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「自分をカッコイイと思いながら死んでいく生き方にしたい」注目ブランド「MIKAGE SHIN」とは?

  • 2024.10.7

先日セレクトショップの展示会で目を引いたのは、珍しい手法で染められた一本のデニムパンツ。聞けば日本人の女性デザイナーが手がけている「MIKAGE SHIN」というブランドのものだという。エッジが効いているのに、普段シンプルな服装しかしない人でも着ているイメージがつく、そんな不思議な魅力のあるアイテムが揃うこのブランドについて調べてみると、デザイナーの経歴もとても面白い。そこで今回は「MIKAGE SHIN」デザイナーである進 美影さんに取材をオファー。ブランドに込められた思いや、広告代理店を辞めデザイナーへと転身した彼女自身についてたっぷりと話を伺ってきました。

進 美影/MIKAGE SHINデザイナー。早稲田大学卒業後、一般企業入社を経て2019年にNYのPARSONS 美術大学を卒業。 「個人の知性と強さを引き出す」をコンセプトに、ジェンダーレスブランド MIKAGE SHIN を NY で立ち上げる。2022 年、日本メンズファッション 協会よりベストデビュタント賞を受賞。

着る人をエンパワーメントし、語りたくなる服を作る

「MIKAGE SHINというブランドは2019年10月にニューヨークで創設をしました。その当時からコンセプトは変わらず『個人の強さと知性を引き出す』を掲げています。ジェンダーレス、エイジレス、ボーダーレス、あらゆるステレオタイプにとらわれない服作りをモットーに、個人の自由な創造性であったり、アートや 知的構造とエンパワーメントすることを目標にしています」

織物の名産地である群馬県桐生市に出向き、ラメ糸入りのオリジナルジャカードを糸染めから作りあげ、贅沢に使用したシャツ。シャツ¥70,400 (MIAKGE SHIN)

「個人的に“語れる服であること”が最も大切で、服に生きざまがあることがすごく重要だと思っています。洋服なら一着5,000円でいいものが買えるこの時代に、多くの人が何万円とする服を買う意味は、それがただの服ではなくアートピースだから。やっぱりそこに魂やストーリーが込められていて、手に入れたいと思うような、リスペクトできる服だから購入するんだと思うんですね。そういった服を持っている自分に自信が持てたり、いい服を着ているとそれに見合う人間になれた気がして勇気が出たり、服はそうやって人に対して生きざまを与えられる存在だと思うから。表面的に素敵な服もデザイン面では重要ですが、さらにそれを着ている人の人生をいかに幸せにできるかっていうところを大切にしたいと思っているんです」

一生物の究極のシャツを目指し作られたアイテム。進さんも「これ以上のシャツは作れないかもしれない」という程にこだわり抜かれた逸品。手洗い可能というのも嬉しい。シャツ¥59,400、スカートベルト¥¥66,000(共にMIKAGE SHIN)

一見すごく複雑に見えて、実際は洗練されミニマルに落とし込まれたデザインは、彼女の服作りのプロセスによく似ている。
 
「コレクションを組み立てていくときに、まずはアートや写真、音楽や映画など、あえて非言語的な感覚に頼り、今の自分のムードってどういう感じだろうと考え始めることが多いです。音楽を聴きながら、こういう流れるシルエットの服を着たいなとか、そのときの自分に心地のいいものを探します。そうやって視覚や聴覚など多方面から自分のクリエイティブインサイトを汲み上げて、コレクションに落とし込んでいくんです」

オフィスにはたくさんのアーティストの書物がずらり。

「でもそれらをまとめるには語彙力が必要になります。自分のなかで言葉の表現の幅が広がるほど何を考えてるか的確に伝えることができるから……。やっぱり言語化をすることが大事だなと思うので、本を読んだり、それこそアーティストの図録を読んで言葉を使った表現の仕方を学んでいます。あとは、人とのコミュニケーションが好きでたくさんの人の考え方を知りたいと思うので、なるべく普段からさまざまな人と会話をするようにしています。話をしながら、それぞれの人生の歩き方があるから、じゃあこういう服があるとエンパワーメントできるなと想像を働かせます。外交的な部分と内向的な部分のクリエイティブ、それら全てを自分なりに消化して、毎シーズンひとつに収斂していく感じですね」

ファッション業界のゲームチェンジャー的存在へ

24AWのコレクションのテーマは「ゲームチェンジャー」。 デザイナー自身のムードだけではなく世相も敏感に感じ取り、そのときの社会に必要な服を届けていく。
 
「もともとゲームチェンジャーはスポーツで試合の流れを一気に変えた革命的なプレイヤーに対して使われていた言葉なんですが、 昨今だとITベンチャーを指したり、ビジネスマンにも使われるようになっていて、その言葉の変遷や先駆者のような響きが面白いなとずっと頭の中に残っていました。MIKAGE SHINというブランドは ジェンダーレスをずっと掲げてきて、ようやくたくさんのメンズの方にも着て頂けるようになり、ジェンダーレスブランドとして浸透してきたのですが、洋服を置いてくださるセレクトショップのバイヤーさんには、結局ウィメンズとメンズどっちに商品を置いたらいいのと聞かれることが多くて。ブランドのポジションがこの業界においてずっと浮いてるような感じなんです。ジェンダーレスファッションっていう言葉が浸透してきていても、フラットに性別を織りまぜながら発表してるブランドは少なくて、MIKAGE SHINが、ゲームチェンジャーとまで言うのはちょっと僭越ですけど、ある種特異で異質な存在だよなっていうのをずっと感じていて。じゃあそれを逆手にとって、私たちならではの表現をできたらと思いこのテーマに設定しました」

京都の職人によって独自開発された、世界初の生地デニムボンディングオパールを使用したオリジナルデニム。全ての工程を一人の職人が手作業で行うため、完成までに時間を要する大変希少な生地を使っている。デニム¥66,000 (MIKAGE SHIN)

「ブランドのコレクションを作るときに、 自分のなかでそのとき気になるワードや作品からインスピレーションを受けることも多いのですが、世相や社会のムード、時事なども気にしながら作っています。今このタイミングで作る必要性が本当にある服なのか、時代性も加味していますね。今季のテーマは、AIテクノロジーやデジタル化がどんどん進み、多方面で革命が起きて、ビジネスや社会面もかなりゲームチェンジなテクノロジーの発達が進んでいる今の時代にぴったりだと思いました」

服を通して、人とカルチャーを繋ぐ存在に

ブランドやそれぞれのアイテムに対する底知れない思いは、オンラインサイトのアイテムひとつひとつにつづられたキャプションの熱量の高さからも見て取れる。
 
「私はストレートにファッション業界へ入ったのではない分、知らないことが多いんです。でも服ってこういう生地でできていて、産地はどこであるとか、知れば知るほど面白くて、私以外の人にもそういった体験をしてほしいと思っています。デザイナーズブランドって、アウトプットが違うだけでアートピースだと思っています。なぜならやっぱリスペクトされる作品であるからです。私はさらにカルチャーの器であってほしいと思っていて……。単に可愛いから着るだけじゃなくて、このブランドの今季のコレクション、こういうアーティストから影響を受けているんだ、じゃあその音楽を聞いてみようかな、というように、ファッションを通じていろいろなカルチャーを知ることができる場所だと思うんです。ブランドを訪れた人と、私が面白いと感じたカルチャーを繋げられたらなという思いでキャプションを書いています。服を通して興味が広がっていったら、やっぱりデザイナーの服が存在してる意味があるなと思えるんです」

今回の取材のきっかけにもなった、エフェクト染めという特殊な染め技法を用いて作られたデニムパンツがこちら。デニム¥55,000、シャツ¥55,000、シューズ48,400(全てMIKAGE SHIN)

さらにキャプションを読んでいると、日本の貴重な技術が惜しげもなく取り入れられていることを知り、自分自身がまだ知らない素晴らしい自国の技術に驚かされる。
 
「日本の技術や伝統工芸に目を向けるようになったきっかけは、2017年から2019年までニューヨークのパーソンズ美術大学に通っていたときに、現地の友人に『君は日本語ができるから、日本の特殊な技術を持つ職人さんにリーチできるのはずるい、アドバンテージだ』と言われて。確かに、メゾンのブランドがわざわざ日本の和歌山県のエコファーを使用したり、日本の企業でジャカード織りの生地を作っていたり。日本にしかない貴重な技術を求めて訪れる海外の人が多いことを知り、これらはファッション業界だけでなく、文化圏としても非常に重要な技術なのではと思うようになりました。使われないと、貴重な技術も残っていかないので、私がブランドで使用することで職人さんの技術を残しながら、 自国の貴重なファッション産業にも貢献できたらなと思っています」

ウエディングドレスにも用いられるレースを大胆に使用した美しいシャツ。日本の職人の熟練した技術により生み出されている。シャツ¥55,000(MIKAGE SHIN)

母の一言が後押しとなり世界へ

進さんがパーソンズ美術大学へ入学をしたのは彼女が26歳のとき、当時勤めていた広告代理店を辞め心機一転、海外への道を選んだのだ。幼いころからファッションが好きだったという彼女だが、大学進学時はデザイナーになる自分は想像していなかったという。
 
「小学校6年生くらいでファッションにハマり出して、私服で登校できる高校を受験して好きな服を着て、ファッションライフを謳歌していました。高校は付属の大学以外行く子がほとんどいなくて、美大への進学はもちろん、デザイナーになるなんて考えることもなく。親が起業家だったので、私は家族とのワークライフバランスを取って安定した仕事に就こうと思っていました。大学卒業後は一般の会社に就職したのですが、ふと2年ぐらい経ったときに、自分が誰かが作った服に対して『これはあまりイケてない』とか『これは可愛い』とか批評家気取りで見ていることに気づき、服を作るプレイヤーの方が一番カッコイイはずなのに、挑戦せずにあれこれ言っていることがダサいなと思うようになりました。やりたいことにチャレンジする自分とそうでない自分、どっちをカッコイイと思えるか考えたとき、仕事や年齢を言い訳にして、プレイヤーにならなかったことをダサイと思いながら死んでいくのはすごい嫌だなと思ったんです。どうせなら、自分をカッコイイと思いながら死んでいくような生き方にしたいと思いました。正直、社会人2年目のタイミングで会社を辞めることはすごく勇気が必要でしたが、母に相談をしたときに『どっちの道を選んでも自分で正しくしなさい』と言われて。私はどちらの人生を正解にしたいかって思ったら、やっぱりファッションをやってる自分だなと思い、母の言葉があと押しとなって決断することができました」

「生地は柔らかでゴワつかず、オールシーズン着やすい素材です。防シワ性が高くナチュラルストレッチで、撥水機能が備わっているという機能面も充実したジャケット。ジャケット¥64,900 (MIKAGE SHIN)

そのときの決断があったからこそ、今ではファッション業界が注目するデザイナーの一人となった進さん。今後彼女はどのように歳を重ねていきたいと考えているのだろうか。
 
「 どうしても年齢を重ねていくと、自分が若かったころと今の世代は違うなって思う場面があると思うんです。でもそれだけで片付けたりせず理解する努力をしながら、考え方が古くならないようにしたいなと思っています。いろいろな経験をして分かった信念みたいなものは大切に、でも自分と違う世代の考えも否定せず、新しい価値観を積極的に知ったり吸収しながら、 遊び心がある、ちょっと余裕のある人になりたいと思っています」

【Information】
 
「もしもMIKAGE SHINが架空の◯◯の世界を作ったら?」というコンセプトで、毎月店内の内装やテーマが変わる“MIKAGE SHIN MONTHLY CONCEPT STORE”を月に一度開催! 期間中はデザイナー自らも全日程在廊し、ストア限定発売の新商品も登場します。この機会をお見逃しなく!

MIKAGE SHIN MONTHLY CONCEPT STORE
October
Vol.2 “Halloween Bedroom Party”

日程:10/12(土)-14(月)
営業時間:13:00-20:00(最終日のみ19:00まで)
会場:東京都渋谷区神南 1-9-7 丸栄ビル 101

※予定は予告なく変更される場合がございます。

photograph:KAORI IMAKIIRE text:KOTOMI TAKAHASHI

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