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アラ還が抱える「老い」の恐怖…59歳「老いたシワだらけのくすんだ女」が若見えにこだわる理由

  • 2024.10.5
ネット上では、男女問わずタレントや有名人が「若く見えること」をやたらと持ち上げる風潮が見受けられる。人はなぜ、「若く見えること」に執着するようになったのだろうか。
ネット上では、男女問わずタレントや有名人が「若く見えること」をやたらと持ち上げる風潮が見受けられる。人はなぜ、「若く見えること」に執着するようになったのだろうか。

男女問わず、タレントや有名人が「若く見えること」をやたらと持ち上げる風潮がある。50代から60代、「老い」を感じるこの年代で若見えするのは確かにすごいことだし、もちろん努力もしているのだろう。

昨今、人はやたらと「若く見えること」に執着するようになった。すんなり老いを受け入れてはいけないのだろうか。

「死」より「老い」が怖い

「私、死ぬのは怖くないけど老いるのは怖いんです」

モモエさん(59歳)は伏し目がちにそう言った。来年の誕生日がくれば60歳。だが、肌にはシワがほとんどなく、それこそ「奇跡の59歳」に見える。

「だっていろいろやってますもん。シワ消しの注射に週2回のエステ。そこにすべてをつぎ込んでいるといっても過言ではありません」

結婚して30年。ふたりの子どもたちは独立し、今は夫とふたり暮らしだ。夫も同い年で、夫婦関係は良好……のはずだった。ところが夫は最近、テレビで若いタレントを見ると「いいなあ、若い子は」というようになった。

「暗に私が年とったことを皮肉っているんだと思って。私だって好きで年とったわけじゃないわよと言ったら、『オレだってそうだよ。いいじゃないか、共白髪ってやつで』と。いい夫だなと思うでしょ。でも、やっぱり違うんですよ、男と女じゃ。夫には愛人がいるんです。私は知っているけど知らんぷりしてる」

私は「老いたシワだらけのくすんだ女」

夫は、大きくないとはいえ企業の3代目経営者である。結婚して間もないころから女の影がチラチラしていた。それでもモモエさんは夫を嫌いにはなれなかった。

「生活のためというよりは、憎めないんですよ、夫のこと。浮気してるでしょと何度も責めたけど、そのたび『オレがいちばん愛しているのはモモエだけ』とごまかされる。私や子どもの誕生日にはちゃんとサプライズでお祝いしてくれるし、休日には凝った手料理を作ってくれることもある。

女の影がちらついてもトラブルを持ち込むわけでもない。私は愛されていると思い込むようにしてきました」

ところが夫婦ふたりきりになると、夫は家庭への責任は果たしたとばかり帰宅が遅くなっていった。仕事が忙しいという言い訳が虚しく聞こえる。

「夫の態度が急変したわけじゃないんです。帰宅の遅い日が少し増えただけ。『昔の友だちに会ったり、新たな仕事を作り出したり、これからはもっと自由にやりたい。きみも好きなように生きたほうがいい』と言われました。だけど私はずっと専業主婦で、仲のいい友だちがいるわけでもない。

鏡を覗くと、老いたシワだらけのくすんだ女がこっちを見ていた。それでエステに通うようになったんです」

エステティシャンからヒアルロン酸などの注射がいいと聞き、美容整形にも行くようになった。

妹に「年齢相応を受け入れたらいい」と指摘された

モモエさんには、2歳年下の妹がいる。妹は結婚してひとり娘をもうけたものの、離婚してシングルで仕事を続けてきた。

「この妹がまったく見た目にこだわらないタイプなんですよ。テニスが好きで年中日焼けしていて。でも全然気にしてないのが不思議で。妹は私が見た目ばかりに固執してると言うんです。『年齢相応を受け入れればいいじゃない。エステや注射に頼るくらいなら、そのお金と時間を別の楽しみに使えばいいのに』って。

女としていつまでも若くいたい、きれいでいたいというのは間違いなんでしょうか」

間違いではなく、それぞれの価値観だろう。若さに固執する人もいれば、年齢を受け入れて今を楽しもうとする人がいるということだ。

見た目さえ若ければいいのか?

「妹は、60歳が55歳に見えてもたいして意味ないよねって笑うんですよ。シワもシミも白髪も増えていくだけなんだから、そんなことに抗っても追いつかない。だったら今の状態を保てるようにスポーツでもしたら。これからは見た目より、脳と体を鍛えたほうがいいわよって。でも私、運動苦手なんですよねえ」

運動して筋肉を増やすと認知機能の衰え防止に効果があるとされている。確かに見た目の若さより、脳と体を鍛えたほうがよさそうではある。

「でも私、やっぱり見た目に若くいたいんです。ときおり夫と出かけることがあるんですが、『奥さん、若いですね』と言われると夫もうれしそうにしてるし……。そういうことを言うと、また妹に『自分の尺度より世間の評価のほうが大事なの? 誰のために生きてるの?』と責められるんですが」

アラ還の女性たちにとって、確かに「老い」は恐怖だろう。だが、人はいくら頑張っても若い時代には戻れない。エステも注射も重要かもしれないが、一方で、実年齢から目を背けていては今を充実させることはできないのかもしれない。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

文:亀山 早苗(フリーライター)

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