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ラッコのキラとメイに会いに。『ぼのぼの』作者・いがらしみきおと、三重〈鳥羽水族館〉へ

  • 2024.10.7
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ

いがらしみきおさんと考える、海獣たちのいるところ

「のんびりして一切媚びないのが面白いな。1980年代に初めてラッコを見て、そう思いました」と振り返る漫画家のいがらしみきおさん。ラッコと仲間たちが独自の哲学や不条理ギャグを繰り出す漫画『ぼのぼの』の作者だ。

「図鑑で調べたらラッコは海獣だという。海獣というのは水に棲んでいた生き物が進化して、陸で暮らす哺乳類になり、しかし再び海へ戻っちゃった生き物なんですね。陸では安心して眠れなかったのかと胸に迫るものがありました」

そんなラッコと出会えるのが、三重県の〈鳥羽水族館〉。開館は1955年、飼育種類数は日本最多の約1200種だ。特に海獣の飼育には定評があり、早くから力を入れていた。イロワケイルカは37年前、スナメリはなんと61年前から展示を始め、世界で初めてスナメリの繁殖や人工哺育にも成功。日本唯一の展示となるジュゴンは36年間、アフリカマナティーは27年と、世界的に稀少な海獣を長期飼育していることも驚きだ。

「ジュゴンは口の形が独特で、海草をジュピジュピ食べる姿に和んだなあ。海獣を見ると、地球にいる生き物の幅というか、僕らとは違うルールで生きる存在を確認できる。もっと自由に生きていいんだと、希望が感じられるんです」

三重〈鳥羽水族館〉ジュゴン
日本ではここだけで出会える海獣ジュゴン。メスのセレナは推定37歳。鼻の穴の丸いパーツは水面で呼吸する際に内側へ開く。©TOBA AQUARIUM
三重〈鳥羽水族館〉スナメリ
背ビレがないイルカ「スナメリ」は、館近隣の伊勢湾にも生息する身近な海獣。1963年から飼育を始め、人工哺育に成功。この水槽では繁殖個体と野生個体を共存させている。©TOBA AQUARIUM
三重〈鳥羽水族館〉イロワケイルカ
世界最小クラスのイルカ「イロワケイルカ」。1987年にチリから来た3頭に始まり、世代交代を経て現在は4頭を飼育中。写真は親子で子供は2023年に生まれたばかり。©TOBA AQUARIUM

愛くるしいラッコが日本に3頭だけだなんて

「メイとキラを見た時、ぼのぼのが現れた!とびっくりしました」といがらしさんが笑う。ラッコのメイは〈鳥羽水族館〉生まれの19歳、キラは2021年に和歌山から来た15歳。姿も仕草も愛くるしい人気者だ。

23年にはラッコ飼育40周年を迎えた館と『ぼのぼの』のコラボ企画も行われた。が、実は今、国内で飼育されているラッコは3頭だけだという。同館で日本初の赤ちゃんが生まれたのを機にラッコブームが起こったのが1984年。94年には国内28館で計122頭も飼育されていたが、繁殖の難しさやアメリカの輸出禁止策により、メイ&キラと福岡の〈マリンワールド海の中道〉の1頭のみになってしまったのだ。

三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
約8億〜10億本(!)の体毛の中に空気層を作り、浮力を得る。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
前脚を器用に使えるメイ。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
両手を広げるお得意ポーズのメイ。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
両手がぴたりと合うかチェック。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
水槽に潜り、手とヒゲで底を触ってエサを探すメイ。「メイは小さい時からこの訓練をしていたので、今も空腹時に探餌行動をする。だからヒゲが短くすり減っています」と石原さん。キラは潜っても探餌しないのでヒゲが長いまま。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
キャッチした玩具を水槽の壁にガンガン叩きつけるメイ。面白いと思ったらひたすらやり続けるタイプ。

ラッコの寿命は20〜25歳だといわれていて、キラもメイも若くはない。けれどいがらしさんいわく「エサやりを見るたび、身体能力の高さに驚きます。水槽の高いガラスに投げつけられたイカも、すばやくジャンプしてぺろんと取るんですよ」。

この日のエサやりタイムも、玩具で上手に遊ぶキラや二本脚で立つメイに「かわいい~」と観客たち。「かわいいは最強です」とうなずくのは、40年にわたり歴代のラッコたちを見守ってきた名物飼育員の石原良浩さんだ。

三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
「漫画のラッコは擬人化してますが、本当に二本脚で立てるなんて!ぼのぼのが現実化したと思いました」といがらしさん。『ぼのぼの』48巻にはキラとメイも登場。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
キラの手には石原さん手製の玩具。「形によって持ち方を変えることを覚える知育玩具です」。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
同じ指示内容でも飼育員によってサインが違う。「この人の場合は確か……」とラッコに思考させるためだ。

「ただ、エサやりは健康チェックの延長にあるもの。エサを取る時に体の均衡が崩れないか、自分がジャンプし得る距離を瞬時に判断できているかなどを観察するのが目的です。飼育下のラッコは天敵の心配もなく長生きできますが、野生ならば育まれるはずの生き抜く能力や筋力は劣っている。結果、長生きが辛くなってしまうんです。だから無理に体力をつけるのではなく、体力や能力の衰えをできる限り遅らせるためのトレーニングをします。最後の一日まで幸せに生きてほしいから。彼らにとってはここが世界だからです」

そう聞いてトレーニング中の2頭に目をやると、爆笑しているように見えてなんだか頼もしい!

「ラッコにはラッコにしかわからない事情がある。それが尊重されているのが素晴らしいですね。ラッコを見てると、自分が選んだことを信じるシンプルな強さを感じます」といがらしさん。

三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
まるで爆笑しているよう。「普段はソロ行動ですが、2頭一緒だと安心するようですね」と飼育員の石原さん。メイ(左)、キラ(右)。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコ
キラとメイ。
三重〈鳥羽水族館〉ラッコのドーナツ
キラとメイのドーナツ。館内レストランで1個700円。(現在は、販売終了)

ところで、20世紀初めに毛皮の乱獲で絶滅寸前だった野生のラッコが、近年、北海道沖に戻りつつあるという。海の環境は100年前よりも厳しいから、彼らからのSOSがあれば手を差し伸べたい。その時は歴代のラッコたちの飼育で得た体験が役立つと、〈鳥羽水族館〉は信じている。

Information

三重〈鳥羽水族館〉外観

鳥羽水族館

1955年開館、94年リニューアルオープン。日本屈指の大規模水族館。海生哺乳類などの骨格標本や剥製標本も。『ぼのぼの』に登場するスナドリネコも展示。

住所:三重県鳥羽市鳥羽3-3-6
TEL:0599-25-2555
営:9時30分~17時
休:なし
入場料:一般2,800円
HP:https://aquarium.co.jp/

profile

いがらしみきお(漫画家)

1955年宮城県生まれ。5歳で漫画家を目指し24歳でデビュー。『忍ペンまん丸』などの漫画を中心に、ホラー漫画やアニメ映画監督まで活動。86年開始の『ぼのぼの』は、『まんがライフオリジナル』(竹書房)で連載中。
HP:https://www.bonobono.jp/

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