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ホアキン・フェニックスが役者魂を見せた代表作6選

  • 2024.10.4

『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005)

WALK THE LINE - Reese Witherspoon, Joaquin Phoenix, 2005

グラミー賞を11回受賞した伝説的なカントリー・ミュージシャン、ジョニー・キャッシュの半生を追う伝記映画。ジョニーのミュージシャンとしての栄光と薬物依存など影の部分、妻でシンガーのジューン・カーターとの関係が描かれる。幼少期、兄のリヴァー・フェニックスや妹たちと生活費を得るために路上で歌や演奏をした経験もあるホアキン・フェニックスは、劇中で全曲を自ら歌い、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞とグラミー賞最優秀コンピレーション・サウンドトラック・アルバム賞を受賞、アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた。

偶然にもホアキンは、出演オファーを受ける数カ月前にジョニーと食事会で会い、出演作『グラディエーター』(2000)の演技を絶賛されたという。そんな縁もあり、届いた脚本を読んですぐに「どんな準備をすればいいですか?」とジェームズ・マンゴールド監督に電話したそうだ。ジューン役のリース・ウィザースプーンとクランクイン前に半年間、ボーカル・トレーニングを行ったが、ジョニーの特徴あるバリトンに近づけるのは容易ではなく、バックバンドの演奏はホアキンの声に合わせて高めのキーに変調した。最終的にホアキンは深みのある歌声を習得し、バンドはオリジナルキーで演奏している。トレーニング期間中はリースと気が合わずに衝突を繰り返していたが、苦労をともにしたことで撮影中は互いへの信頼が深まったという。

現場では毎朝、ホアキンは監督に「君はジョニー・キャッシュじゃない」と言ってもらうのをルーティンにしていた。偉大なアイコンを演じるプレッシャーを軽減するためだったが、クルーには自分のことを「JR(キャッシュの本名)」と呼ばせていたそうだ。

WALK THE LINE - Joaquin Phoenix, 2005

そんな役になりきる憑依型のホアキンだが、採用されたアドリブや提案は少なくない。ジューンと衝突したジョニーが控室で激昂するシーンも、そのひとつ。ギターを叩き壊しても気が収まらず、ジョニーは洗面台を壁から引き剥がすが、これは脚本に書かれていない即興演技だった。リアリティを追求するあまり、自らのみならず周囲にも厳しい試練を強いる。1968年に行ったフォーサム刑務所での慰問ライブのシーンでは、囚人役の俳優たちに控室での飲食やトイレに行くことまで禁じ、実際の刑務所のような不穏な空気を作り出そうとした。また、3歳からヴィーガンで熱心な動物愛護活動家としての信念を曲げず、衣装はすべて合成皮革で制作するようリクエストした。

『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010)

I'm Still Here - Joaquin Phoenix, Directed by Casey Affleck, 2010

ホアキンは2008年10月に突然、俳優引退とラッパー転向を宣言した。トーク番組出演時の支離滅裂な言動やラッパーとしてのライブで奇行を繰り返して世間を騒がせていたが、これは当時の義弟で妹サマー・フェニックスの夫だったでケイシー・アフレックが密着取材したという体で作られたモキュメンタリー。「リアリティ番組に台本はない」という世間の認識に驚いたホアキンが、 “ホアキン・フェニックス”という人格を利用してセレブとメディアとの関係を風刺する作品を企画した。これは『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』に通じるテーマでもあり、改めて今見ると興味深い。

ラッパー修行を始めてショーン・コムズの元へ押しかけたり、共演話を持ちかけたベン・スティラーに無礼な態度で接したり、ハリウッドのセレブたちを巻き込んで“ホアキン・フェニックス”の破滅的な生活が、これでもかと描かれる。演じる役に深く没入することで有名なホアキンだが、事情を知らない多くの人は、彼が精神的に追い詰められているのではと危惧していた。

JIMMY KIMMEL LIVE - CASEY AFFLECK, JOAQUIN PHOENIX("I'm Still Here")

2010年9月のヴェネチア国際映画祭でのプレミア上映後、ケイシーが過去2年間のすべてはパフォーマンスだったと明かした。DVDのコメンタリーによると、登場するセレブたちはほぼ全員、事情を知っていたという。ただ撮影現場は劣悪な状況で、2010年9月にケイシーが同作のプロデューサーと撮影監督の女性2人からセクハラで訴えられた。裁判で和解に至ったが、ケイシーは2018年のインタビューで「(撮影現場が)プロフェッショナルではない環境」だったと認めている。撮影手法は批判されたが、2年近くにわたって公の場で偽の自分を演じ続けたホアキンについては、「彼の最も偉大なパフォーマンスのひとつ」などとの賞賛が寄せられた。

ちなみに迷惑を被ったのは、本作撮影中の公開作『トゥー・ラバーズ』(2008)だ。主演のホアキンがプレミアのレッドカーペットで引退宣言し、作品そっちのけで彼の奇行ばかり注目されてしまったが、それでも同作のジェームズ・グレイ監督はホアキンの才能を高く評価し、2013年の『エヴァの告白』にも起用している。

『ビューティフル・デイ』(2017)

© Amazon /Courtesy Everett Collection
YOU WERE NEVER REALLY HERE - Joaquin Phoenix, Ekaterina Samsonov, 2017. © Amazon /Courtesy Everett Collection

第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞とともに主演のホアキンが男優賞を受賞し、カンヌ史上稀な同一作品の複数受賞を果たした。リン・ラムジー監督は、脚本執筆段階からホアキンを念頭に置いていたという。主人公のジョーは、人身売買の被害者救出と加害者殺害も請け負うプロフェッショナルで、上院議員の10代の娘ニーナの捜索を依頼される。ホアキンは、元軍人でFBI捜査官という過去をもつジョーが、PTSDと薬物依存に苦しむリアリティを追求し、増量して不健康な体型にヒゲだらけの風貌で登場する。

原作小説の主人公はゴム手袋など多くの道具を使用するが、ホアキンはリアルさを保つためにそうした道具を排除することを提案した。一方、監督は「これがジョーの脳内で起きていること」と言って、花火の打ち上げに銃声の混じった音声ファイルを渡した。2人とも言葉を駆使するより本能的なアプローチをするタイプで意気投合し、29日間という短期間で撮りながら脚本をリライトする切迫した状況にもかかわらず、監督は即興を繰り返すホアキンが心ゆくまで演じさせた。

そのひとつが、ジョーが倒した男の隣に横たわり、ラジオから流れる「愛はかげろうのように」を口ずさむ場面。未使用カットは、映画3本分にもなるほどで「創造的な嵐」になったと語っている。ちなみに本作は、カンヌ国際映画祭で上映される数日前にようやく仕上がるという綱渡りな状況だった。

『ジョーカー』(2019)

JOKER - Joaquin Phoenix as Arthur Fleck / Joker, 2019.

バットマンの宿敵として知られるジョーカー誕生を描き、ホアキンがアカデミー賞主演男優賞を受賞した。コメディアン志望のアーサーが抱える深い孤独と狂気を表現するため、ホアキンは徹底的な準備を行った。まずは52ポンド(約24キロ)の大幅な減量。食事は、レタスや蒸した野菜という過酷なダイエットと毎日の体重測定で強迫観念にかられ、精神面に大きく影響したそう。身軽になったことで身体表現も変わり、そこから独特の走り方や即興で演じたバスルームのダンスなどが生まれた。

強烈なインパクトを与えるジョーカーの笑いについて、トッド・フィリップス監督から「痛みを伴うものとして表現してほしい」と要望があり、緊張やストレスによる制御不能な病的な笑いについて学んだ。症状に苦しむ人の映像を参考に、不安をかき立てる笑いを完成させたホアキンは、観客が共感できないキャラクターを目指したとも語っている。

JOKER - director Todd Phillips, Joaquin Phoenix, on-set, 2019.

ジャック・ニコルソンやヒース・レジャーなど過去のジョーカー像には頼らず、独自の解釈で完全に新しいキャラクターを作り上げることに集中し、劇中に登場する日記も自ら書いた。ノートを手渡された当初は監督による案を記していたが、数日経つと役に没入して自発的に綴っていたという。無声映画のバスター・キートンや『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)のティム・カリー、そしてミュージカルスターでもあるレイ・ボルジャーのダンスなどが、インスピレーションの源となった。撮影中は役になりきるあまり、冷静さを失って共演者たちを困惑させた。共演のロバート・デ・ニーロだけは彼の状態を理解し、無駄話をせず互いに役に徹していたそうだ。

『ナポレオン』(2023)

NAPOLEON - Joaquin Phoenix as Napoleon Bonaparte, 2023.

初めてオスカー候補(助演男優賞)になった『グラディエーター』(2000)のリドリー・スコット監督と23年ぶりの再タッグで、軍事独裁政権を確率したフランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトを演じた。大作『グラディエーター』の撮影は、低予算作出演が多かった20代のホアキンにとって強烈な体験で、スコット監督ともう一度仕事したいとう念願を叶えた『ナポレオン』だが、それだけにプレッシャーも大きかったようだ。

カリスマ的な実在の人物を演じるのも初めてではなかったが、クランクイン2週間前に「どう演じていいかわからない」とスコットに訴えた。そこには、ナポレオンを天才的な将軍という一面だけで表現したくない思いがあったようだ。

NAPOLEON - Joaquin Phoenix as Napoleon Bonaparte, Vanessa Kirby as Empress Josephine, 2023.

ホアキンと膝を突き合わせて10日間かけ、1シーンずつ細部まで話し合ったスコットは「リハーサルをしたようなものだ」と『エンパイア』のインタビューで語っている。それでもまだ安心できなかったのか、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)や『ザ・マスター』(2012)のポール・トーマス・アンダーソン監督に脚本をリライトさせないと降板すると言い出した。完成作のクレジットにアンダーソンの名前はないが、製作側がこの要求に応じたことは、今年8月にホアキンがトッド・ヘインズ監督による主演作を製作開始直前に降板した際の報道で明らかになった。

スコットによると、ホアキンは非常に直感的で、気になったことはすぐに質問してくるという。「我々は、彼がボナパルトがどんな人物だったかに集中できるように映画を解体した」と製作過程を振り返り、ホアキンのあくなき探究心が「すべてをより壮大に、良くしてくれた」と評価している。

『ボーはおそれている』(2024)

BEAU IS AFRAID - Joaquin Phoenix, 2023.

『ミッドサマー』(2019)のアリ・アスター監督作で、急逝した母の元へ向かう精神不安定な息子ボーを描くシュールなホラーコメディ。劇中、ボーは悪夢のような災難に見舞われ続ける。ボーは腹部に負傷している設定だが、ホアキンは自分の演技に納得できず、撮影期間途中から約11週間、ずっと紙を束ねるクリップを腹部に留めて演じた。手の怪我についても同様に、包帯の中に鋭利なピンを仕込み、動かすと痛みを感じるようにした。映画を製作したA24のポッドキャストで、ホアキンは「撮影終了の頃には慣れてしまったので、小道具係にマジックテープで補強してもらった」と話している。

だが、この痛みは肉体的にかなり酷なもので、撮影の最終週に母親(パティ・ルポーン)とのシーンの撮影中にセットで失神してしまったほど。パティがメインのショットだったが、彼女の演技を助けるために立っていたホアキンが突然フレームの外に消えたという。アスター監督はそれまで、ホアキンが「どれだけ体に負担をかけて疲弊していたかに気づいていなかった」と後悔しきりだった。

映画の序盤、ボーがバスタブに入っているシーンでは、アスター監督にワンテイクでの撮影だと告げられたホアキンが「ちゃんとやらなければ」とパニックになり、不安を解消するために撮影直前に絶叫し始めたそうだ。ホアキン本人は「人にどう思われるかをコントロールしようとしていた」「自分に恥をかかせなければならないから、ただ叫び始めた。なぜかわからないけれど、そうする必要性に駆られたんだ」と説明している。

BEAU IS AFRAI - Joaquin Phoenix, director Ari Aster, on set, 2023.

撮影中にアスター監督との議論がヒートアップして、周囲に緊張が走ることもしばしばあったが、共演したネイサン・レーンによると、そんな状況になるたびに「ホアキンは私たちのところに来て、『すみません。僕らはお互いが大好きだし、彼は私のブラザーです。この仕事にすごく情熱を注いでいるだけなんです』と説明してくれました」とのこと。ネイサンは、暴漢に襲われたボーが身を寄せる家の主、ロジャーを演じている。共演シーンの撮影時、ホアキンは彼を見ると、なぜか笑いが止まらなくなってしまい、ロジャーの妻役のエイミー・ライアンは「このシーンの撮影は絶対に終わらない」と危惧したそうだが、本番になると一瞬にしてホアキンは役になりきったという。

Text: Yuki Tominaga

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