大なバリア”となっているのかもしれません。

※この記事は2022年6月公開のものを再掲載しています。

参考文献

Scientists Discovered The World’s Largest Known Plant, And It’s Over 100 Miles Long
https://www.sciencealert.com/scientists-discover-the-world-s-largest-plant-it-s-over-100-miles-long

Largest plant on Earth is 4,500 years old: A 180 km seagrass field found to be one immense clonal plant
https://phys.org/news/2022-06-largest-earth-years-km-seagrass.html

Largest known plant on earth discovered at Shark Bay and it’s 4,500 years old
https://www.uwa.edu.au/news/Article/2022/June/Largest-known-plant-on-earth-discovered-at-Shark-Bay-and-its-4500-years-old

元論文

Extensive polyploid clonality was a successful strategy for seagrass to expand into a newly submerged environment
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2022.0538

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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